マネジャーはこれからも若手を育てられるか若手との関係から考える、成功する育成

管理職はロールモデルになりうるか

前回に続いて、管理職が若手育成にどう介在可能なのかを考えていこう。

若手社会人と話をすると「ロールモデルになりそうな人が社内にいない」「職場の上司の様子を見ていて目指したいと思わない」という声を本当によく耳にする。かつては、自身の10年後・20年後はその職場の10歳上・20歳上の先輩を見れば概ね把握でき、その姿を自分に重ねたものだが、そのシンプルな関係性が薄れているのだ。

この点について、今回の調査で興味深かったのが、管理職自身が様々な経験をしていることによって、若手育成成功実感率(以下、単に育成成功実感率)が大きく向上する傾向が見られたことだ(図表1)。

例えば、管理職自身が「所属する企業・組織外の人との勉強会の主催」を実施している場合、育成成功実感率は38.4%、単にそうした勉強会に「参加」しているだけでも25.7%であった。これはこうした活動を全くしていない場合の育成成功実感率が12.6%であることを鑑みると、非常に高い数値であると言える。他にも、大学院等での学び直しやプロボノ活動、副業・兼業など、社外の空間で経験を積んでいる管理職は育成成功実感率が高い。

これには2つの見方があるだろう。ひとつには、若手にとってこういったアクションを起こす管理職自体が新たなロールモデルになっているケースだ。この場合に、自身がロールモデルになることで若手との関係性が転換し、育成の効率が上昇している可能性がある。もうひとつには、社外での経験が結果としてその管理職の育成能力を高めている場合だ。

現代の職場環境(ゆるい職場)において、これまでのような育成方法(※1)は通用しない(「自分の頃と同じように育てられない」は管理職の育成上の課題で最も回答者の多い項目であった。第1回を参照)ため、若手と向き合うことのできる管理職の新しい像が求められているように考える。

図表1 管理職が取り組んでいること別 育成成功実感率
管理職が取り組んでいること別 育成成功実感率管理職と若手の関係性について、もうひとつ分析を提示する。
“呼び方”と管理職の育成成功実感の関係性である。呼び方については、若手当事者においても管理職においてもほぼ同じ結果が出ており、大手企業では8割方が「〇〇さん」呼びになっていることがわかっている(第1回)。たしかに、10年ほど前までの職場において、「呼び捨て」、もしくは「〇〇くん」「〇〇ちゃん」が当たり前だったことを思い起こすと、上司―若手の関係性に外形的に大きな影響を与えている要素のひとつだろう。この傾向は、若手育成の成功実感と何らかの関係を持つのか検証したのが図表2だ。

結果としては微細な高低はあるが、統計的に有意な差はなかった。つまり、呼び方は育成成功実感には無関係であった。「さんづけ」にしたからと言って、直ちに育成実感が高まることはない様子で、確かに外形的な関係性は変わったのかもしれないが、どちらかと言えばハラスメント防止のための予防的な打ち手に留まっていると言えるかもしれない。

図表2  “呼び方”と管理職の育成成功実感率
“呼び方”と管理職の育成成功実感

若手のバックグラウンドを理解する気持ちがあるか

また、“若手がどう見ているか”の逆の視点として“(管理職が)若手をどう見ているか”についても、考える素材を提示する。

図表3に、回答した管理職が自社へ入社してくる若手に経験しておいて欲しいことを聞いた結果を掲載した。最も多いのは「大学での部活・サークル活動」(41.8%)で、次に「大学での専門的知識の学習」(36.2%)、「大学での教養的知識の学習」(35.2%)と続いている。

どの項目の回答者が多かった・少なかったについてはこの際それほど重要でないが、ざっくりまとめれば「大学生らしい経験をしておいて欲しい」管理職が相対的には多いということだろう。

さて、この若手に求める学生時代の経験と育成成功実感に興味深い関係が見られることを示したい(図表4)。その経験を若手に求める管理職・求めない管理職ごとの育成成功実感率を提示し、その差(「求める」-「求めない」の差分の%ポイント)を一番右の列に示した。注目すべきは「あてはまるものはない」、つまり“何の経験も求めていない”という管理職の育成成功実感率が著しく低い(9.2%)ことだ。これは、「変に色がついているより、会社の色に染まってくれる白紙がいい」「大学での経験など社会に入ってからは何の役にも立たない」というような認識を持っている管理職だと、若手の育成に成功実感を得られにくいということだ。

また、項目別で差分が最も大きい、すなわちその経験を若手に求めている管理職の育成成功実感が高いのは、「社会人と一緒のチームで成果を出すプロジェクト・活動」(+10.4%ポイント)、「知人ではない多人数の前でのプレゼン・スピーチ」(+10.1%ポイント)、そして「長期間の旅行やレクリエーション」(+8.8%ポイント)であった。大学生・大学院生の本分とも言える学業やサークル活動というよりは、学生でありながら学校の外の世界とつながるような経験を求めている管理職の育成成功実感が高い。

これには様々な解釈がありうるだろうが、少なくとも「何の経験もしてこなくて良い(=そんな経験には意味がない)」という学生時代の経験を軽視する管理職の育成成功実感が低いことには留意が必要だろう。この結果は、たとえ自社での経験がまだ白紙の新入社員であっても、そのバックグラウンドに期待し、ひいては何をしてきたのか知ろうとすることが現代の育成の第一歩として重要であることを示唆する。また、若手にも越境的な経験を求めている管理職の育成成功実感が高いことは、先述の管理職自身のキャリア形成の幅の議論ともつながるかもしれない。

「大学での専門的知識の学習」が唯一、求めている管理職が求めていない管理職よりも育成成功実感率が低いが、これは職場において大学での専門的知識を使いこなせていない状況が背景にあるかもしれず、管理職としても若手の専門性を活かせず悶々とした心情が表れているのかもしれない(※2)。

図表3 若手に求める学生時代の経験(※3)(複数回答、%)若手に求める学生時代の経験図表4 若手に求める学生時代の経験への回答と、管理職の育成成功実感率
図表4若手に求める学生時代の経験への回答と、育成成功実感

小手先の「形式改善」ではフィードバックはうまくいかない

管理職-若手関係を整理するうえで、筆者が欠かせないファクターと考えているのが「フィードバック方法」である。第1回において、すでに日本の大手企業の管理職のフィードバック手法が完全に「褒める型」となっていることを指摘しているが、具体的にどのようなフィードバックを心掛ける管理職が、若手の育成実感が高い傾向があるのだろうか。簡単な重回帰分析モデルを構築し検証した。

分析モデルは被説明変数を育成成功実感ダミー(※4)とするプロビット分析で実施した。説明変数として、指導・フィードバックする際の姿勢(※5)、統制変数として管理職の属性をコントロールすべくリモートワーク頻度、マネジメント経験、転職経験、年齢(※6)を投入している。

指導・フィードバック姿勢に関する回答を図表5に示した。「ハラスメントにならないように」や「多くの人の目に触れないように」といった点について、多くの管理職が気を使っていることがわかる結果となっている。こうした結果を説明変数として、先述の分析の結果を簡易的に示したのが図表6である。

図表5 指導・フィードバック姿勢に関する回答(%)
指導・フィードバック姿勢に関する回答

図表6 どのような指導・フィードバックの姿勢が育成成功実感をもたらすか(イメージ)どのような指導・フィードバックの姿勢が育成成功実感をもたらすか(イメージ)※実線は有意な変数、線なしは有意ではなかった変数
※決定係数は.1817
※有意水準は、1%:*** 5%:**

結果の有意水準や係数をふまえると、図表6からは、以下のことがわかる。

◎「フィードバックの目的を明確にして行う」「肯定的・ポジティブな表現を用いて行う」は1%水準で有意であり、また回帰係数が相対的に大きい。特に効果が見込まれる若手へのフィードバックのキーポイントであると言える。“このフィードバックはどういった目的なのか”を冒頭などのタイミングで明示し、そして直接的に指導をする場合にも肯定的な言葉を選択する、この2点は必ず気を付けたい点である。
◎「ハラスメントにならないように行う」は1%水準で有意であり、回帰係数は相対的には先述の2項目ほどは高くない結果である。指導・フィードバックの大前提としてほとんどの大企業では管理職向けにハラスメント研修が実施されていることと思うが、個々人の心掛けとしては改めて“押さえておくと得をする”部分と言えよう。
◎「多くの人の目に触れない場で、個別に行う」「フィードバック用の資料をつくるなど、整理して行う」については有意な結果ではなかった。褒める・叱るも個別に行うよう心掛けている管理職は図表5を見る限り多数派であるが、育成成功実感への影響は見られない。また、資料をつくるなどのフィードバックも有効性は見られず、コストを掛ければ掛けるほど効果があるというものでもないことが示唆される。
◎なお、統制変数については、いずれも有意な結果は得られていない。

これを考察すれば、「人の目に触れないように」や「資料をつくって手厚く」という、伝えるシチュエーションや形式の問題というよりは、むしろ「なぜその指導・フィードバックを行うのかの明確性を高め」「肯定的だが趣旨が明確に伝わるフィードバック技法を身に付ける」という“コンテンツ”の部分こそがポイントになっているのだろう。そう考えると、マネジャーの悩みが深い理由も理解できる。こうしたポイントは、なにか形式を変えれば一朝一夕で改善される部分ではなく、一定の経験と習熟が必要な領域だからである。
そう考えたとき、若手を育成するというタスクは、上司や先輩が片手間にできるものではなくなりつつあるのかもしれない。「育成専門職」「フィードバック専門職」のような職務の必要性すら感じさせる結果が示唆されているのだ。

若手-管理職の関係性は急激に転換したが、その新しい関係性における育成の試みはまだ始まったばかりである。職場が変わり、若手も変わったように、管理職も変わらざるを得ないだろう。

古屋星斗

(※1)かつての特徴は内製的、垂直的な育成メソッドであったと筆者は整理している
(※2)なお、技術系総合職を多く抱える職場が育成難度が高いなど、業種による偏りが推察されたため、製造業・非製造業等で当該項目の回答傾向を確認したが、業種による有意な傾向はなかった
(※3)「学校卒業まで(就職するまで)に、自社へ入社してくる若手に経験しておいて欲しいことをすべて選んでください」と質問した結果
(※4)若手育成成功実感が高い=1、高くない=0とする変数である。若手育成成功実感スコアの上位16%水準(概ね25点満点中21点以上の水準)のマネジャーである。詳細は第3回を参照
(※5)「あなたが人事評価を実施する20代の若手社員に対して指導・フィードバックをする際の姿勢に関する各質問について、一番近いものをお答えください」と質問し、「あてはまる」~「あてはまらない」のリッカート尺度・5件法にて回答を得た。変数としては「あてはまる」を5、「あてはまらない」を1として投入した
(※6)リモートワーク頻度多ダミー:現在のリモートワークの頻度について、「毎日のように」「週に2・3回程度」「週1回程度」あると答えた回答者を1とするダミー変数
課長職10年以上ダミー:部下の人事評価を行う課長職経験が10年以上ある回答者を1とするダミー変数
転職なしダミー:転職経験がない回答者を1とするダミー変数
50歳以上ダミー:年齢が50歳以上の回答者を1とするダミー変数
※ダミー変数とは、該当者を1、非該当者を0とする変数