Column

Google x Johnson & Johnson
~成功する求人求職活動と検索精度の深い関係~

Unleashは欧州を拠点としたHRテクノロジーコンファレンスである。歴史はまだ7年目と浅いが、米国で20年以上続くHR Technology Conference & Expoと肩を並べる規模に成長してきており、いくつかの面で差別化を図っている。最大の違いは、出席に条件を設けている点である。Unleashは、主にテクノロジー導入の際に決定権のあるエグゼクティブやHR責任者か、HRテクノロジー企業の従業員以外からの申し込みを制限している。年に3回、欧米の都市で開催しており、今回出席した3月のロンドンのコンファレンスには約2,000名が出席した。

エキスポ会場にはスタートアップ企業のブースが集約された「スタートアップゾーン」が あり、そこに併設されたステージでは2日間にわたって各スタートアップ企業が自社のサービスのプレゼンテーションを行なっていた。出席者は効率的にスタートアップ企業を見て回れるため、エキスポ会場で最も賑わうエリアだった。

コンファレンス全体では、基調講演に加えて、AIと働く未来は有意義な仕事をできるようになるという内容のもの、ピープルアナリティクスでは倫理を守りながらデータを取得するためのアドバイスを提供する、というものなど、合計約50のセッションが行われた。

HRテクノロジーとは、企業が人材を採用するプロセスから採用後の管理、退職にかけてのサポート、また潜在的候補者に向けてのブランド構築と、雇用に関する幅広い領域で人事が利用するツールのことを指す。しかし、この1、2年のHR系コンファレンスでは、採用に特化したHRテクノロジーが出展企業の多数を占める。近年の好景気により失業率が低く、どの業界も採用難にあえいでいることから、優秀な人材を他社よりも早く特定して採用につなげる段階で役立つツールの需要が高いためである。

2017年にはGoogleもHR業界に参入し、企業が応募者を管理するためのATSや求人検索エンジンといったサービスを提供し始めた。Unleashロンドンでは、Google独自のサービスを活用したJohnson & Johnson(以下J&J)の成功事例も紹介され注目が集まった。その内容をピックアップして紹介する。

キーワード検索では関連性のない求人が表示されてしまう

J&Jは世界で550人のリクルーターが100万件の応募を精査して、年間2万5,000~2万6,000人を採用している。これだけ多くの求人がある企業は通常、採用情報ページに検索機能を設け、求職者が自身の職種や住む地域での求人を見つけやすいようにしてある。しかし、J&Jでは2、3年前まで、ここに大きな問題があったという。入力したキーワードとは関連性のない求人が大量に引っかかってしまうか、逆に関連する求人が引っかからないという事態である(図1)。

J&Jで働いたことのない人でも会社の規模を知っていれば、ニューヨーク市では常にインターンシップが4件以上あるはずだとわかるだろう。また、腫瘍研究に関連する求人は、実際は非常に少ないはずである。

そこで、ウェブページ内での求人検索に特化したGoogleの技術「Google Cloud Job Discovery」を導入したところ、検索結果の精度が図2のように著しく向上したそうである。

キーワード検索 vs セマンティック検索

なぜこれほどの違いがでたのだろうか。それは、キーワード検索とセマンティック検索の違いである。求職者の意図を理解せずにキーワードそのものだけで検索する技術では、右のようなミスマッチが起きる。

セマンティック検索技術を取り入れたGoogle Cloud Job Discoveryは、機械学習と人工知能技術を駆使して数百万件ものレジュメと職務記述書を分析した結果、職名やスキル、職位の序列などを理解する。また職名とスキルの関係、職名と職位の序列の関係、スキルと職位の序列の関係なども理解する。たとえば、「副社長」で検索にかけると、ツールはそれを幹部レベルの職だと理解し、職位の序列が全く異なる「副社長付きの秘書」は表示しない。

Googleは、このサービスを企業の採用情報ページ、ジョブボード、派遣会社といった、求職者が多数訪れるサイトを対象に提供している。

応募者の要望に応えた採用選考プロセスで会社のNPSが大幅上昇

Googleの副社長Bogomi Balkansky氏(左)とJ&JのTalent Acquisition & Peole Experience担当グローバル副社長Sjoerd Gehring氏

検索精度の向上による影響はデータにも表れている。J&Jでは、採用プロセスについて候補者に意識調査を行っており、Google Cloud Job Discovery導入の直接的な結果として、NPSが大きく向上したそうだ。

日本語では「ググる」という表現が浸透しているが、英語でも「Google」は「インターネットで検索する」という動詞としても使われるほど、人々はGoogleの検索機能に慣れている。「情報を探すときは日常的にGoogleを使用しているので、仕事を探すときもそれと同じような体験を期待する」という候補者のフィードバックにあるように、求職者は、自身に適した求人が見つかりにくければ、苛立ってサイトを去ってしまう。検索精度の向上で離脱を防ぐことに加え、企業にとってはコンバージョン率の上昇にもつながる。条件を満たさない人材からの応募が減少するからである。J&Jでは、事業の行方を左右する重要なポジション(腫瘍学や血液学、免疫学などの分野)への有能な候補者からの応募が41%増加したという。

セマンティック検索は以前から様々なツールに組み込まれている今や主要な技術だが、改めてキーワード検索と比較したことで、高度な検索技術は企業と求職者が円滑に求人・求職活動を進めるうえで必要不可欠であると証明された。

J&Jでは、検索技術向上と同時に、ほか2つの課題にも取り組んだ。「選考過程の透明性向上」と「求職活動のアドバイス提供」である。応募者が選考過程でどの段階にいるのかを自身でトラッキングできるようになり、さらにJ&Jのプラットフォームで面接のコツ、オファー交渉の仕方、転職が決まった場合に現職をどう退職するか、といったことを記事や動画で学べるようになったことで、同社の予想をはるかに上回る手ごたえを感じたという。具体的には、選考過程のトラッキング・プログラムを導入後わずか5カ月間で、NPSが+4から+22へ上昇したそうだ。

採用領域以外ではエンゲージメントやアナリティクスが人気

コンファレンス会場のExCeL London

HRテクノロジーのなかで採用に焦点を当てたものが占める割合が大きいが、Unleashでは従業員のエンゲージメントを高めるためのソリューションや、素人でも扱えるアナリティクスソフトなども出展していた。さらに、企業が新しいテクノロジーを導入する際に、実務的および心理的な面から従業員をサポートするテクノロジーまであった。テクノロジーがテクノロジーを支えるようになり、人間の役割が明らかに変化している。また、テクノロジーと労働者の関係については毎度議論されるテーマであり、後編ではその点に触れたセッションや、将来性があると評価されたスタートアップを紹介する。

 

グローバルセンター
石川ルチア

2018年11月30日