世界の最新雇用トレンドよりフレキシブルに、よりデジタルに、より多様化するスタッフィング

SIAエグゼクティブフォーラム2023概要

2023年3月6日から9日にかけて、フロリダ州マイアミでStaffing Industry Analysts(SIA) 主催のExecutive Forum North America が開催された。スポンサーは90社、セッション数は42、コンファレンスの参加者は24カ国から1550名とこれまでで最も多かった。

セッションは基調講演、基調パネル、同時進行セッション、テーマごとの座談会で構成されていた。同時進行セッションは「人材テクノロジーイの最新ノベーション・トラック」「破壊と変化トラック」「次世代リーダーシップ・トラック」「重要な分野トラック」に加えて、業界のリーダーによる「考えを実行に移す」というプレゼンテーションがあり、これらが各時間帯に同時に進められる形式であった。最終日には、「ブレイクスルー成長のためのセールスとリクルーティングを牽引する」と「スタッフィング業界における次世代女性リーダー」という2つのテーマのディープダイブ(議論の掘り下げ)セッションが行われた。

SIA社長Barry Asin氏SIA社長 Barry Asin氏

SIA社長のBarry Asin氏によるオープニング講演は明快で、景気後退の兆しがみられるにもかかわらず楽観的な内容だった。2日目の基調講演は「仕事の未来(Future of Work)」のエキスパート、Seth Mattison氏が人間が持つ56種類の価値について説明し、エンゲージメントとパフォーマンスを向上するためには何が必要かを模索した。3日目の基調講演は、職場倫理に詳しい社会学者のKim Lear氏で、ベビーブーマー世代からZ世代までの各世代の特徴をわかりやすく解説した。現代は最適化によって職場が変革できる時代だが、個性化とカスタマイズが重要であり、今後5年間は「最適化と人間性のバランスをどう図るかが課題だ」と述べた。

前編では、Asin氏のオープニング講演からスタッフィング業界のトレンドを中心に紹介する。

パンデミックによって何が変わったのか

Asin氏は、パンデミックによって変わった点を次の5つに絞って解説した。

①人材不足

米国の人材不足は人材危機のレベルに達している。2021年には大量自主退職が取りざたされたが、これは実際には多くのベビーブーマー世代が労働市場を離れたために起こった、大量リタイアメントである。この世代の労働参加率は、2020年1月の時点で20.7%だったが、2023年1月には19.3%に低下している。また、傷病休暇を取得する人が増え、自発的パートタイム労働者も増えている。「静かな退職」と言われるように2019年から2022年の間に労働時間が減少している。加えて、移民人口の減少が労働力不足の深刻化につながっている。企業は賃金アップで求職者を募るといった対応をしているが、人材不足の解消には至っていないのが現状である。

②フレキシブルワークの拡大

フレキシブルワークは主に労働者側から要請されている。LinkedIn上に掲載されているリモートワークの求人数と応募数を表したグラフをみると、リモートワークの求人は全体の15%に達しており、リモートワークへの応募は全体の50%を占めていることがわかる(図表1)。また、派遣会社で働く社員の47%はフルタイムのリモートワークかハイブリッドワークで働いており、派遣労働者のリモートワークも珍しくなくなった。
フリーランサー向けの仕事を提供するUpworkやFiverrといったプラットフォームは非常に好調で、希望する人はスキルさえあれば、世界中どこにいてもリモートで仕事を探して、リモートで働ける環境が整っている。パンデミックによって爆発的に増えたリモートの需要は今後も続くという予想が大半である。
一方で、フレキシブルワークには課題もある。団結力や協力関係の形成や維持、円滑な社内コミュニケーション、効果的な教育訓練という点で、フレキシブルワークは不利だという意見が多い。

図表1 LinkedInの求人にみるリモートワークの需要

図表1 LinkedInの求人にみるリモートワークの需要出所:LinkedIn via Abha Bhattarai (The Washington Post)

③ デジタルトランスフォーメーションの加速

派遣会社のテックスタックへの投資は活発で、なかでも、リクルートメントチャットボット、エンゲージメントプラットフォーム、テキスト&Eメール・テクノロジー、分析&ベンチマーキング、労働力分析、ソフトウェア統合、オンライン求人広告、社員リファラルプラットフォーム、ソーシング自動化ツールなどへの投資が増加しているという。また、Asin氏は、「対話型AIのChat GPTについて、期待が膨らみすぎてピークに近い状態になっている」と言及した。

④ インフレーション

連邦準備制度理事会(FRB)がインフレーション抑制のために2022年3月に利上げを始めたことで、インフレ率は鈍化傾向になった(図表2)。Asin氏は、「インフレーションはスタッフィング業界に悪い影響を与えているわけではない」と話す。実際、2022年は8%を超えるインフレーション率を記録したが、業界の収益やスタッフィング稼働率は好調だった。派遣会社は顧客企業との契約でマークアップ方式を採用しており、インフレーションによって自動的に請求額が上がるからである。

図表2 米国のインフレーションは徐々に減速しつつある

図表2 米国のインフレーションは徐々に減速しつつある出所:U.S. Bureau of Labor Statistics, All items in U.S. City average, all urban consumers, not seasonally adjusted.

⑤ 新しいモデルとアプローチ

新しいモデルとアプローチAsin氏は、「スタッフィング業界には、企業のダイレクトソーシングという新しいモデルがみられる」と話す。SIAの調査では、80%以上の企業がダイレクトソーシングに関心を持っているという。現在の投資比率は1%と低いが、今後数年の間に大きく拡大する可能性を含んでいる。企業がダイレクトソーシングに関心を示す第1の理由は、コスト削減ではなく、人材へのアクセスである。人材不足が深刻化するなかで、人材パイプラインの構築が非常に難しくなっている。「ダイレクトソーシングはトータルタレントの始まりであり、企業はあらゆる形態の採用方法を駆使して人材戦略を進めようとしている」(図表3)というのがAsin氏の見解である。

図表3 トータルタレント・アプローチ

図表3 トータルタレント・アプローチ出所:Staffing Industry Analysts

今後の見通し

Asin氏は今後の見通しについて、景気後退を予測する声は少なくないとしつつも、「失業率が依然として低く、雇用情勢が堅調であることから、楽観的にみてよい」と強調した。

米国スタッフィング業界の市場は、全体的には2%の成長が予測されるが、医療派遣についてはパンデミックの収束に伴って、医療スタッフの需要が落ち着いてきたため、減少に転じる見込みである(図表4)。グローバルレベルでは2021年に5.4兆ドルの市場規模を達成したスタッフィング業界の勢いは、今後数年間はとまらないと期待できる。

図表4 米国スタッフィング業界は2%上昇の見込み(2023年)

図表4 米国スタッフィング業界は2%上昇の見込み(2023年)出所:Staffing Industry Analysts, "US Staffing Industry Forecast, September 2022"

TEXT=Keiko Kayla Oka(客員研究員)