Next Issues of HR ブレインテックの可能性と課題第3回 ビジネス、人事に関わるブレインテック

これまで2回の連載を通してブレインテックの研究開発がどのように進んでいるかをお伝えしてきました。

まだまだビジネスの世界では実用に至らない技術もあれば、既に商品化されている技術もあり、現状はまさに過渡期です。しかし、世界中から莫大な資金がブレインテック関連の研究開発に流れ込んできていることを考えれば、市場規模はあるティッピングポイントを境に急激に拡大する可能性を秘めています。

インターネットやスマートフォンなどの革新的テクノロジーは、今までも功罪を議論されながら世の中に普及していきました。それを踏まえれば、抵抗感を持つ人が少なからずいるなかでも、ブレインテックがビジネスの領域で普及していく未来を想定しておく必要があります。

そこで、私たちが考えておかなくてはならないのが、ブレインテックがもたらすリスクです。私たちの脳が外部とつながったとき、たとえば、外部から脳をハッキングされてしまう、脳を外部から操作されて犯罪に巻き込まれるといった懸念があります。ふと頭に浮かんだ本音がSNSに書き込まれたり、テレパシーのように相手に伝わってしまったりするかもしれません。プライバシーや個人情報は、今までとは違うレベルで管理しなければならなくなるでしょう。

また、ブレインテックを活用して生産性向上を図る人が実際に出てきた場合、それができる富裕層とそれ以外の層との間の格差が今以上に拡大する恐れもあります。

実は既に世界中の研究者や有識者から、このようなブレインテックのリスクに対する警鐘が鳴らされています。たとえば、英国の学術団体であるロイヤルアカデミーは、このような懸念を報告書にまとめて発表しています。また、チリでは、憲法を改正して、ブレインテックを規制するニューロライツ条項を2021年10月に追加しました。チリの動きはさすがに先走りすぎではないかと個人的には思いますが、もう既に議論すべき時期にきていることは確かです。

始まったばかりの技術をあまり最初から規制でがんじがらめにしても技術の発展を妨げてしまいますが、遅すぎても手遅れになる。日本国内でも、適切な時期に適切な加減でガイドラインや規制を設けていくことが、今後、求められるでしょう。

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w169_ni_02.jpg小林雅一氏
KDDI総合研究所 リサーチフェロー
情報セキュリティ大学院大学 客員准教授

日経BP記者などを経て現職。著書に『ブレインテックの衝撃─脳×テクノロジーの最前線』(祥伝社新書)、『AIの衝撃─人工知能は人類の敵か』(講談社現代新書)など。

Text=伊藤敬太郎 Photo=小林氏提供 Illustration=ノグチユミコ