研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.4テレワークはアフターコロナも定着するか──ケイコオカ

「コロナ渦」で注目された働き方―テレワーク

2020年、日本をはじめ世界各国は、新しい挑戦を強いられることになった。言うまでもなく、新型コロナウイルスとの闘いである。過去20年を振り返ると、2003年のSARSや2012年のMERSなど、ウイルスの流行はけっして珍しいことではない。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症のインパクトはSARSやMERSとの比ではなく、私たちの生活様式を変えるほど大きく、また、長期にわたるものになりそうである。「ソーシャルディスタンシング」という耳慣れない言葉が日常的に飛び交い、風邪やアレルギーがなくてもマスクをして外出することがスタンダードになり、企業も店舗も人間も、変化への対応を強いられている。
そうしたなかで注目を集めたのが「テレワーク」である1)
テレワークはそれほど新しい働き方というわけではない。約30年前の1991年に現テレワーク協会の前身である日本サテライトオフィス協会が設立しており、その当時、新しい働き方としてメディアでも紹介されていた。

情報通信技術の発展とインターネット利用の浸透によって、職種によっては、機器さえそろえばどこでもいつでも仕事ができる時代になってきている。特に、今回のようなパンデミックによって外出が制限される時には、企業と働き手の両方によってテレワークという働き方が便利になる。厚生労働省が、働き方改革推進支援助成金に新型コロナ対策を目的とした取組みを行う事業主を支援する特定コースを時限的に設けてテレワークの導入を推奨しているほか、東京都も事業継続緊急対策(テレワーク)助成金を設置するなど、テレワーク導入への支援体制は広がっている。

日本の企業におけるテレワークの導入率は、1999年にはわずか0.8%だったが、2019年には20.2%にまで増えている(総務省通信利用動向調査)2)。政府は労働人口減少対策、生産性向上の手段として、テレワークを推進しており、2020年のテレワーク導入企業率を2012年の11.5%比で3倍の34.5%にしたいという目標を掲げている。目標達成は厳しいように思われていたが、ここ数カ月の間にテレワークを導入する企業が一挙に増えた。東京商工リサーチの調査によると、新型コロナウィルス感染対策のために、在宅勤務を「実施した」企業は55.9%(2万1,408社中、1万1,979社)であった。企業規模別では、大企業の83.3%(3,302社中、2,752 社)が「実施した」のに対し、中小企業では50.9%(1 万8,106社中、9,227社)にとどまっているが、これは社内インフラの整備、人員充足度などの違いが 背景にあるとみられる ※3。気になるのはパンデミックが収束した後に、テレワークがそのまま定着するかどうかである。

図表1:企業におけるテレワーク導入率(%)
oka01.jpg出所 総務省「通信利用動向調査」各年

米国におけるテレワークの実態4)

米国の状況を見てみよう。米国では、オバマ大統領の時代の2010年に連邦政府がテレワーク強化法を制定して連邦公務員のテレワーク普及に着手しているが、民間企業もフレキシブルワーク制度の一環として、従業員の在宅勤務やモバイルワークを認めているところが多い。

米国労働省労働統計局が2018年に行った調査では、賃金労働者約1億4,400万人のうち、約4,200万人(29%)が在宅で就労することが可能であると回答し、賃金労働者の25%にあたる約3,600万人が実際に在宅で就労したことがあると回答している。また約2,100万人(15%)は、就労がすべて在宅であったという5)。職種別にみると、在宅就労したことがある割合が最も高かったのは管理・ビジネス・金融関連職で、51%が在宅で就労したことがあると回答しており、次いで割合が高かったのは、専門職である(38%)。一方、設備・修理・修繕関連職、建設・採石・採取関連職、サービス関連職、生産関連職、運輸関連職はいずれも10%未満と在宅就労の割合が低い。

米国でも、新型コロナ対策としてテレワークを導入した企業は多く、ブルッキングス研究所は米国の労働者の約半数が在宅就労していると見積もっている。また、同研究所は「アフターコロナ」においてもテレワークを継続する企業や個人が多いと予想している(※6)。テクノロジーの発展で、テレワークができるインフラはほぼ整っていたが、実際に導入するにはそのための特別なテクノロジーと労務管理システムを導入する必要があるため、大掛かりなテレワーク導入に踏み切る企業は予想されるほど増えてこなかった。しかし、今回のパンデミックによりテレワーク導入のための投資をせざるを得ず、これまでテレワークと無縁だった企業や労働者がテレワークを実際に行い、その利便性と可能性が想像以上に大きいことを実感しているのだという(※7) 。

テレワークの限界と可能性

テレワークの可能性への期待が膨らむ一方で、テレワークには限界があることも忘れてはならない。テレワークを導入したくても、仕事の性質上、それができない業種や職種がある。全米経済研究所によると、完全に在宅でできる仕事は全体の37%にすぎない(※8)。教育サービス、専門・科学・技術サービス、企業経営管理、金融・保険、情報通信といった業種では仕事の70%以上が在宅でできるが、宿泊・飲食サービスや農林水産・狩猟といった業種では在宅でできる仕事は10%にも満たないという。つまり、すべての仕事がテレワーク対象にはならないということである。

図表2:業種別在宅就労が可能な仕事の割合
oka02.jpgSource: Jonathan I. Dingel and Brent Neiman, “How many jobs can be done at home,” NBER Working Paper 26948, April 2020. https://www.nber.org/papers/w26948.pdf

そのような限界があったとしても、テレワークが可能な業種や職種においてテレワークを促進することで、企業や労働者にメリットがあるのは確かである。米国ではテレワークを希望する人が勤務時間の半分をテレワークに切り替えることができれば、企業は年間6,890億ドルを節約できるという試算が出ている(※9)。テレワークによってワークライフバランスの環境が整いやすくなる。テレワークによって通勤時間が短縮・削減されると、それに伴うガソリン代の節約や温室ガスの削減も期待できる。そして、何より、テレワークを含めて柔軟な働き方が可能になれば、これまでさまざまな理由や事情で働く機会に恵まれていなかった人が働ける可能性が出てくる。労働力人口を確保する手段としても、テレワークの推進は不可欠になってくるだろう。

図表3
oka03.jpg出所 総務省ウェブサイト「テレワークの推進」https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/より作成

(※1) 日本テレワーク協会によると、テレワークとは、情報通信技術を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことで、働く場所によって、在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務、の3つに分けられる。
(※2) 企業のテレワーク導入率は増えているが、テレワークを実施したことがある人の割合は10%にも満たない。総務省の2019年通信利用動向調査によると、企業等に勤める 15 歳以上の個人のうち、テレワークを実施したことがあると回答した個人の割合は 8.5%であった。
(※3) 東京商工リサーチ第4回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査(2020年)https://img03.en25.com/Web/TSR/%7B67c4270f-694f-4e54-8fba-a2bde917e296%7D_20200515_TSRsurvey_CoronaVirus.pdf  (last visited June 14, 2020)
(※4) 米国ではテレワークと同じ意味でテレコミュートという用語がよく使われるが、ここではテレワークで統一する。
(※5) U.S. BLS, “Job Flexibilities and Work Schedules Summary,” September 24, 2019. https://www.bls.gov/news.release/flex2.nr0.htm  (last visited June 14, 2020)
(※6) Brookings, “Telecommuting will likely continue long after the pandemic,” April 6, 2020. https://www.brookings.edu/blog/up-front/2020/04/06/telecommuting-will-likely-continue-long-after-the-pandemic/ (last visited June 14, 2020)
(※7)ただ、テレワークへの適応性は人によって違うため、すべての人にとってテレワークが最良の選択肢であるというわけではない。テレワークを制度として定着させるためには、テレワークを選択しないというオプションやテレワーク可能な勤務時間の設定などを含め、労働者にある程度柔軟な選択肢を準備しておく必要があるかもしれない。
(※8)Jonathan I. Dingel and Brent Neiman, “How many jobs can be done at home,” NBER Working Paper 26948, April 2020. https://www.nber.org/papers/w26948.pdf  (last visited June 15, 2020)
(※9)JFlexjobs, “2017 State of Telecommuting in the U.S. Employee Workforce,” 2017