外国人労働者と企業と社会、「三方よし」をつくり出すには何が必要か

2024年03月22日

労働人口減少の打開策として、大きな期待が集まっているのが外国人労働者の受け入れ拡大だ。しかし経済的なメリットだけで海外から人を集められる時代は終わっており、外国人労働者が企業で活躍でき、同時に社会も恩恵を受けられるWin-Winの環境を整えることが不可欠となっている。そのためにはどのような施策が必要だろうか。国立社会保障・人口問題研究所国際関係部長の是川夕氏と、リクルートワークス研究所研究員の孫亜文が話し合った。

孫と是川氏の写真

内部労働市場に組み込まれる外国人 キャリアの不透明さがネックに

:外国人労働者の話に入る前に、まず受け入れる側である日本の働き方がこれまでどう変化してきたのかを振り返りたいと思います。リクルートワークス研究所では毎年、15歳以上の男女約5万人を対象にした全国就業実態パネル調査(JPSED)を行い、日本の働き方を5つの側面から定点観測しています(Works Index)。それを見ると2016年以降、就業の安定とワークライフバランスは大きく前進しています。働き方改革関連法、特に2019年の改正労働基準法施行で、正社員の労働時間の削減が進んだこと、コロナ禍でテレワークが普及し、働く時間と場所の柔軟性が高まったことなどが要因と考えられます。従来トレードオフの関係にあった、就業安定と働き方の柔軟性を両立できる環境が整いつつあることは、外国人の職場への定着という点で見て、良い影響をもたらすのではないでしょうか。

是川:外国人労働者は従来、海外企業の駐在員や非正規のマニュアルワーカーとして、外部労働市場から企業に供給されるケースが主流でした。しかし過去20数年で、この傾向は大きく変わり始めています。日本で学んだ留学生が新卒の正社員として入社するケースが増えたほか、2019年に「特定技能」(※1)の在留資格が制定され、外国人が長期にわたって滞在する道も開けました。特に技能実習生として来日し、その後特定技能ビザを取得した人は、日本人の高卒者と概ね同じ扱いとなり、正社員として管理職などのキャリアを積む可能性も生まれています。つまり、外国人労働者が内部労働市場に組み込まれつつあるのです。日本企業で働くメリットとして「安定雇用」を挙げる外国人ホワイトカラーは、調査などでも多数存在します。就業安定と働き方の柔軟性を両立できる環境が整いつつあることは、外国人が長期的に日本で活躍していくという点でポジティブな効果を及ぼすと期待できます。

:一方で、外国人労働者が長期的に日本で活躍していくという点で、課題が残されていることも事実です。私が2021年に、日本企業に勤める外国人社員400人を調査した際には、就職して良かった点として、雇用の安定を挙げる記述は目立ちましたが、課題として賃金の低さや長時間労働、そして昇進の遅さを指摘する声も目立ちました。日本人は年功的にキャリアが上がることを当たり前に感じるかもしれませんが、外国人は努力が抜擢や昇進に結び付きづらいことに、不満を覚える人が多いことがうかがえます。

是川:先行研究でも、外国人労働者からは、20代後半から30代にかけてのキャリアが不透明で、働き続けるかどうか迷うタイミングが何回もある、との声も挙がっています。外国人にとって離職は「何のために日本にいるのか」という根源的な問いを呼び起こし、転職だけでなく帰国にも直結しかねません。企業側はキャリアパスを明確化することに加え、労働者の悩み、迷いに踏み込んでサポートすることも重要です。

地方の中小踏まえた政策対応を 「働くための言語習得」もサポートすべき

:日本企業における昇進の遅さ、ミッドキャリアの不透明さといった問題は大企業の新卒社員にも共通しており、また企業もこの問題の解決に取り組んでいるため、光明が見えています。一方、これらは大企業ホワイトカラー特有のテーマであり、外国人労働者の主な受け皿は地方の中小企業です。つまり、外国人労働者の活躍については、地方、そして中小企業にこそ、より大きな課題が存在すると言えます。

是川:今後は、特定技能2号の受け入れ分野が拡大する中、家族で永住する外国人労働者も増えると考えられます。外国人労働者を受け入れたいと考える自治体は多いですが、受け入れるからには生活全般のサポートが必要であることも、肝に銘じるべきです。もし施策が成功すれば、その地域に住むことの魅力が高まり、より多くの外国人労働者を集められる可能性もあります。

こうしたなか例えば広島県は、外国人を雇用する企業に補助金を支給して学びを支援しており、その結果、3人のベトナム人労働者が特定技能2号の造船・舶用工業分野の技能評価試験に合格しました。このように職業訓練機能を拡充するなどして、政策的に労働者のスキル習得をバックアップすることが求められます。

「働くための日本語」の習得を、行政がサポートすることも大事です。就労に必要な言葉は、生活に使う言葉とは違うため新たに学ぶ必要がありますが、勤め先企業には、言語のような普遍的なスキルを身に付けさせるインセンティブが発生しづらく、学びが進みません。世界的に見てもこの領域は取り組みが手薄で、実現すれば日本はフロントランナーとなれますし、日本で働く価値を高めることも期待できます。

外部労働市場を再評価する好機 スキル明示し学ぶ場を提供

:先ほど外国人労働者にとって、日本企業におけるミッドキャリアの不透明さは大きな問題だという話がありましたが、これは日本人の労働者にとっても大きな課題です。2018年に行ったJPSEDの追跡調査からは、日本人の学ぶ意欲が低いことが明らかになっています。また2023年度に行った「『労働移動』を再考する」プロジェクトでは、転職活動を行っている就業者のうち1~2割は、自分に合う仕事がわからないまま転職活動をしている「転職迷子」であることも浮かび上がりました。メンバーシップ型の雇用の中で、企業は求める社員像を言語化できなくなり、それによって社員もまた、目指すキャリアや手持ちのスキルを明示できなくなっているのです。しかし外国人ホワイトカラーの主な受け皿である地方の中小企業が、人材確保を目指して成長機会を提供し、スキルを明確化するようになれば、その効果は日本人にも返ってくるのではないでしょうか。つまり、外国人労働者の活躍を起点に、日本の労働者が抱えている問題への対応も進む可能性があります。

是川:低成長と人手不足というターニングポイントを迎えた今は、外部労働市場を再評価する好機でもあります。外国人も含め多様な人材を外から雇い入れなければ、将来的に事業が成り立たなくなる、という切迫したニーズを抱える企業も増えています。外国人はジョブ型だからジョブ型を導入すればいい、といった単純な問題ではありませんが、少なくとも外部労働市場へのシフトをもう少し加速させる必要はあります。

是川氏メッセージ_低成長と人手不足は、外部労働市場を再評価する好機。外国人労働者を切り口に、日本の労働市場のあり方にも目をむけたい
企業が外部労働市場を意識して社員のスキルを明確化し、キャリアの道筋を示した上で、目指すキャリアに至るための学びを提供するようになれば、例えば出産を機に一時離職したり、働き方を変えたりした女性なども、市場から適正に評価されてキャリアを継続しやすくなります。外国人労働者を切り口とした議論は、ジェンダーの問題なども含めて社会全体で日本の労働市場のあり方を考え直す、いいきっかけにできると思います。

:労働力不足だから外国人労働者に活躍してもらう、という単純な議論に閉じず、外国人労働者が活躍できる環境整備を、日本の職場や労働市場の問題解決につなげていく、という視点が、外国人労働者、企業、社会それぞれに望ましい状況を実現していく上で重要ですね。

孫メッセージ_外国人労働者が直面する困難と、日本人の働く課題は根本的には共通。一方に取り組めば、地方に恩恵が返ってくる

 

(※1)人手不足が深刻な業種で外国人労働者の受け入れを拡大するため、2019年に新たに設けられた在留資格。非熟練者を対象とした1号と熟練者を対象とした2号があり、2号は1号に比べて長期の在留が認められるほか、一定要件を満たせば家族の帯同も許される。

執筆:有馬知子
撮影:平山諭

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