世界の最新雇用トレンドテクノロジーイノベーションがスタッフィングを変える

2023年3月6日から9日にかけて、フロリダ州マイアミでStaffing Industry Analysts(SIA) 主催のExecutive Forum North America が開催された。
後編では、特に印象に残ったセッションをレポートする。

リモートワークの定着

SIAが派遣会社の内部スタッフを対象に実施した調査によると、リモートワークが満足度や人材確保に良い影響を与えていると評価する意見が過半数を超えており、「リクルーティングに良い影響を与えている」という回答は46%にのぼる。一方で、社内の団結力やコミュニケーション、教育訓練開発については、多くがリモートワークにはマイナスな側面があると指摘している。

3月7日の同時進行セッション、次世代リーダーシップ・トラックでは「リモートワーク&ハイブリッドワークの世界でハイパフォーマンス文化を形成する」というパネルディスカッションが行われ、スタッフィング会社の代表を務める3名のパネラーがそれぞれの経験をもとに、リモートワークとハイブリッドワークについての意見を交わした。

IT派遣のPinnacle Group社長のJim Humrichouse氏は、「リモートワークにはマイナスの側面よりもプラスの側面が大きい」と断言する。リモートでは人を団結するのにコストがかかるが、柔軟な就労環境において、Zoomなどのテクノロジーを利用したり、イベントを開催することで、良いカルチャーを形成することができるという。

エグゼクティブサーチ会社のMeeDerby社長、Robin Mee氏も、「リモート環境下で円滑なコミュニケーションを図り、社員のモチベーションを維持するために、社内でさまざまなイベントを開催し、エンゲージメントに気を配るようになった」と同調した。同氏は社員の採用面接は本社オフィスで実施し、会社の雰囲気とカルチャーを肌で感じてもらうようにしており、「対面での触れ合いも重要である」と付け加えた。

ディスカッションでは、出社しないことによる温室効果ガスの削減やストレスの軽減といった、リモートワークの利点が挙げられる一方で、会場からは生産性の低下やリモート中の社員の副業といった問題点が指摘され、活発な議論が重ねられた。最後は、労働側からの強い要請と支持があるため、リモートワークは定着するという結論で一致した。

パネルディスカッション「リモートワーク&ハイブリッドワークの世界でハイパフォーマンス文化を形成する」パネルディスカッション「リモートワーク&ハイブリッドワークの世界でハイパフォーマンス文化を形成する」
左からSIA Adrianne Nelson氏(モデレーター)、LaSalle Network CEO Tom Gimbel氏、Pinnacle Group社長Jim Humrichouse氏、MeeDerby社長Robin Mee氏

発展が目覚ましい人材獲得テクノロジーイノベーション

エグゼクティブフォーラムでは毎年、数多くのテクノロジーイノベーション関連のセッションを行っている。3月7日の「人材獲得テクノロジーの最新イノベーション」という同時進行セッションでは、SIAのテクノロジー専門家3名が人材獲得テクノロジーの各モデルについて、現状を説明した。

SIAでは、人材獲得テクノロジーを「候補者発掘」「候補者エンゲージメント」「候補者の身元確認・評価」「候補者プロセシング」「他の労働力テック」の5つのカテゴリーに分類しており、各カテゴリーで、注目度の高いテクノロジーを紹介した(図表1)。

図表1 SIAによる人材獲得テクノロジー分類

図表1 SIAによる人材獲得テクノロジー分類出所:Staffing Industry Analysts

「候補者発掘」では、社員リファラル分野の発展が著しい。SIAでは3年前に報告書をまとめているが、今回の報告にあたり、報告書にあるリンクをチェックしたところ、半分がつながらなくなっていたという。M&Aで吸収されたか、事業閉鎖したと思われるが、つまり、成功するのが難しいモデルだということである。一方、成功している企業もある。WorkLLamaは優れた社員リファラル・モジュールを備えたエンゲージメントプラットフォームであり、ATS(応募者追跡システム)のAvatureは、便利な社員リファラル・モジュールを備えている。また、社員リファラルプラットフォームのなかには、チャットボット分析機能を備えたものやダイバーシティに対応したAIを搭載したモデルも出てきている。

「候補者エンゲージメント」では、テキスト&Eメール・プラットフォームの分野が特に活発である。米国では、社員とのコミュニケーションにテキストが使われている。ショートコードを設定すれば、候補者が直接求人に応募でき、候補者スクリーニングの情報収集、面接のセッティングなど、さまざまなツールとの統合も可能である。テキスト&Eメール・テクノロジーはAIと自然言語プロセシングを利用しており、その多くは会話型AIである。

「候補者の身元確認・評価」では、新しい身元確認のテクノロジーがある。米国では、書類を偽造するディープフェイク・テクノロジーが広まっているため、身元確認ツールの利用価値は非常に高い。特にリモート環境における身元確認の需要が高まっているため、競争は激化しており、製品価格は下落傾向にある。最近の面接プラットフォームは、ビデオチャットテクノロジーを超えた分析機能や面接詐欺防止機能がある。昨年SIAが行った調査によると、面接プラットフォームの4分の3はAIを使用している。

「候補者プロセシング」には、ATSやベンダーマネジメントシステム(VMS)、ダイレクトソーシングなどが分類される。ダイレクトソーシング・プラットフォームは、ソーシング、ツール、求人広告、プログラマチックテック、人材プール、候補者コミュニケーション、評価、テクニカルスキル評価などを組み合わせたもので、マッチングやエンゲージングを素早く実行する能力もある。
スタッフィング業界では、このようなテクノロジーを利用するクライアント企業が増えているという。

オートメーションで変わるリクルーターの役割

オートメーションは人気の高いテーマで、複数のセッションが実施されていた。「リクルーターの役割は進化している:オートメーションが状況を変えた」と「何をいつ自動化するか」のディスカッションの論点は、リクルーターの役割の変化であった。「リクルーターの役割は進化している:オートメーションが状況を変えた」ではAIチャットボットなどを展開するSenseがデモを含めた報告を行った。報告では、5年前と現在ではリクルーターの日々の業務が大きく変わっていると指摘された。5年前は、朝から新規求人をチェックし、候補者に連絡し、スクリーニングするという作業を何度も繰り返すというもので、労働時間の30~40%をパイプラインの構築に、20~30%を候補者のスクリーニングや面接に費やしていた。しかし、現在では、リクルーターの業務をより効率的に進めるツールも数多く開発されており、候補者への連絡からマッチングまでの業務の90%程度をほぼ完全に自動化している派遣会社も少なくない。

一方、「何をいつ自動化するか」では、オートメーションがスタッフの需要に与える影響について議論が進んだ。北米の派遣会社調査では、「オートメーションがスタッフの需要に影響を与えることはない」という意見が多かったが、「スタッフの配置には影響がある」と予想される。オートメーションによってスタッフの役割や職種が変化し、増える可能性がある。また、リクルーターを含むさまざまな職種のスキルセットが変わるという見方が大勢を占めている。

労働市場とスタッフィングの将来

最後の基調講演は将来予測。スタッフィング業界を代表するパネラーが労働市場やスタッフィング業界の将来を予測した。参加者もスマートフォンを使って、予測を投票した。

基調講演「将来予測」の模様基調講演「将来予測」の模様
左からSIA Ursula Williams氏(モデレーター)、SIA社長Barry Asin氏、RemX社長Joanie Bily氏、Beeline 法人開発責任者 Teresa Creech氏、Randstad North America CEO Traci Fiatte氏、SIAエグゼクティブディレクター John Nurthen氏

質問は全部で11問あり、5人のパネラーが4つの選択肢から回答を選ぶ。「5年後の失業率はどうなるか」という質問では、「A. 3%未満」「B. 3~4%」「C. 4~8%」「D. 8%超」という四肢択一で、全員が「C. 4~8%」と回答した。現在の労働市場はかつてないほどに逼迫した状況にあり、今後も労働力を獲得するのは難しい。さまざまな点で鈍化がみられる一方で、米国労働統計局は堅固な雇用増大を予測している。そのため5年後の失業率は現在よりも若干悪化するが、4~5%の間に落ち着いているだろうという見解で一致した。

次に「現在、米国派遣会社のトップ5はAllegis Group、Aya Heathcare、Randstad、Express、Adeccoだが、2028年のトップ5はどうなっているか」という質問では、「A. 同じ顔ぶれ」「B. 5社のうち1社が変わっている」「C. 5社のうち2~4社が変わっている」「D. トップ5すべてが変わっている」という四肢択一で、全員が「C. 5社のうち2~4社が変わっている」と回答した。

2028年には何パーセントがフルリモートで働いているか

一方、「パンデミック下、派遣会社の内部スタッフのうち47%はフルリモートで仕事をした。2028年には何パーセントがフルリモートで働いているか」という質問では、「A. 40%未満」「B. 40~50%」「C. 50%超」「D. このリモート何とかというのは最低だ」という選択肢があったが、Bが2人、A、C、Dがそれぞれ1人ずつと回答が割れた。Dを選んだRemX社長Joanie Bily氏は、「最低だと思うのはこの話をするのに飽きたからだ。人の働き方が変わっているのは明らかなことで、仕事そのものも、仕事をする方法も変わっている。これから先の働き方はリモートかハイブリッドが定着すると思う」と述べ、会場から賛同と笑いの拍手を得た。

TEXT=Keiko Kayla Oka(客員研究員)