Column

人事を支えるHRテクノロジーの5領域とその展望

HRにおけるテクノロジーへの注目度が依然として高い。2018年9月に開催されたHR Technology Conference & Expoには、参加者約5,000名のうち、日本からの出席者は180名を超えていた。

同イベントは、HRテクノロジー市場の全体像を把握できる場である。大手とスタートアップのHRテクノロジー企業450社以上が出展し、2018年はそのうち80社が開催期間に新商品・新サービスを発表した。

講演は、HRテクノロジーの潮流を領域別に分析したもの、自社に合うツールの選び方をアドバイスするもの、HRテクノロジー業界で変えていくべきことへの提言、など59セッションあった。

講演とエキスポに加え、エキスポツアーという、3つのテーマ別に運営局が選んだベンダーのブースを回り説明を聞くサービスもある。「採用」「要員計画&アナリティクス」と「エンゲージメント&表彰」のなかで、「採用」ツアーの参加者が最も多く、関心の高さがうかがわれた。

HRテクノロジーはまだ本来の「AI」に達していない

専門家たちの意見から浮かび上がったのが、「AIは誤解されている」ということである。HRテクノロジー領域の専門家は、AIとうたっているサービスの多くは、業務プロセスを自動化するもので、実際にAIを扱うベンダーは一握りだと指摘する。本来、AIとは反事実的推論ができる、非常に高度な学習をするテクノロジーのことを指す(※1)。しかし、現在の技術はまだそれとは程遠く、相関性や関係性から学習する段階にある。HRテクノロジーのサービスを見る際は、この点を踏まえてバズワードに踊らされず、冷静に考察したい。

HRの5つの領域 1.採用

ジョン・サムザー氏(HRExaminer主幹アナリスト)は、HRの仕事を5つの領域に分類している――採用、人材(管理・育成)、データ(プロフィール、追跡、アナリティクス、スケジューリング)、労務(給与計算、福利厚生、安全、健康)、と退職支援(図1)。本レポートでは、この領域に沿ってコンファレンスを振り返る。

5領域のなかで、採用領域に特化したテクノロジーが市場では圧倒的に多い(参照:Unleashロンドン参加報告前編)。コンファレンスではスタートアップ企業向けのピッチフェストが開催され、各社のサービスが紹介されたが、ファイナリスト6社のうち4社が採用テクノロジーだった。その4社を紹介する。

求職者向け画面(左)と採用担当者向け画面(右2つ)

Blendoor
ダイバーシティ採用に特化したテクノロジー。採用担当者は候補者の人種や性別、年齢、出身校などによって無意識に特定の属性を優遇してしまいがちである。Blendoorは、募集企業へ候補者のレジュメを提出する際に、選考に必要のない個人情報を非表示にすることでダイバーシティ採用を容易にする。書類審査通過後も候補者の選考状況を追跡し、採用もしくは不採用となる人の傾向からアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が発生している部署や採用担当者を特定するため、募集企業はバイアスの改善に努められる。

TalVista
アンコンシャス・バイアスを減らし、多様な人材を採用するためのツール。
【求人広告】アルゴリズムが求人広告の文章を分析し、さまざまな求職者を想定した包括的な用語を使用しているかを評価し、より効果的な用語を提案する。たとえば、男性的な表現(determine、superiorなど)を避けてほかの表現(committed、top qualityなど)にすることで女性も応募しやすくすることができる
【レジュメ】名前、性別、出身校などの個人情報をレジュメから除去してリクルーター・企業に渡す
【面接】仕事で成功する予測因子を確認するための面接構成や、最も重要な採用条件に焦点を合わせた質問を提案する

Relish
新卒者・既卒者とリクルーターをマッチングするマーケットプレイス、RelishCareersを運営する。世界の一流大学および大学院に通う学生から、アルゴリズムで登録企業の求人に適合する候補者を選んで提案する。
また、登録した学生と同じ大学の卒業生をつなぐマーケットプレイス、TransparentCareerも運営し、今後のキャリアや就職先についての情報交換を推進する。

Swarm Vision
イノベーションを起こしそうな人材を特定するツール。従業員と求職者をプロファイリングし、統計学的にイノベーションと強い関係性がある8つの特性と26のサブスキルをアセスメントで測定する。8つの特性とは、①意欲、 ②創造的破壊者、 ③創造性、 ④人とつながる力、 ⑤場をコントロールする力、 ⑥考える力、 ⑦目的を達成する力、⑧社会に貢献する人。

ピッチフェストの優勝はBlendoor、ダイバーシティ賞(特別賞)はTalVistaであったことからも明らかなように、欧米では近年多様な人材の採用を重視している。

一方で、同質的な人材をあえて選ぶ手法もある。人材流動が激しい欧米では、離職率の高さが企業の大きな課題である。ミスマッチを起因とする早期の離職を防ぐため、企業文化と適合する候補者を特定するテクノロジーが多々ある。

マット・ブライトフェルダー氏(BlackRockマネージングディレクター兼最高タレント責任者)は、このような手法によるバイアスの慣行化について危機感を表した。「事業の成長に必要なのは、企業文化と適合する人ではなく、進化させる人である。それは、過去のデータからは判断できない。自分と同じ学校へ行った候補者や、似た考えの候補者を面接に呼ぶ傾向があるとしたら、機械学習を搭載したツールはその特徴を学んで候補者を選考するため、ダイバーシティに結びつかない」。

BlendoorやTalVista、Swarm Visionのような、社内のデータをもとにしないテクノロジーはすでにある。今後は、多様な意見や失敗を受け入れる風土づくりを助けるテクノロジーが求められるかもしれない。

採用領域における2019年のテーマは、トータル・タレント・アクイジション

イレイン・オーラー氏(TalVista共同創設者)は毎年、採用テクノロジー市場のテーマを予測している。2019年は、トータル・タレント・アクイジション(TTA、図2)。「HRは正社員と時給社員しか見ていない。組織には派遣労働者や契約労働者など、ほかの雇用形態の人材もいる。HRの使命は、会社にとって最高の人材を、最適なタイミングで、最適な値段で連れてくること。さまざまな雇用形態を踏まえた、組織全体の要員戦略を立てるべきである」

採用テクノロジーも、雇用形態やそれを管理する組織に合わせて分割されている。月給&時給社員向け(ATS ※2)、MSP(※3)向け(VMS ※4)、契約労働者やフリーランサー向け(FMS ※5)というように、それぞれ異なる採用テクノロジーがある。したがって、人材配置において全体像を見る人がいない。

TTAに付随するテーマが、トータル・タレント・アサインメントである。採用からその後の配置、管理まで責任を負うもので、従業員のキャリアの進展や経歴など豊富なデータを管理する。オーラー氏は、「採用部署は、候補者が応募したポジションは本人にとってステップアップ、あるいは異業種への転職であるなどがわかるが、入社後は経歴も前職での人事考課も考慮されず、ゼロからスタートすることになる。入社前のデータも要員計画や候補者の誘引、異動、後継者計画などに生かすべき」と言う。

TTAやトータル・タレント・アサインメント、トータル・タレント・マネジメントなど、HRが人材を雇用形態にかかわらず一括管理するモデルは今後主流になると、数年前からあらゆる専門家が予測してきた。すでに導入済みの企業もあるが、大企業や多国籍企業では部署や職務が細分化されているため導入しづらい。フリーランサーなど臨時労働者の活用が進むなかで、TTAは戦略として必要になる。ATS、VMS、FMS とHRISを統合し、それぞれに記録されているデータを別のツールからも取り出しやすくするツールの需要が高まるだろう。

次回は、HRの5つの領域から、「人材(管理・育成)」「データ」と「労務」に関するテクノロジーおよびセッションを報告する。

 

※1 HR Examiner (2018) Navigating the Maze: The 2019 Index of Intelligent Technology in HR
※2 Applicant Tracking System(応募者追跡システム)。企業向けスタッフィング会社向けに分かれている場合がある
※3 Managed Service Provider。クライアント企業で勤務する非正規労働者を、現場で継続的に管理・監督するサービス
※4 Vendor Management Systems。社内で働く非正規労働者や、取引する派遣会社を一括管理するツール
※5 Freelance Management Systems。フリーランサーを採用、管理するためのツール

 

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2019年02月06日