コロナ禍の新人はどのように学んでいるのか在宅勤務の新人は、「知的謙虚さ」が高い

在宅勤務の新人は、「他者との協働」をどのように進めているのか

第1回のコラムでは、コロナ下で入社した新人の上司との1on1における、コミュニケーション機会は、他年度入社者と大きな違いがなかったことを示した。そして、個人差はあるものの在宅勤務経験者であるほうが、上司との間で業務内容についてのやりとりがより行われていたことが明らかになった。このことから、オンライン環境においても上司への仕事の報告とフィードバック機会によって育成機会が得られていたことがうかがえる。

第2回の今回は、彼らの学習プロセスを取り上げる。テレワーク中心の働き方になった時に難しいのは、建設的な意見のやりとりを通じた創発の機会や、多様な他者とのコラボレーションを伴うようなチームでの仕事の進め方だ。今回のコラムでは、こうした「他者との協働」の視点から新人の初年度の学習プロセスを明らかにしていこう。

在宅勤務で働く新人は、仕事の手順や方法を自分の判断で変えられる

まず、入社初年度から在宅勤務で働いている新人の仕事の特性を確認しておこう。仕事の特性としては、「手順が決まっている」「自分の判断で手順や方法を変えることができる」「新たなものを生み出す」「同僚と絶えず相談しながら進める」など、そもそも仕事のフローにおいて他者とのやりとりが前提となっているのかどうかを尋ねた。その結果、有意な差が確認されたのは、「自分の判断で手順や方法を変えることができる」であり、在宅勤務者の平均スコアは3.41、在宅なしでは3.16(※1)と、在宅勤務者のほうが自分の仕事をよりよい形で見直すことが可能であると言える。

上司との間では「建設的な意見のやりとり」が難しい

彼らは、上司と意見が異なった時にどのような対応をするのか。調査では「上司と意見が対立する場合、意見を言わずに上司に従う」と「目的を達成するために、上司にも問題点を指摘する」のどちらにより近いかを尋ねた。
2020年度入社者で、「在宅あり」と「在宅なし」を比較するとその違いは明らかで、「在宅あり」の場合は、上司と意見が対立する場合、意見を言わずに上司に従う傾向が強く、「在宅なし」の場合は「目的を達成するために、上司にも問題点を指摘する」と回答する傾向が見られている。

図表1 建設的な意見のやりとり
建設的な意見のやりとり図表中A:上司と意見が対立する場合、意見を言わずに上司に従う
図表中B:目的を達成するために、上司にも問題点を指摘する

このデータは、入社後1年間を振り返って回答してもらった内容であるが、「在宅あり」の場合には、初年次に上司に意見することが「より難しかった」と振り返っていることがわかる。オンラインでのやりとりは対面に比べて情報量が少ない。そのため、入社直後から在宅勤務の場合には、職場の雰囲気や組織風土などがつかみにくい。3人以上のやりとり、または職場で上司と会話をしている他者の様子を見た経験があると、意見が対立した際にどのように自分の意見を伝えたらよいのかを学ぶことができるが、上司との2者間のコミュニケーションでは「どれくらい意見してよいのか」という基準が持ちづらく、意見が言いづらかったのだと推察される。

在宅勤務の新人は、「自分とは異なる意見」を取り入れるスキルが高い

在宅勤務の新人のほうが、1人で仕事をする時間が長く、自分とは異なる多様な意見を取り入れるのが苦手なのではないかという仮説の下、調査では「知的謙虚さ」を聞いた。知的謙虚さ(intellectual humility)とは、デューク大学のマーク・レアリー氏が2017年に提唱した考え方で、開放性、好奇心の強さ、あいまいさの許容度との相関が高いことが明らかになっている。知的謙虚さが高い人は、自分の答えが絶対的に正しいわけではないと考えており、柔軟に考え方を変えることができる。高度に複雑化した問題に対処するために、専門分野の異なる他者との間で協働することが欠かせない時代には、必須のスキルである。調査では、レアリー氏に許可をとった上で日本語に訳した項目を使用した。

分析の結果、入社直後に在宅勤務だった者と在宅勤務でなかった者との間ではいくつかの項目で平均スコアに有意な差が見られており、「在宅勤務の新人のほうが知的謙虚さが低い」とした当初の仮説とは異なり、在宅勤務の新人のほうが「知的謙虚さが高い」ことが明らかになった。

図表2 在宅勤務の有無別、知的謙虚さの違い
在宅勤務の有無別、知的謙虚さの違い
そもそも「在宅で仕事をしている人」の仕事特性として、仕事のアウトプットを前提に、情報収集やフィードバックを得ながらでないと、いいパフォーマンスにつながらないということもあるだろう。そこで、仕事を通じてどのような力を獲得したのか、在宅勤務「あり」と「なし」で比較すると、在宅勤務で働く者のほうが、「多様な他者の異なる意見を仕事に取り入れる力」「他者からのフィードバックを吸収する力」の平均値スコアが高いことが示された。

図表3 在宅勤務の有無別、1年目に獲得した力
在宅勤務の有無別、1年目に獲得した力

ハイブリッドワークを前提にした協働スキルの育成

パンデミックをきっかけに、私たちは組織としてのコミュニケーション戦略をこれまで以上に考えなくてはならなくなった。テレワークやハイブリッドワークの環境下で必要なコミュニケーションコストをかけないことは、組織としての短期的・長期的なパフォーマンスの低下につながるからだ。

本稿では、在宅勤務の有無別に、新人がどのように他者との協働を進めているのか、他者との協働にかかるスキルをどのように獲得しているのかに着目し、分析を行った。
その結果、入社初年度に在宅勤務経験のある新人のほうが、「自分の判断で手順や方法を変えることができる」と感じられる仕事の進め方をしていた。そして、入社初年度に在宅勤務経験のある新人のほうが、多様な他者の異なる意見を取り入れており、他者からのフィードバックを吸収する力を「獲得できた」と自己評価していた。

テレワークが進み、これまで良くも悪くもその場の空気を読んで、「阿吽の呼吸」で進めていたやり方は成り立たなくなった。そのため、お互いの背景や強みを理解したり、会議のアジェンダを管理したりと、これまで以上にプロセスの可視化が求められる中で仕事を進めてきたという特徴もある。彼らはそうした仕事の進め方についての特徴を活かしつつ、「知的謙虚さ」すなわち、開放性、好奇心の強さ、あいまいさの許容度を高め、高いスキルを持った他者とのコラボレーションを可能にするスキルを身につけてきたのではないだろうか。

在宅勤務では、「コミュニケーションの渇望感」もあるだろう。マイクロソフト社が従業員に対して行った調査(2021)からは、「人々がどこでも仕事ができる柔軟性を欲する一方で、より多くの人とのつながりも欲している」という結果が示されており、テレワークが続いたことで、周囲からのフィードバックを受け入れやすい傾向があったり、協力したいという姿勢が強くなったりすることも考えられる。

パンデミックが収束した時の在宅勤務をどうするか。上司との建設的なやりとりが難しくなることを前提に、オンラインでも3人以上での会話の場を増やしたりしながら、先輩と上司の間のやりとりを共有する場を持つなどの工夫が必要だ。それと並行して、彼らの持つ、異なる他者とつながる力を活かしながら、仕事の手順や方法を任せつつ、その成長を見守るといったやり方もハイブリッドワークならではのマネジメントスタイルとして確立していく必要がありそうだ。

(※1) 以下のことは、あなたの仕事にどの程度あてはまりますか。と教示し、「私の仕事の手順や方法は、私の判断で変えることができる」について、全くそう思わない1点、そう思わない2点、どちらでもない3点、そう思う4点、とてもそう思う5点で回答を促した。

参考文献
Leary, M. R., Diebels, K. J., Davisson, E. K., Jongman-Sereno, K. P., Isherwood, J. C., Raimi, K. T., ... & Hoyle, R. H. (2017). Cognitive and interpersonal features of intellectual humility. Personality and Social Psychology Bulletin, 43(6), 793-813

辰巳哲子