研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.4高校卒就職に「オンライン就活」は広がるのか──古屋星斗

2020年6月にコロナショック下における高校生の就職・採用について4つの政策提言を行った(「どうなる?コロナショックと高校卒就職。リーマンショックから考える4つの提言」)。この提言の一つに「オンライン活用のルールや環境づくり」がある。大学卒等の就職において、急速に企業のオンライン対応が進み、今や面接の7割がオンラインで実施されるなか、高校生にもそのチャンスを広げていくために必要な手立てとして提言したものである。そして本年8月27日には厚生労働省より、「オンライン面接実施にあたってのお願い」というリーフレットが採用企業向けに発出され、一定のルールを当局が示した形となった。
(下:厚生労働省が発出したオンライン面接に関するリーフレット)
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大学卒就職のオンライン面接は10倍に

コロナショックにより大学卒就職においては「オンライン就職元年」とも言うべき状況となっている。大学卒については様々な調査があるが、例えばマイナビの調査(※1)によれば2020年5月の緊急事態宣言下における大学卒就職の面接のうちWebでの面接実施率は実に94.7%であった。また、3~7月累計でも72.4%となっている(※2)。また、リクルートワークス研究所の調査 (※3)によれば、大学卒採用を行っている企業のうち、56.8%がオンライン面接・Web面接を本年6月時点で導入していた。コロナショック以前から導入していた企業は5.6%であり、面接へのオンライン活用の動きは10倍の規模になっている。大手企業では88.2%、中小企業に限定しても30.7%が導入している(図表1)。なお、高校生の4割が就職する製造業でも62.2%は導入済みである。

図表1:大学・大学院卒におけるオンライン面接・Web面接の導入状況
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こうした結果として、大学卒就職にかかる平均費用(3~5月)は前年2020年卒の89,415円から2021年卒では28,930円へと3分の1以下となっており(※4)、地方学生の「就活格差」問題の解消に寄与しているという見方がある。また、オンライン就活に対しての学生の感想が、「オンラインで就活をした経験が増えれば増えるほど肯定的になっていく」ことも指摘されている(※5)。オンラインで採用活動をした企業に話を聞くと、学生の適応力に驚く声を聞くことができる。

高校生採用企業における導入率は52.7%

大学卒就職のオンライン化が急速に進展したなかで、高校卒就職におけるオンライン活用は進んでいない。その理由には、「面接回数が事実上1回に制限されている」「生徒に企業情報を伝える媒体が求人票以外にほとんど存在しない」「多くの高校において通信環境が貧弱」といった様々な理由がある。
しかし、面接以外にも就職活動プロセスの、説明会・社員との懇談、適性試験・選考、果てはインターンシップまで、あらゆることがオンライン化されていくなかで、高校生の就職にも活用できることは多い。また、いまだ新型コロナウイルス感染症の収束が見通せないなか、生徒が集まる今年度の入試の面接などは中止となっている。「高校生の就職面接会場でクラスターが発生する」といった“悲劇”を起こさないためにも、就職活動のオンライン化は現在の日本社会にとって常にありうる選択肢であることを忘れてはならない。
実は、高校生を採用する企業には、オンライン面接の設備もノウハウもある、ということがわかっている(図表2)。

図表2:2021年高校卒採用予定企業を対象とした、オンライン面接・Web面接導入割合
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2021年卒の高校生の採用、つまり今年10月16日開始の選考で高校生を採用する予定のある企業のうち、52.7%が大学卒採用においてオンライン面接・Web面接を導入済みである。つまり、過半数の企業がオンライン面接に必要な設備投資を完了しており、オンラインで採用するためのノウハウを保有している、ということだ。

どういったことが可能か

もちろん、高校生の採用にあたっては、学業阻害を考慮して「選考を1日で完了させる」というルールが存在している。このため、事実上1回しかできない面接をオンラインでする=オンラインで内定を出す、ということに抵抗がある企業も多いだろう。
 しかしながら、面接以外の就職プロセスを含めれば活動できる潜在性は大きい。既に、高校生の就職プロセスにオンラインを活用する動きについては、以下のような事例が存在している。

◎オンラインで職場見学を行う。ビルの管理を行う職種について、職場となる現場を中継しつつ、実際の仕事の様子を見た上で、先輩社員のインタビューや、質問時間などを設けて実施する。
◎オンラインで会社説明会を行う。中継で放送を行う際には質疑応答をチャット機能なども活かして実施、終了後は録画を配信していつでもどこでも希望者が見られるようにする。
◎LINEなどのメッセージアプリを介してキャリアコンサルタントが進路相談や面接指導等を行う。
◎学校と企業が事前に打ち合わせの上、生徒が学校においてオンライン面接を行い、内定を獲得する(2020年卒の生徒の事例)

このほかに、高校1・2年生時のキャリア教育やインターンシップのオンラインでの実施に取り組んでいる団体もある。こうした取組を行ったことのある学校や企業が口を揃えて言うのは「高校生は普通にオンラインで就職活動ができる」ということである。
私たちが留意しないといけないのは、高校生のオンライン就職活動のボトルネックになっているのは、高校生当事者ではなく、学校の通信環境やルールの未整備といった、“大人の世界の問題”であるということだ。
上のような事例が蓄積されていくことによって、オンラインを活用する高校生採用企業は増えていくだろう。多くの採用企業には既に、オンラインで採用するための設備もノウハウも存在しているのである。

(※1)マイナビ, 2021年卒 学生就職モニター調査 7月の活動状況
(※2)マイナビ, 2021年卒 学生就職モニター調査 5月の活動状況
(※3)リクルートワークス研究所,2020,第37回ワークス大卒求人倍率調査(2021年卒)
(※4)マイナビ, 2021年卒 学生就職モニター調査 5月の活動状況
(※5) リクルートキャリア就職みらい研究所,2020,就職プロセス調査