Next Issues of HR フェイクニュースにどう向き合うか第5回 Web3とフェイクニュース

連載最終回である今回は、今、注目されているWeb3が、フェイクニュースにどのように影響するのかについて考えていきたいと思います。

インターネットの世界は、一部の人たちがWeb上で情報発信していたWeb1.0、SNSなどの発達で誰でも双方向的にコミュニケーションできるようになったWeb2.0へと進化してきました。しかし、誰もが自由に情報を扱うことができるはずのWeb2.0は、結局、一部の巨大化したプラットフォーマーが大量の情報を囲い込み、管理する中央集権的な状況を生み出しています。

この状況に対抗する動きとして提唱されているのが「分散型インターネット」といわれるWeb3です。ブロックチェーンなどの技術を活用して情報を利用者の間で分散管理することにより、プラットフォーマーによる情報の寡占、ブラックボックス化を解消し、透明性を高めていこうという考え方がその思想の根本にあります。各国の中央銀行に管理されない暗号資産などは、まさにWeb3を象徴するテクノロジーです。

Web3の世界では、情報にトークンという記録が残されます。つまり、フェイクニュースとの関連で言えば、情報の出所の確認が容易になるため、第三者によって改ざんされた情報や画像が拡散するリスクは低減されると考えられます。現状では、フェイクニュースを放置するのも統制・管理するのもプラットフォーマー次第。統制・管理し切れていないからこそ、フェイクニュースの拡散が起きてしまうわけですから、Web3への移行は、原理的には情報生態系の構造をより健全な方向へと向かわせるものだといえるでしょう。

ただし、Web3が今後どれだけ進んでいくかに関しては専門家の間でも意見が分かれており、今のところ懐疑的な見方のほうが多数派です。すべての情報をブロックチェーンで管理するとコストが掛かりすぎるし、コミュニケーションのスピードが落ちてしまう。また、透明性が高まると、人々の情報を発信することに対する心理的なハードルが高くなり、インターネット上のコミュニケーションへの参加者が減ってしまうなどさまざまな懸念があるからです。

また、現状では、Web3は一種のバズワード化しており、技術にあまり詳しくない人による過度にポジティブな情報発信も数多く見られるので注意は必要です。私自身、Web2.0から全面的にWeb3に移行するとは考えていません。Web2.0の世界にブロックチェーンなどを活用したWeb3のサービスが徐々に取り入れられていくという複合的な状況になっていくのではないでしょうか。

Web3の進展は、DAO(分散型自律組織)のような新しい組織のあり方、働き方の可能性も広げます。個々が発信する情報の透明性が高まることによって、これからの世界では人と人との間の信頼関係の築き方が変わってくることも考えられます。そのような未来に、フェイクニュースはどうなっていくのか、私たちのコミュニケーションがどう変化していくのか、注意深く見守っていく必要があるでしょう。

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w172_fake_01.jpg笹原和俊氏
東京工業大学 環境・社会理工学院 技術経営専門職 学位課程 准教授

名古屋大学大学院情報学研究科講師などを経て現職。専門は計算社会科学。主著は『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(化学同人)。

Text=伊藤敬太郎 Photo=笹原氏提供  Illustration=ノグチユミコ