北米のスキル重視採用-デジタル人材は学歴不問-【まとめ】スキルベース採用を実施する10社の採用選考プロセスとその効果

北米を中心とした諸外国では、日本のポテンシャル採用に似た「スキル」重視の採用を行う企業がある。デジタル人材の不足が深刻化するなか、学位や実務経験のない人材も対象にした母集団形成を行い、選考で「スキル」を重視する「スキルベース採用」が、解決策の1つとして注目されている。

米国では、NY州の下院議員が2022年11月に「スキルベース採用推進法案(The Advancing Skills-Based Hiring Act)」を提出した。この法案は、企業がスキルアセスメントを合法的に利用するための技術支援と、そのスキルアセスメントが候補者の職務遂行能力を効果的に測定できるという保証を雇用機会均等委員会(EEOC)が提供するものである。スキルベース採用ではスキルアセスメントを利用する企業が多いが、連邦政府の雇用法と規制が複雑なために、利用を敬遠する企業もある。EEOCがサポートを提供することで、幅広い企業にスキルベース採用への意欲を喚起することを狙いとしている。

本コラムでは、スキルベース採用を取り入れている企業の選考プロセスや、採用後の育成方法を紹介してきた。10社のインタビューでは、候補者がどこでスキルを習得したかにかかわらず、その人が持つ業務遂行能力とポテンシャルにもとづいて選考しているという共通項がみられた。企業は、市販のアセスメントツール、または企業独自の評価方法によって必要最低限のテクニカルスキルやポテンシャルを測定し、見極めている。そして採用後に、実務の遂行に不足しているスキルを補完するため、教育を行っている。

下記の3点は、スキルベース採用を理解するうえでの前提である。

  1. テクニカルスキルだけではなく、コミュニケーション能力のようなソフトスキルも含めた資質や性格など、候補者を総合的に評価する。

  2. 学位や実務経験がない人を優先的に採用するための「プログラム」ではない。募集条件に関連分野の学位や実務経験を含めないことで、候補者の母集団を増やし、アセスメントによって「職務遂行に必要なスキルを保有している」ことを見極める。

  3. 主にエントリーレベル職を対象とするが、候補者が若手とは限らない。ほかの職種からデジタル職へキャリアチェンジする、あらゆる年代層を候補者として想定している。

日本のポテンシャル採用は新卒採用と中途採用の一部で取り入れられているが、候補者の性格や素質、伸びしろなどを重視し、テクニカルスキルは求めないことが一般的である。一方、スキルベース採用ではエントリーレベル職であっても一定のテクニカルスキルは必要とするが、学位と実務経験を重視しない。入社後に研修を経て戦力となることを期待する。

一般的な選考プロセスとの違い

インタビューでは、デジタル職のなかでも需要が高い、ソフトウエア開発職の採用に焦点を当て、選考プロセスを詳しく聞いた。図表1は、企業がソフトウエア開発職を採用する際の一般的な選考プロセスと、エントリーレベルのスキルベース採用の選考プロセスを比較したものである。

【図表1】 一般的な選考プロセスとスキルベース採用の選考プロセスの比較(エントリーレベル)一般的な選考プロセスとスキルベース採用の選考プロセスの比較(エントリーレベル)

〈一般的な選考プロセス〉
❶ 採用担当による書類選考
採用担当あるいはATS(採用管理システム)が求人票と候補者の職務経歴書を照合し、募集条件を満たさない候補者をふるい落とす。これを「スクリーンアウト」という。選考基準は、コンピューターサイエンス(CS)に関連する分野の学位と、実務経験の有無、経験年数、使えるプログラミング言語や開発ツールなどである。

❷ 採用担当による面接
求人票や現場マネジャーの要望にもとづいて、職務で求められるスキルの有無とそのレベル、会社が重視する価値観との一致などを確認し、候補者を絞り込む。

❸ 技術面接/スキルアセスメント
現場マネジャーあるいはチームメンバーによる技術面接を行う方法と、テクノロジーベンダーが提供するアセスメントツールを活用してスキルを評価する方法がある。両方か、技術面接のみを行うことが一般的で、アセスメントツールの結果のみで選考する企業はほぼない。技術面接では、より実際の業務内容にもとづいた質問をして、候補者のコーディングスキルと、問題解決能力やコミュニケーション能力、働き方のスタイルなどを総合的に評価する。

❹ 決定
企業やポジションによって面接の回数は異なるが、上記にある❷❸の面接を経て、候補者に採用のオファーを出す。

〈スキルベース採用の選考プロセス〉
❶ 採用担当による書類選考
職務を遂行できる可能性がある人材を選考する。これを「スクリーンイン」という。候補者が国内での就労資格を持っているかといった基本条件を確認する。

❷ スキルアセスメント
候補者を大幅に絞り込む前に、スキル評価を行う。ソフトスキルのみ、テクニカルスキルのみ、あるいは両方のスキルを測定する。取材企業の多くはアセスメントツールを利用していたが、利用せずに採用担当による面接へ進んだり、自社開発の試験を実施したりする場合がある。

❸採用担当による面接、❹技術面接、❺採用決定
一般的な選考プロセスと同じ。

採用選考で企業が重視する要素とスキル評価の方法

書類選考

リクルートワークス研究所では、2022年3~4月に米国企業62社を対象に「デジタル人材の採用調査」を実施し、米国におけるスキルベース採用の実態を調査した。スキル重視の採用をする場合に、企業は書類選考で何を重視しているのかを聞いたところ、最も多いのは「オンラインや教育機関で習得したデジタルスキル(24.3%)」であった。「ソフトスキル(18.6%)」「インターンシップやプロジェクトに参加した企業名(17.5%)」などほかの要素を選択した割合には大きな差がなく、企業は複合的な視点から候補者を評価していることがわかる(図表2)。インタビューでは、職務経歴から推察できるポータブルスキルや、趣味欄から人物像を読み取る企業もあった。

【図表2】 スキルを重視して採用する場合、書類選考ではどの要素に重点を置きますか(複数回答、N=62)
スキルを重視して採用する場合、書類選考ではどの要素に重点を置きますか

出所:「デジタル人材の採用調査」リクルートワークス研究所、2022年


スキル評価の方法

一般的な選考プロセスで企業が候補者のスキルを評価する方法の上位は、「LinkedInのプロフィール(21.0%)」「技術面接(18.5%)」「リファラル(16.9%)」であり、経歴を重視することがわかる(図表3)。適性アセスメントツールの利用はわずか2.6%であり、ポテンシャルはさほど考慮しない。一方、インタビュー企業は、テクニカルアセスメントツールや適性アセスメントツール、技術面接、行動面接、ハッカソンでスキル評価をしており、経歴にかかわらず実践的なスキルの有無を測定する方法が多い。

【図表3】 デジタル人材のスキル評価には、どのような方法をとっていますか(複数回答、N=62)
デジタル人材のスキル評価には、どのような方法をとっていますか

出所:「デジタル人材の採用調査」リクルートワークス研究所、2022年

インタビューでは、ソフトウエア開発職の採用で必須の条件が、下記の4つに集約された。

  1. コーディングスキル(ほかのプログラマーにも理解しやすく、簡潔なコードを書ける)
  2. 思考力(問題解決力・論理的思考力・批判的思考力)
  3. コミュニケーション能力(協調性がある、デジタルの専門知識がない人にわかりやすく説明できる)
  4. プログラミングへの情熱・関心

一方で、下記の2点は必須としていなかった。

  1. 企業で使用している特定のプログラミング言語やツールに精通していること
    → 1つのプログラミング言語ができれば、新しい言語の習得は早いため
  2. システムのアーキテクチャやアルゴリズムなどの高度な知識
    → インターネットで検索しながら業務を進められるため

スキルベース採用の4タイプ

インタビューした企業のスキルベース採用は、候補者のスキル評価にテクノロジーベンダーが提供するアセスメントツールの利用(あり/なし・自社開発)と、入社後のスキル習得の方法(育成型/自律型)を2軸とした4タイプに分類できる(図表4)。スキル評価や習得の方法は、企業規模や業種(テクノロジー企業であるかどうか)とは関連性がなく、採用責任者あるいは経営者の意向によって方針が分かれるようである。

【図表4】 アセスメントツールの利用と入社後のスキル習得の方法によるインタビュー企業の4分類アセスメントツールの利用と入社後のスキル習得の方法によるインタビュー企業の4分類

※Lyftでは、募集職務によってアセスメントツールを利用する場合と、人が評価をする場合とがある。入社後のスキル習得については不明のため、表に含めていない。

アセスメントツールの利用:あり
テクノロジーベンダーによるアセスメントツールを利用しているのは10社のうち、Thoughtworks、Manulife、Quadient、Big Viking Games、Canada Life、Trinity Health Michigan、Lyftの7社であった。
アセスメントツールは短時間で完了するために受験者の離脱が少なく、利用する企業は多い。インタビュー企業は、テクニカルスキルのアセスメント(例:HackerRank、CodeSignal)、ソフトスキルのアセスメント(例:Plum、JOFI Assessment)、両方のスキルを測定するアセスメント(例:TestGorilla) を利用していた。
Big Viking Gamesは、自社開発の試験と併用していた。

アセスメントツールの利用:なし・自社開発
テクノロジーベンダーのアセスメントツールを利用しない取材企業は、独自に開発した試験(Tata Consultancy Services、以下TCS)やテクニカルスクリーニング(Indeed)、行動面接(Glassdoor)でスキル評価を行っていた。アセスメントツールを利用しない理由は、自社の業務に合わせたシナリオを用いるために、あるいは候補者が技術的な問題を解く際の思考過程を知るために、といったものがあった。

入社後のスキル習得の方法:育成型
入社後のオンボーディングでは、組織的な入社研修プログラムを行っている企業と、従業員個人へスキルアップ支援をしている企業とがある。

(1)1週間から3カ月間の入社研修プログラム
会社の理念の説明などオリエンテーションのほか、会社で使用するテックスタックについての座学とラボ(Manulife)、ペアプログラミング演習(Thoughtworks)、新製品開発(Indeed)など、各社の事業に合わせたプログラムを実施している。

(2)スキルアップ支援
今後の事業を見据えた開発プラットフォームの資格取得支援(Big Viking Games)や、個人のキャリアの目標達成に向けた、メンターによるスキル習得支援(Quadient)を行う企業もあった。

入社後のスキル習得の方法:自律型
個人の自主的なスキルアップを促す企業では、企業側がリソースを提供して、従業員が研修を受講したり、プロジェクトに参加したりすることで、主体的にスキルを磨いていく(TCS、Glassdoor)。適性アセスメントをもとに個人に適したほかの職種を示して、従業員が進みたいキャリアに向けてスキル習得できる企業もある(Trinity Health Michigan)。

期待できる効果

エントリーレベルのスキルベース採用を導入している企業には、下記のような効果も共通して見られた。

  1. 多様性の向上
    性別、学位、経験を見ずにスキルを評価することで、企業におけるダイバーシティ人材の割合が高まった。Glassdoorでは女性やマイノリティなどの人材の割合が5%から15%へ上昇した。

  2. 採用にかかる期間の短縮
    理想的な経歴を持つ人材を探し続けるよりも、各社にとって必要なスキルを持つ人材を特定することによって、採用にかかる期間が短縮した。Big Viking Gamesでは、これまでの94日から26日へと大幅に短縮した。

  3. 離職率の低下
    職務に適したスキルとポテンシャルを持つ人材を採用することで、GlassdoorやTrinity Health Michigan、Thoughtworksでは離職率が下がったり、在籍期間が延びたりしたという。

デジタル職の採用で、関連する学位や実務経験のない人材を採用しますか「デジタル人材の採用調査」によると、デジタル職の採用において、関連する学位や実務経験がない人材を「採用する」企業は1割弱(9.7%)と、スキルベース採用はまだ一般的ではない(図表5)。しかし、インタビュー企業では、上記のような効果が表れている。特に、多様性の向上に貢献することから、客観的で公平性が高い採用方法と評価している。

米国では、企業へスキルベース採用の導入を支援するHireReachやSmartRecruitersのような団体・テクノロジープロバイダの存在や、LinkedInなど大手IT企業が個人にスキル習得から企業との面接までをサポートする取り組み、議員による推進法案の提出など、スキルベース採用を促進する力が高まっている。

「スキル重視」の採用手法、日本企業でどう活用するか

日本企業がエントリーレベルのデジタル職でスキルベース採用を行うならば、4タイプのうち、「アセスメントツールの利用あり×(入社後のスキル習得の方法)育成型」が導入しやすいだろう。日本では、採用選考で適性アセスメントが一般的に実施されており、企業も候補者もアセスメントに馴染みがある。また、各社で新卒者を採用して育成するポテンシャル採用の手法が確立されている。一方、独自の方法でスキル評価を行える企業であれば、「アセスメントツールの利用なし×育成型」が可能であり、さらに従業員が自律的に学び続ける文化がある組織であれば、「アセスメントツールの利用なし×自律型」で個人にスキル習得を任せても効果が期待できる。

スキルベース採用はエントリーレベルの採用に適した方法であるが、新卒者や若手に限らず、経歴による評価が難しいブランク期間のある人材や外国人材、個人でリスキリングをしてキャリアチェンジする人材の選考にも有益である。あるインタビュー企業の現場マネジャーは、「オンラインコースや独学は挫折しやすい。そのような環境でもスキルを習得した人材は、デジタル分野への情熱が人一倍あり、学習意欲が高いため、入社後に活躍する傾向にある」と評価していた。日本企業も、人材の持つポテンシャルと業務遂行能力をもとに選考することで、デジタル人材不足の緩和につながるのではないだろうか。