【リモート採用】応募者の増加や選考スピードの向上を実現
本コラムでは、「Pandemic Impacts」調査の企業インタビューとサーベイから明らかになった「リモート採用・リモートワーク」の実態や取り組みを振り返る。
企業の7割が「ハイブリッド型」で新卒・中途採用を実施
インタビューを行ったすべての企業が、2022年の新卒採用と中途採用において、対面式とリモートを組み合わせたハイブリッド型による採用活動を行っていた。サーベイの結果をみると、新卒採用で最も多かったのは「ハイブリッド(69.2%)」、中途採用も「ハイブリッド(65.6%)」と同様であった(図表1)。
【図表1】新卒・中途採用活動の対面・非対面の形式(N=65)
出所:「Pandemic Impacts調査」サーベイ(2022年)、リクルートワークス研究所
会社説明会や選考は主にリモート
サーベイでは、採用プロセスを、会社説明会、一次面接、二次面接、スキルアセスメント、オンボーディングの5つの工程に分け、リモートで行っているのはどの工程かを聞いた。新卒採用でリモートが多かったのは「会社説明会(58.5%)」「スキルアセスメント(56.9%)」「一次面接(49.2%)」であった。中途採用でリモートが多かったのは「スキルアセスメント(56.3%)」「二次面接(53.1%)」であった。一方、リモートが少なかった採用工程は「オンボーディング」で、新卒18.5%、中途32.8%とともに少なかった(図表2)。
【図表2】リモートで行っている採用工程(複数回答、N=65)
出所:「Pandemic Impacts調査」サーベイ(2022年)、リクルートワークス研究所
オンボーディングは対面式で実施
対面式のオンボーディングは、従業員が内定者に直接歓迎の意を伝えたり、内定者が従業員に気軽に質問したりするなど、よりコミュニケーションを円滑にすることができる。一方リモートは、内定者が従業員同士の交流する様子を見ることができず、職場の雰囲気がわかりづらいため、企業側は文化や風土を伝える方法を工夫したり、就業初日まで内定者と頻繁に連絡をとったりするなど、きめ細かいフォローが必要となる。インタビューでは、内定後のオンボーディングは、リモートよりも対面式で実施するほうが適しているのではとの意見があった(Thoughtworks)。
Aptitude Researchの調査では、入社後に新卒者は中途採用者よりも、会社の一員であるとより強く感じられるオフィス出社を望む傾向があるため、企業は新卒者のオンボーディングは対面式で行うようである。
リモート採用の効果と課題
インタビューでは、採用工程にオンライン化を導入することによるさまざまな効果が見られた。Kimberly-Clarkでは、オンライン面接の導入後、採用のスピードが上がった。Quadientでは、バーチャルジョブフェアの活用で、より多くの応募者を集めることができた。Thoughtworksでは、グローバル採用は国によって選考プロセスや基準にばらつきがあったが、標準化することで採用の質が向上した。また、面接の日程調整や移動の手間、コストが減った。
ThoughtworksとQuadientの2社は、フルリモート採用者の1年後の定着率を測定していた。Thoughtworksは90%、Quadientは61~70%と、両社とも対面式とリモート採用との差は見られなかったという。
一方、リモートの課題も浮上した。Raytheon Technologiesは、新卒採用でバーチャルジョブフェアを開催しているが、大学キャンパスへの訪問も一部再開した。その理由の1つに、バーチャル疲れによる参加者の減少を挙げていた。同社のイベット・ストルツ氏は、「今後はリモートと対面式のハイブリッドのバランスを上手くとることが大切である」と語った。バーチャルイベントでは、企業が出会える候補者の数は多くなるが、一方通行のコミュニケーションになりがちで、参加者のモチベーションの維持が難しくなる。また、複数の企業が参加する合同企業説明会では、他社との差別化の工夫が必要となる。Scott Resource Groupの調査によると、バーチャルジョブフェアに参加する学生のエンゲージメント低下の原因の1つは、画面越しでは話し手の感情や熱量が伝わりにくいため、オンラインではどの企業も同じに見えると学生が感じている点にあるという。マデリン・ロレイノ氏(Aptitude Research)も、企業が大学キャンパスを訪問して学生と直接交流する、キャンパスリクルーティングが減ったため、学生のエンゲージメントの低下が見られると指摘した。さらに、学校や企業ごとに利用するHRテクノロジーが異なるため、学生は慣れないシステムを利用することにフラストレーションを感じているという。そのほか、候補者と面接を行うマネジャーの双方がオンライン面接に慣れていないという企業もあった(Quadient)。
オンライン面接やアセスメントに利用しているHRテクノロジー
オンライン面接のツールは、主にMicrosoft TeamsやZoomが利用されていた。クラウド型ビデオ会議システムのBlueJeansやクラウド型ホワイトボードツールのMURALを使用する企業もあった。今後導入したいツールについては、実務シミュレーションができる製品(Quadient)や、質問内容や回答時間などのデータを分析し、面接官の面接スキルを向上させる製品(Metaview)に注目していた(Thoughtworks)。
アセスメントでは、リーダーシップやコミュニケーションといったソフトスキルの評価に、候補者の行動特性を測り、職務で求められる行動特性との一致を確認することで、入社後の活躍を予測するPlumが利用されていた(Quadient)。技術職のハードスキルの評価には、HackerRankやCodeVue、ハッカソンが利用されていた。Thoughtworksは、新卒採用にHackerRankのコーディングテストを利用し、業務に必要なテクニカルスキルを保有しているかを確認している。
企業の過半数がハイブリッドワークを導入
米国では、今後もリモートワークを続けるのか、オフィス出社を再開するのか、さまざまな議論が起きている。サーベイでリモートワークに関する会社の方針について聞いているが、回答企業の過半数がハイブリッドワークを実施していた。実施方法で多かったのは、「ハイブリッド型で、リモートワークの具体的な日数などについてはリーダーが決める(26.2%)」「ハイブリッド型で、リモートワークの具体的な日数などについてはチームで決める(20.0%)」であった(図表3)。
ロビン・エリクソン博士(全米産業審議会)はインタビューで、「会社が出社日を決めるよりも、マネジャーが自分のチームにとって何がベストかを判断し、チームがオフィスに集まる日を決めるほうが良い」と提案している。
【図表3】リモートワークに関する会社の方針(N=65)
出所:「Pandemic Impacts調査」サーベイ(2022年)、リクルートワークス研究所
リモートワークが採用に与える影響については、サーベイでは「人材を採用しやすくなった(63.1%)」「人材を採用しにくくなった(21.5%)」「どちらでもない(15.4%)」という回答であった(図表4)。インタビューでは、場所を問わない働き方も可能となったことで、「これまでリーチできなかった地域に住む潜在層も対象にできるようになった」とメリットを挙げる企業もあった(Raytheon Technologies)。住む国を問わず優秀な人材を積極的に採用している企業もあった(Quadient)。
一方、従業員の働き方に柔軟性を持たせることは、人材の確保には最低限必要な条件であり、差別化にはつながらないという企業もあった(Kimberly-Clark、Thermo Fisher Sicentific)。また、ハイブリッドワークを導入しているため、フルリモートで働きたい候補者を採用できなかったケースも見られた(Thermo Fisher Sicentific)。
【図表4】リモートワークが採用に与える影響(N=65)
出所:「Pandemic Impacts調査」サーベイ(2022年)、リクルートワークス研究所
オンライン面接のガイドブックやハウツー動画を作成
企業は、リモート採用を成功させるためさまざまな取り組みを行っていた。Thermo Fisher Scientificでは、オンボーディングを人材獲得部門の管轄として「オンボーディングスペシャリスト」職を設置し、候補者の応募前から入社後までシームレスな候補者体験を提供している。また、新規採用者の入社から30日後と90日後の2回にわたって、マネジャーとチームメンバーの満足度を測るアンケート調査を実施している。Thoughtworksでは、リモート採用での候補者体験の測定に注力している。そのほか、オンライン面接に不慣れなマネジャー向けに、テクノロジーの使い方や面接方法などをまとめたガイドブックを作成したり、候補者には自分の良さをアピールするアドバイスをまとめた動画を作成し、リモート採用を円滑にする工夫も見られた。
有識者は「リモートによる採用活動は続く」という見解を示しており、今後もハイブリッド型の採用が主流になると見込まれる。ハイブリッド型の採用を生かすためには、対面とリモートのそれぞれの特徴や効果、デメリットを理解し、自社に合った組み合わせ方を考える必要がある。
そして、会社説明会をリモートで行う場合は、候補者の志望度を高めるために、自社の特徴や魅力の伝え方をより一層工夫したり、候補者の人柄など非言語の情報が少ないオンライン面接では見極めの精度を上げるために評価基準を明確化するなどの取り組みが求められるだろう。さらに、シンプルで使いやすいシステムを利用したり、オンボーディング専任の担当者を置いて内定者のフォローを強化するなど、候補者一人ひとりに合わせて個別最適化した採用を行い、候補者体験の質を高めることも重要となるだろう。
TEXT=杉田真樹
調査協力=ジェリー・クリスピン(CareerXroads創設者兼共同代表)、
クリス・ホイト(CareerXroads共同代表)
〈Pandemic Impacts調査 インタビュー〉
・目的:米国企業の採用動向を明らかにする
・調査方法:インターネットによるビデオインタビュー
・実施時期:2022年3~4月
・対象:グローバル企業の採用責任者・アナリスト・コンサルタント 10人
〈Pandemic Impacts調査 サーベイ〉
・目的:米国企業の採用動向を明らかにする
・調査方法:インターネット上のサーベイ調査サイト利用によるウェブ調査
・実施時期:2022年3~4月
・対象:グローバル企業の採用責任者 66人