研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.3外国人留学生は若手採用難の時代の“救世主”たりえるか 古屋星斗

若者減少社会のなか、増え続ける外国人

本格的な人口減少社会を迎えるなか、政府や経済界では外国人受入れの要件緩和の議論が始まっている。我が国における外国人労働者は2012年の約68万人から、2017年には約128万人へと5年間でプラス60万人となっている。
こうした増加は、技能実習(12万人増)や、留学生のアルバイトなど(19万人増)が含まれているものの、正規の雇用関係があるような外国人労働者も含めた増加傾向にあることは間違いがない。更に、今後本格的な減少局面に入ることが確実である若年人口(18歳人口はこの10年ほど120万人で安定しているが、2030年頃までに90万人台まで減少)に関して言えば、高等教育機関への留学生も2012年から2017年で14万人から19万人へと5万人増加している。

さて、大学や大学院といった高等教育機関への外国人留学生の増加は、人材不足に悩む日本企業にとって救世主になる可能性がある。留学生の日本国内就職率は35.2%(2015年) であり、近年の当該就職率は上昇傾向にある点を見ても、まだまだ向上の余地はある。

今回は、日本企業の外国人採用、特に新卒採用に焦点を当てる。新卒における外国人採用は人口減少社会、特に若者が減少していく社会における解決策になりえるのであろうか。大企業でも同期に外国人がたくさんいる、という状態は稀少であろう。外国人の新卒採用 の進み具合の実態を整理したい。

外国人採用比率は1%台

新卒採用全体における外国人の比率を見てみたい(図表1)。
データのある2013年からの5年間ほぼ横ばいで、1.5~1.9%程度となっており、この間の外国人労働者や留学生の増加と比較すると非常に小さな変化に留まっていることがわかる。例えば外国人労働者数は直近5年間で約68万人から約128万人へとおよそ倍となっており(2012年→2017年)、その差は明確である。

図表1:新卒採用における外国籍学生採用数比率(横軸は卒年)item_works03_furuya04_furuya09_01.jpg注:大学・大学院卒相当、正規社員として採用されたもの

ほぼ横ばいの全体トレンドの中に潜む変化を探るため、業種別に整理したものが図表2である。

図表2:業種別 新卒採用における外国籍学生採用比率(2018年卒時点)と上昇率(2013年卒→2018年卒)item_works03_furuya04_furuya_09_02.jpg注:縦軸 2018年卒の外国籍学生比率 / 2013年卒の外国籍学生比率 で算出した上昇率
横軸 2018年卒の外国籍学生比率

縦軸は5年間の上昇率であり、いわばどれくらい外国人留学生採用を加速しているのか、を表している。図表1で見た通り、全体として伸びは大きくはないが、業種別で整理すると伸び率で20%程度~250%程度まで大きな広がりがあることがわかる。横軸は2018年卒の外国人比率であり、直近の採用における外国人の占める比重を示している。
図表2にマッピングすると、大きく4つの分類に分かれていることがわかる。

(1)Aグループ(飲食店・宿泊業) 比重・上昇率ともに高い。
飲食店・宿泊業では外国人観光客需要の急激な高まりから著しい人手不足にある。その中で、中国語などの外国語が堪能な外国人採用を活発化している状況が顕在化している。特に、飲食店を中心に留学生アルバイトの活用が盛んであり、アルバイトからの社員登用の仕組などを取り入れていることで新卒採用にも影響が波及しているものと考えられる。

(2)Bグループ(製造業、建設業、情報通信業) 比重・上昇率ともに平均よりやや高いか平均付近
元々外国人採用を一定数行ってきた業種である。特に、製造業・建設業では技能実習等も含め雇用関係に閉じない外国人活用が広がっているため、外国人を採用して活用できる環境が存在しているものと考えられる。また、製造業では海外進出のため本社でも一定数外国人を採用しようというニーズがあったことも好影響を与えている。情報通信業では、ITエンジニアの需要が拡大し、日本人だけでは充足しない状況から、韓国等の近隣国で採用しようという動きも顕在化している。

(3)Cグループ(医療・福祉、運輸業、小売業) 比重は低いが上昇率は高い
人手不足の深刻化の中で近年外国人採用を活発化させている業種である。比重は平均以下であるが、近年の伸びは急激である。医療・福祉、運輸業は資格が必要な職種が多いが、近年は要件を緩和して採用後の資格取得を支援する仕組みを持つ企業も多く、こうした取り組みは外国人にとっても魅力に繋がっていることと考えられる。小売業は、インバウンド需要により多言語人材を非正規から正規雇用に切り替えており、新卒にも波が押し寄せている。

(4)Dグループ(金融・保険業、不動産業、卸売業、その他サービス業) 比重低く、上昇率も100%より低い
外国人活用が進んでいない業種である。特に金融・保険業は近年の新卒採用ニーズ自体の縮小傾向の影響があるなか採用数全体も減少しており、さらに2013年と2018年との外国人採用比率を比較すると大きく低下傾向にある。

特にCグループの業種の存在が重要であろう。やむにやまれず、外国人採用に着手しているこうした業種の企業では、外国人を育てる仕組みが整っていない可能性が高い。ただし、今後現在の傾向が継続し外国人新卒採用が進めば、外国人がこれまで少なかっただけに、活用の余地は十分にあり、"救世主"たりえる可能性がある。

中小企業と超大企業の意外な共通点

もう一つ、企業規模の違いに触れたい。中小企業(300人未満)と超大企業(5000人以上)において、2015年以降、外国人採用比率がそれぞれ2018年卒採用において、2.31%(中小企業)、2.48%(超大企業)と近い水準となっており、その中間の大企業との間で傾向の差が生まれている(図表3)。中小企業と超大企業について、採用比率は近いがその原因については全く異なるだろう。中小企業の問題意識は人手不足であり、その解消のために外国人を採用して補完しようとしている。超大企業は事業戦略上のニーズ(海外事業展開に伴う人材需要など)から採用を行っていると考えられる。

図表3:企業規模別 新卒採用における外国籍学生採用比率推移(卒年)
item_works03_furuya04_furuya_09_03.jpg

このように、中小企業や、医療・福祉・運輸業等の人手不足業種においては、外国人留学生の採用が加速している。今後この動きが更に進み、新たな若手人材採用源となる可能性は十分にある。しかし、これまで活用が進んでいなかった企業では、体制が十分でないまま受け入れざるを得ない状況となっていることに留意する必要がある。こうした企業群に対しては、単なるマッチングだけではなく、その後の定着の支援や育成のサポートなどを行うことが、留学生を日本企業での真の戦力にするために必要な方策であろう。

いま、日本の企業社会は、正規雇用で外国人を活用するための、最初のステージに立っている。今回整理したように100人に1人程度の外国人であれば、"日本人の新卒と同じ体制"で受け入れることができる。しかし、我々が最初のステージからもう一段上がるためには、更なる受け入れ体制が必要となる。この方策を検討することが、中小企業のような若手不足にあえぐ日本企業への処方箋への第一歩となるだろう。

※1)(独)日本学生支援機構、「平成27年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果」
※2)本コラムの図表で整理しているデータは新卒採用における"外国籍学生"の採用数を集計したものである。このため、日本への留学生以外にも、本国の大学の日本語学科等を卒業した外国人学生を企業が採用するケースも含まれる
※3)以下のデータは、リクルートワークス研究所、「大卒求人倍率調査」における個票データを筆者が集計したものを掲載している

古屋星斗

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