研究所員の鳥瞰虫瞰人事部が「バブル世代」に本気で向き合うとは? 清瀬一善

いわゆる「バブル世代」(1967年~70年生まれで、1990~93年頃に大学を卒業し、社会人となった世代)については、大手企業の人事パーソンの間で、古くから話題にされてきた。その理由は、この世代の大卒者のうち、実に6割近くが、従業員規模1000人以上の「大手企業」に入社したことから、各社の人員構成上、大きなボリュームゾーンとなっているためである。

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しかしここ1、2年で、各社の「バブル世代」への対応の真剣度が大きく高まってきたように感じる。その理由は、おそらくこの世代が年齢的にも「ミドル」となり、「ミドルマネージャー」への任用適齢期を迎えたものの、社内に相応の活躍の場を見つけることが難しくなってきたからではないだろうか。

課長になるのも難しいバブル世代

バブル崩壊直後の1992年、大手企業で働く大卒者にとって、管理職ポストに就くのは現実的な「目標」となりえた。なぜならば、当時は、40代前半では51.1%が、40代後半では66.5%が課長以上のポストに就くことができていたからである。つまり、頑張って働き続けていれば、「誰でもいつかは課長になれる」と信じられたし、先輩や同期の昇進状況を見ていれば、ある程度それを実感できたのである。

しかしながら、その後の「失われた20年」で、状況は一変する。ほぼすべての世代で、管理職比率は10%以上下落したのだ。バブル世代が含まれる40代で見ると、40代前半で30.4%、40代後半でも 44.7%と、同世代で課長になれるのは半数以下という厳しい状況になっている。

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加えて、ここ20年で「部長代理」や「担当課長」など、部下を持たない「みなし管理職」の比率も増加したことから、 もはや「いつかは課長になれる」を信じることは不可能になったのだ。この事実は、日本の大手企業が、昇進や昇給という伝統的な手法を用いて社員のモチベーションを維持・向上させることはできない局面に来たことを示している。

「企業と個人の関係」については、1990年代後半から、「企業は個人のキャリアにとってのベストの解を知っていて、キャリアに関わる全てを決定するが、個人はそれに従うことで、企業から庇護を受ける」という「大人と子どもの関係」から、「企業と個人が対等な立場に立ち、相互が貢献できる部分で貢献しあうことを通じて、ともに高めあう」という「大人と大人の関係」にシフトすべきだとの主張が繰り返されてきたが、今まで本質は変わってこなかった。

しかしいよいよ、企業は社員に対して正直に真実を告げるべきタイミングに至ったのではないかと感じる。「企業と個人の関係」は、「大人と子どもの関係」から「大人と大人の関係」に変わり、「大人と大人の関係」における「雇用責任」とは、「定年まで面倒を見るし、かつ相応に処遇する」ということから、「エンプロイアビリティ(雇用されうる能力)の獲得・向上を支援することに変わった」ということを。

どの会社で働くかより、何を仕事にするか

2015年、バブル世代は、残り20年近い職業人生をどう過ごすかを、真剣に考えるべき時期に来ている。40代の今であれば、社外への転身という選択肢も採りうるだろう。現在の会社で働き続けるのか、社外に活躍の道を探るのか。そして、現在の会社に残るにせよ、社外に活路を見出すにせよ、どのような領域で、どのような価値を提供して、社会や会社に貢献していきたいのか。この判断をする上で重要なのは、「何を仕事にするか」について、自分なりの軸を持つことなのではないか。

この問いは、実は、今後ミドルを迎える全ての世代が自問自答すべき問いだと感じる。平均年齢が伸び、少なくとも65歳まで働き続けることが当たり前になる中で、自らをどのようにして高め、ミドル期以降も「社会に必要とされる」人材であり続けるか。これまで、会社に依存した職業人生を送ってきた個人にとっては難しい問いかもしれないが、キャリアの主導権を自分で持ち、長く働き続けるためには、避けてはいけない問いだろう。

ただし、日本の雇用システムや社員の意識はすぐには変わらないだろう。多くの大手企業において、新卒一括採用や年次管理は現在も維持されているし、個人の中には「就社意識」が根強く残っているからだ。だからこそ、官民挙げて「学び直し」の機会を提供する、地方や企業以外の場も含めた活躍の場を紹介するなど、個人が会社に過度に依存しないキャリアを築くための支援をすべきだろう。そして個人には、自らの置かれた環境を冷静に把握した上で、将来に向けたアクションを起こす勇気が求められる。企業と個人双方が変化することによって、新しい形の「Win-Win」の関係が構築されることを期待したい。

清瀬一善

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