職業格差はなぜ生じるか-男女別、年齢層別の職業人気度-
松本洋輔(一橋大学 経済学研究科)
性別・年齢層によって人気職業は異なる
ここまでの分析において、「労働者の属性によって、その人が感じる仕事の価値が変化するのではないか」との疑問が浮かんだ人もいるのではないか。 そこで、今回は、職業人気度をより細かく分析することで、職業人気度の格差についてさらに理解を深めていきたい。
図表1は男女別の職業人気度を示している。男女の結果を比較してみると、男性は警備員・建設作業者・ドライバーに対しての不人気度が相対的に低く、体力が必要な仕事にもそこまで抵抗感を持たないことがわかる。一方で、女性は一般事務・調理師の人気度が相対的に高く、屋内の仕事を好む傾向がある。
図表2・3は、それぞれ男性・女性の年齢層別の職業の人気度を示している。男女ともに年齢を重ねるにつれて、職の人気度に変化が生じることが確認できる。目立った特徴としては、年齢を重ねるにつれて建設作業者・清掃員の人気度が低下すること、60代以上になると研究開発や教員などの魅力が増すことが挙げられる。
これらの男女・年齢層間の人気職業の差異は様々な要因によって説明されるが、体力面での限界や、世間一般で考えられているイメージなどが主な影響として考えられる。
図表1 男女別の職業人気度
出典:リクルートワークス研究所「サービス業の働き方調査」より作成
図表2 年齢層別職の人気度(男性)
出典:リクルートワークス研究所「サービス業の働き方調査」より作成
図表3 年齢層別職の人気度(女性)
出典:リクルートワークス 研究所「サービス業の働き方調査」より作成
女性や高齢者就業者の比率の高まりが、職業ミスマッチに影響を与えている
ここまで、年齢・性別等の人々の特性により、人気・不人気職業が変化することを確認してきた。ここで、職業の人気度の偏りが、今後の日本の労働市場にどのような影響を与える可能性があるのかを考えてみたい。
現在、日本の労働市場では少子高齢化のなか、女性や高齢者の就業化が進んでおり、労働者の性・年齢構成が大きく変化している。図表4は就業者数の増減を示すグラフである。これを見ると、就業者数は増加を続けているが、その要因は65歳以上の高齢者と女性の就業者数増加にあり、15-64歳男性の就業者数はむしろ減少傾向にあることがわかる。
これに合わせて図表6が示すように求職者に占める高齢者の割合も増加を続けていること、15-54歳男性の就業率は80%中盤と既に高位で推移しており新規労働市場参入の糊代がさほど存在しないことから、今後も労働市場に占める高齢者・女性労働者の割合が大きくなっていくことが予想される。
ここで、改めて15-64歳男性と比較した際に、高齢者・女性労働者に相対的に不人気な職業を見てみると、現在人手不足(人手不足が進行している)職業である建設作業者、ドライバー、警備員等が当てはまることがわかる。
職業の選好が労働供給や職の定着率に影響を与えている場合、労働者構成の変化が職の選好(人気度)を通じてこれらの職業の人手不足傾向に影響していると推察できる。また、先ほど述べたように、高齢者・女性労働者増加の傾向は今後も続くと考えられるため、これらの職種の人手不足はより一層深刻になることが予想されるのである。
図表4 就業者の対前年比増減
出典:総務省「労働力調査」より作成
図表5 就業者のうち65歳以上の者の占める割合の推移
出典:総務省「労働力調査」より作成
図表6 年齢階層別の有効求職者数の推移
出典:厚生労働省「職業安定業務統計」