マネジャーはこれからも若手を育てられるか若手育成問題が人材戦略に与える二重のインパクト

現代の職場環境におけるマネジャーの若手への介在のあり方を検討する本レポートシリーズだが、2回目は、マネジャー自身の仕事との関係で若手育成実感がどう機能しているかについて検討する。例えば、ワーク・エンゲージメントは若手育成上の重要な論点となっているが、職場で若手と向き合うことが育成のミッションを帯びている管理職のエンゲージメントをどう左右しているかにも注目すべきと考える。この観点で、管理職のエンゲージメントに若手育成状況を媒介させて見てみよう。

密接にリンクする管理職層の「若手育成実感」と「エンゲージメント」

若手育成がうまくいっている・いっていない実感が、管理職のワーク・エンゲージメントとどう関係しているのかを検証する。図表1に示したとおり、この点については明確な正の関係が存在していた。
ここでは「育成実感」として、部下の若手のこの数カ月の変化への認識として、「できる業務が増えている」「スキルや技能が高まっている」「仕事における人脈やネットワークが広がっている」「仕事におけるパフォーマンスや成果が上がっている」「業務経験が豊かになっている」といった項目(※1)を聞き、そのスコアの合計(あてはまる5点~あてはまらない1点の合計値)により、管理職の若手育成実感を3つのグループに分類している。高位群は21点以上、中位群は16~20点、低位群は15点以下である(※2)。

ワーク・エンゲージメントについてはShimazu, A., Schaufeli, W. B., Kosugi, S. et al. (2008).(※3)のユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度(日本語版、9項目版)を用いて測定した。因子分析を行った結果、「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「職場では、元気が出て精力的になるように感じる」などの項目の因子負荷量が高かった項目を活力獲得因子、「仕事に熱心である」「私は仕事にのめり込んでいる」などの項目の因子負荷量が高かった項目を仕事夢中因子としてスコア化した。スコアが高いほうが、それぞれの項目で「あてはまる」度合いが高い。
図表1では、管理職のワーク・エンゲージメントに関する両因子について、同様の傾向が見られる。すなわち、育成実感高位群はワーク・エンゲージメントが高く、同低位群はワーク・エンゲージメントが低い。

これは、管理職における若手の育成実感とワーク・エンゲージメントのシンプルな関係性を示唆している。この関係性からは、「育成がうまくいっているから、エンゲージメントが高まった」ということと、「エンゲージメントが高いから、育成がうまくいっている」という効果ともに考えられうるだろう。いずれにせよ、現代の大手管理職層において言えるのは、若手育成の成否感がすなわち、管理職当人のワーク・エンゲージメントの代理指標になりうるほど明確な関係性を有しているということだ。つまり、育成できずに諦めてしまっていることが、管理職のエンゲージメントを大きく下げてしまっている可能性がある。

図表1 管理職のワーク・エンゲージメント(若手育成実感別)
管理職のワーク・エンゲージメント

管理職層のワーク・エンゲージメントと若手育成を構造化する

さて、さらに構造的に捉えるべく、管理職層の仕事に関わる説明変数を投入した重回帰分析により、ワーク・エンゲージメントと若手育成実感の関係性を明らかにしよう。以下に分析の詳細を述べるが、結果だけ知りたい方はさらに下の「二重のインパクト」という見出しからご覧いただきたい。

分析にあたり、被説明変数としてワーク・エンゲージメントの活力獲得因子スコア、説明変数として以下の変数を用いた。

【モデル(1)に含む:若手育成状況】
・若手育成実感スコア:先述の尺度。部下の若手のこの数カ月の変化への認識として、「できる業務が増えている」「スキルや技能が高まっている」「仕事における人脈やネットワークが広がっている」などの項目を聞き、そのスコアを合計したもの(あてはまる5点~あてはまらない1点の合計値)。
・部下の若手人数:現在人事評価を行っている若手の人数(※4)。
・部下の若手割合:現在人事評価を行っている若手が部下に占める割合(※5)

【モデル(2)に含む:(1)の変数に加え、管理職自身の仕事状況】
・労働時間(週):平均的な1週間の労働時間(※6)
・仕事の質的負荷:回答者の仕事の負荷において「自分が行う業務が難しいと感じる」「新しく覚えることが多いと感じる」質問への回答を因子としたもの。高いほうがこうした質問に「あてはまる」と答えていることを示す。
・仕事の関係負荷:回答者の仕事の負荷において「人間関係によるストレスを感じる」「理不尽なことが多いと感じる」「上司の指示が納得いかないと感じる」質問への回答を因子としたもの。高いほうがこうした質問に「あてはまる」と答えていることを示す。

【モデル(3)に含む:(1)(2)の変数に加え、統制変数として回答者の個人属性等】
・リモートワーク頻度多ダミー:現在のリモートワークの頻度について、「毎日のように」「週に2・3回程度」「週1回程度」あると答えた回答者を1とするダミー変数。
・課長職10年以上ダミー:部下の人事評価を行う課長職経験が10年以上ある回答者を1とするダミー変数。
・転職なしダミー:転職経験がない回答者を1とするダミー変数。
・50歳以上ダミー:年齢が50歳以上の回答者を1とするダミー変数。
※ダミー変数とは、該当者を1、非該当者を0とする変数

図表2 ワーク・エンゲージメント(活力獲得因子スコア)を被説明変数とする管理職層の重回帰分析結果ワーク・エンゲージメント(活力獲得因子スコア)を被説明変数とする管理職層の重回帰分析結果結果を考察していこう。階層的重回帰分析により上記の説明変数を3つのモデルに分けて投入しているが、モデルの適合度指標(修正R2等)が最も高いモデル(3)結果を見ていくこととする。
・正に有意な結果となったのは、若手育成実感スコア、部下の若手人数、仕事の質的負荷。また統制変数では、課長職10年以上ダミー。
・負に有意な結果となったのは、仕事の関係負荷。統制変数では転職なしダミー。
・有意な結果とならなかったのは、部下の若手割合、労働時間(週)。統制変数ではリモートワーク頻度多ダミー、50歳以上ダミー。

二重のインパクト

以上から、現代の大手管理職層のワーク・エンゲージメント構造を分析すると、
「若手育成実感が高い人ほど高い。また部下の若手の人数が多い人ほど高い」
「仕事の質的負荷が高い人ほど高いが、仕事の関係負荷が高い人ほど低い」
ということがわかった。もちろん、このモデルからは因果推論はできないが、管理職自身の仕事状況を変数として投入してもなお、その若手育成状況が管理職のワーク・エンゲージメントにつながっていることが示されている。

なお、部下の若手の人数がワーク・エンゲージメントと関係しているのは、例えば枢要なポストで若手をたくさん任される管理職のほうが“エリートコース”である可能性なども想定できる。ただ、ここで重要なのは「若手をマネジメントしているマネジャー」と一口でいっても様々な抱えるチーム・若手の形があり、その形が若手のマネジメントのあり方を変える可能性があることで、これは別の稿で検証する。
 なお、統制変数の結果も興味深いが本論からはずれるためここでは割愛する(課長歴が長い人ほどエンゲージメントは高く、転職なし層では低い。リモートワークの有無や年齢は無関係)。

以上を整理したのが図表3である。
現代の大手管理職層におけるワーク・エンゲージメント構造を図示している。若手育成状況が管理職の仕事状況と並んでワーク・エンゲージメントに関係していることが示唆された結果であり、現代の若手育成問題は管理職の仕事の充実度合いに直結するファクターとなっていると言えよう。
もう一度繰り返すが、この結果は若手育成実感を高めることは管理職のワーク・エンゲージメントの代理指標とすら言いうることを示す。組織としては若手育成問題の解消は、若手が育つかどうかを決定することはもちろん管理職層の仕事への熱意の高低をも左右する、二重写しの課題と認識すべきなのだ。

図表3 管理職のワーク・エンゲージメントに関係する要素の整理
管理職のワーク・エンゲージメントに関係する要素の整理※なお、係数については尺度のスケール(例えば、若手育成実感スコアは離散変数で5~25、仕事/質的負荷・関係負荷は因子スコアである)が異なるため、単純に比較はできない

古屋星斗

(※1)正確には、「あなたが人事評価を実施する20代の若手社員のこの数か月の変化について、一番近いものを選んでください。(直近で自身が異動したなど、人事評価を実施する部下が変わった場合には、過去の部下についてお答えください。)」と掲示して聞いている。リッカート尺度、5件法(あてはまる~あてはまらない)
(※2)出現率は、高位群15.2%、中位群64.5%、低位群20.2%であった
(※3)Shimazu, A., Schaufeli, W. B., Kosugi, S. et al. (2008). Work engagement in Japan: Validation of the Japanese version of Utrecht Work Engagement Scale. Applied Psychology: An International Review, 57, 510-523.
(※4)具体的には、「1名程度」「2-3名程度」「4-6名程度」……「101名以上」と聞いている。分析では聴取数値の中央値をとった(2-3名程度では2.5、4-6名程度では5など)
(※5)具体的には「100%」「75%」……「25%未満」と聞いた。分析では、1、0.75……0.125として投入した
(※6)「現在における平均的な1週間の労働時間はどれくらいですか。 ※残業時間(サービス残業も含む)はカウントし、通勤時間、食事時間、休憩時間は除きます。※回答例:毎日9時から17時まで、休憩1時間で週5日働くと、7×5=35時間です。※複数の勤務先で仕事をしている場合は、合計の仕事時間でお答えください。※「1」時間単位でお答えください」と聞いた