ワークス1万人調査からみる しごととくらしの論点アルムナイに対する意識を通じて見る「個人と組織の関係」の実態

今日、アルムナイへの関心はますます高まり、退職者コミュニティの運営にとどまらず、出戻りの受け入れに対して積極的になる企業も出てきた。これを単なる一過性のイベントと見過ごすことは簡単だが、筆者としては、こうした動きは、十分に検討がされてこなかった「個人と組織の関係」を再考する、またとない機会になると考えている。すなわち、長らく暗黙の前提となっている、”入ってから退出するまでの1回限り”の”長期かつ親密な関わり合い”に特徴づけられる「個人と組織の関係」を再考する機会となる可能性である。「個人と組織の関係」は、階層性を持った人材マネジメントの基底をなす哲学(わかりやすく表現すれば「人材観」)そのものである(※1)。アルムナイについて真剣に議論するほど、切り離せない論点になるであろう。

筆者としては、未解決のまま放置されている人材マネジメントの中核的な論点について、アルムナイを糸口に検討を進めていきたいと考えているのだが、そもそもアルムナイが持つ意義が必ずしも明らかにはなっていない状況にある。そこで、まず足掛かりに、前回のコラム「新しい『個人と組織の関係』 を考える」(リクルートワークス研究所,2023)では5つの論点(図表1)を提示した上で、「3.個人はそもそも『アルムナイ』や『出戻り』、退出した企業に関心があるのか?」といった点について、フリーワード調査による簡易な分析結果を紹介した。その後、追加的な定量調査を実施したので、その結果を踏まえて「3」の論点を掘り下げるとともに、「4.関心を持つ個人は、そうでない個人と比較して何が違うのか?」について探索的に検討した結果を紹介したい。

図表1 アルムナイに関する論点リスト
 図表1 アルムナイに関する論点リスト

アルムナイに対する意識を構成する要素

今回の分析の基になっている調査は、「20歳から69歳までの就業経験のある人すべてを母集団としたライフキャリアに関する『ワークス1万人調査』」である。ただし、今回の分析においては、現職が「正規の職員・従業員」と回答した4617名を対象としている。
まず、今回の調査にあたり整理した、アルムナイに対する意識を把握する項目について説明したい。具体的には、先だって実施したフリーワード調査(※2)の回答結果を踏まえて、図表2に示す全13項目から構成される設問を設計した。今回の調査では、これらの項目について、あてはまるものを全て選択してもらう形式とした。

図表2 アルムナイに対する意識を構成する項目
図表2 アルムナイに対する意識を構成する項目

アルムナイに対する意識の実態

本項目で測定されたアルムナイに対する意識の集計結果は、図表3に示すとおりである(前掲の論点リストのうち論点3に関する検討)。なお、アルムナイに対する意識を把握するためには、転職経験者に対して、過去に所属していた組織に対する意識を聞くことが正攻法である。しかし、転職を経験したことがある者がいまだ限定的であることから、「所属する組織を辞めた場合に、将来、その組織とどういった関係を持ちたいか」といった「プレ・アルムナイ意識」についても、併せて集計することとした。分析における母集団は「プレ・アルムナイ意識」については現職が「正規の職員・従業員」と回答した4617名となっており、「アルムナイ意識」については、このうち転職経験が1度でもあると回答した2746名となっている。なお、以降、「アルムナイに対する意識」と表現するときは、「プレ・アルムナイ意識」と「アルムナイ意識」を総称したものを言うこととする。

図表3 プレ・アルムナイ意識とアルムナイ意識の違い ※クリックで拡大します
図表3 プレ・アルムナイ意識とアルムナイ意識の違い

※なお、本表では表示の都合上、プレ・アルムナイ意識の選択肢のほうを掲載している。

ご覧のとおり、おしなべて、アルムナイに対する意識は高くない実態にあることがわかる。例えば、近年注目が高まっている「出戻り意識」(項目③)については、10%にも満たない結果となっている。

本結果のなかで、特筆すべきは、回答割合が高くなっているネガティブな項目(⑫・⑬)である。改めて、項目の文言を見てもらいたい。この指標は組織を退出したら、当該組織またはその上司や同僚と一切の関係を持ちたくないというものである。このなかには、例えば、⑫に関して言えば、一般消費者としても当該組織の商品やサービスを利用したくないという者も含まれる。組織行動研究において、主たる成果指標として「離職意思」が活用されることが多いが(3:服部,2020)、本指標(⑫・⑬)はそうした「離職意思」以上に、個人と組織の関係を把握するにあたり、厳しい現実を浮き彫りにしている。

まず、項目ごとに見ると、これらの項目を選択した者の割合は、全体のなかで1位・2位を占めていることがわかる。また、退職経験者に限定してみると、過去に所属していた組織に対してネガティブな印象を持っている者の割合は実に3割を超えている。このことは結果として、プレ・アルムナイ意識とアルムナイ意識の間のギャップにつながっている。ここから素直に読み取れることは、そもそも組織に好意的ではない者が退出している可能性である(だからこそ、退出経験/転職経験がある者を対象にしたアルムナイ意識のほうが、ネガティブ項目のスコアが高くなっている)(※3)。

前回のコラムでも指摘したが、これほどまでにネガティブな意識やその下地が形成されてしまっている事実を、組織としては真摯に受け止めることが必要ではないだろうか。組織が想定している以上に、個人との関係に深い溝が生まれている可能性があるのだ。本結果は、企業に対して、アルムナイ自体に目を向けること以上に、現在の社員個人(≒将来のアルムナイ候補)との向き合い方を考え直す必要性を投げかけている。

アルムナイに対する意識を醸成する組織コミットメント

それでは、こうしたアルムナイに対する意識を改善するポイントはどこにあるのか。また、言い換えれば、アルムナイに関心を持つ個人は、そうでない個人と比較して何が違うのかである(前述の論点リストのうち論点4に関する検討)。今回の調査では「組織コミットメント」に着目して検討することとした。なお、組織コミットメントは「組織と従業員の関係を特徴づけ、組織におけるメンバーシップを継続もしくは中止する決定に関するインプリケーションを持つ心理状態」(1:Allen Meyer,1990)と定義されるものであり、「情緒的コミットメント」「存続的コミットメント」「規範的コミットメント」の3つから構成される概念である(図表4)。

繰り返しになるが、本研究でアルムナイに着目しているのは、これをきかっけとして、多くの日本企業で検討が先送りされてきた、人事管理の基底である「個人と組織の関係」を見直す機会につながると考えているからである。また、今回の分析において、組織コミットメントに着目するのは、そうした「個人と組織の関係」を説明する概念としても最も使用されている概念とされているからである(2:服部,2016)。

図表4 組織コミットメントを測定する尺度(※4
図表4 組織コミットメントを測定する尺度(※4)
組織コミットメントのスコアの高低別に見たプレ・アルムナイ意識の実態は、図表5に示すとおりとなっている。なお、組織コミットメントの選択肢の聞き方との関係で、対応関係に着目したのはプレ・アルムナイ意識のほうである点は留意いただきたい。

全体的に見ると、組織コミットメントが高いほど、プレ・アルムナイ意識が高くなる傾向にあることがわかる(※5)。個別に見ると、出戻り意識(項目③)とネガティブな項目(⑫・⑬)について、群間のギャップが大きいことがわかる(組織コミットメントの高さが有効に作用している)。

図表5 組織コミットメントとプレ・アルムナイ意識との関係 ※クリックで拡大します
図表5 組織コミットメントとプレ・アルムナイ意識との関係※組織コミットメントを低群・中群・高群の3群に分類しているが、その際に、尺度の平均値から-1SD(標準偏差)以下を「低群」、+1SD超を「高群」としている(なお、「中群」はこれらの中間として設定)。

出戻り意識とネガティブなアルムナイ意識に関連する組織コミットメントの要素

これらのギャップが何によって生じているか、ここからは、組織コミットメントの3つの下位因子との関係性に着目して分析した結果を説明したい(※6)。なお、以降の分析も引き続き、プレ・アルムナイ意識について確認している点は留意いただきたい。まず、出戻り意識(項目③)と組織コミットメントとの関係を見たものが、図表6である。転職経験の有無にかかわらず、出戻り意識と関係しているのは、「情緒的コミットメント」と「存続的コミットメント」の2つであった。すなわち、組織への感情的愛着が高いほど、また、組織を辞めることのコストが高いと認識しているほど、仮にその組織を辞めてもまた戻ってきたいと考えるようだ。

図表6 組織コミットメント(下位3因子)と出戻り意識(③)との関係

図表6 組織コミットメント(下位3因子)と出戻り意識(③)との関係
次に、ネガティブな項目(⑫・⑬)と組織コミットメントとの関係を見たものが、図表7である。まず、「情緒的コミットメント」は、引き続きポジティブな影響力を持っていることがわかる(ややわかりづらいが、⑫や⑬といったネガティブ意識を低減させる形で作用している)。

しかし、「存続的コミットメント」は、打って変わってネガティブな影響力を持っていることがわかる(なお、も係数自体は同様に正となっているが、統計的な関係性が見られなくなっている(※7))。すなわち、組織を辞めることのコストが高いと認識しているほど、仮にその組織を辞めた際に、組織と関係を持ちたくなくなるといった結果だ。今回の調査で収集された情報のみから、こうした結果となった背景を分析することは難しい。その前提の上で、元々組織に対してネガティブな意識を持っている人において、存続的コミットメントが「サンクコスト(埋没費用)」として蓄積され、ある閾値(損切りライン)を超えることで、組織に対する反発という形で真逆の効果が表れる、といったようなメカニズムがあるのではないかと、個人的には考察している。「存続的コミットメント」は、前述のとおりアルムナイ意識(項目)を高める効果も確認されているため、諸刃の剣となる要素なのである。

また、「規範的コミットメント」については、先ほどの分析結果とは違って、ポジティブな影響力を持っていることがわかる。すなわち、組織に対する恩義を感じている者ほど、仮にその組織を辞めた場合であっても、当該組織や上司・同僚との関係を持ち続けたいと思うのである。

図表7 組織コミットメント(下位3因子)とネガティブなアルムナイ意識(⑫・⑬)との関係

図表7 組織コミットメント(下位3因子)とネガティブなアルムナイ意識(⑫・⑬)との関係

個人の組織への愛着感情を醸成する意義

プレ・アルムナイ意識(項目③、⑫・⑬)と組織コミットメントの3つの下位尺度との関係を見た結果、ポジティブ/ネガティブな項目にかかわらず、「情緒的コミットメント」が一貫して有効に機能していることがわかった。

個人的にこの結果は、プレ・アルムナイ意識との関係に限らず、現在、働いている社員個人一般に対しても重要な示唆が含まれていると考える。今日、人的資本経営の文脈において、個人の心理的なコンディションを測定する情報開示項目として「エンゲイジメント」(※8)に着目が集まっている。しかし、より豊かな個人と組織の関係を育んでいくには「エンゲイジメント」を追い求めるだけでは十分ではない可能性がある。実際に、出戻り意識(項目③)については、エンゲイジメントよりも情緒的コミットメントのほうが効果的に作用していた。具体的には、出戻り意識があると回答した者の割合は、エンゲイジメントの高群では13.0%であるところ、情緒的コミットメントの高群では20.9%といった結果であった(※9)。

アルムナイの検討を契機に、今こそ「個人と組織の関係」の見直しを

今回の調査を通じて、アルムナイの実態が少しずつ見えてきた。しかし、それ以上に、人材マネジメントの基底となる「個人と組織の関係」に、潜在的なほころびが生じている可能性が見て取れたことが大きい。「キャリア」という観点においても、個人のキャリア形成の重要な基盤である組織との関係性の変質は、見過ごせない事態である。本調査は、組織がアルムナイと向き合うことで、これまで検討が不十分であった「個人と組織の関係」を再考する機会になるのではないか、といった着想に端を発している。しかし、上記のような可能性を鑑みると、より直接的に「個人と組織の関係」の見直しが迫られているのかもしれない(※10)。その再考にあたり、組織としては、足元の「エンゲイジメント」の検討から一歩踏み込み、一見、青臭くもある、”組織への感情的愛着”を育むことに向き合うことが必要なのではないだろうか(※11)。

筆者:筒井健太郎

(※1) 人材マネジメントの階層性については、前回のコラム(リクルートワークス研究所,2023)を参照いただきたい。
(※2) 「キャリアに関する実態プレ調査」。実施期間は、2023719日~721日で、フリーワード設問を中心に、インターネット調査を実施した。サンプルサイズは1414であり、性別・年代・就業形態によって均等割付を行い回収した。本分析にあたっての有効回答数は639名である。なお、実際の設問では、「あなたが今所属する会社・団体を辞めたとして、その会社・団体とどんなつながりを持ち続けたいと思いますか」について回答を求めた。
(※3) 今回の調査では、こうしたギャップが生じている理由を明らかにするに情報が不足している。記載したような背景のみならず、組織からの退出(やその前後の出来事)がきっかけとなり、当該組織に対する態度がネガティブに変わることも想定される。なお、先行研究では、退出した際の事由(11:関口,2001;6:パーソル総合研究所,2020)や現在所属する組織の在籍期間(11:高尾,2015;6:パーソル総合研究所,2020)などが、(退職後の)アルムナイ意識に影響していることが指摘されている。
(※4) なお、組織コミットメントの測定にあたっては、日本労働研究機構(2003)により作成された項目を使用した(なお、元の尺度は3因子9項目から構成されているが、今回の調査では各因子2項目ずつの計6項目を使用している)。
(※5) カイ2乗検定を実施し、いずれの項目についても、1%水準で有意な差があることが確認された。
(※6) プレ・アルムナイ意識を従属変数、組織コミットメントの下位因子を独立変数とする二項ロジスティック回帰分析を実施した。なお、記述統計の結果から、年代および転職経験の有無が影響を持っていることが想定されたため、これらも併せて従属変数として投入したうえで分析している。
(※7) 有意水準が5%を超える結果となった。
(※8) ここでいう「エンゲイジメント」は、ワーク・エンゲイジメントを指している。人的資本経営の文脈で「エンゲイジメント」は重視されている概念であるが、使用する者により、その意味する内容が異なることが指摘されている(7:パーソル総合研究所,2023)。ここでは正確な議論のために、「エンゲイジメント」を最も原理的な概念であるワーク・エンゲイジメント(10:Shimazu et al.,2008)を指すものとして使用している。
(※9) エンゲイジメントの測定にあたっては、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(10:Shimazu et al.,2008)を使用している。なお、本分析においては、平均値から-1SD(標準偏差)以下を「低群」、+1SD超を「高群」としている(なお、「中群」はこれらの中間として設定)。また、カイ2乗検定を実施し、1%水準で有意な差であることが確認された。
(※10) 前回のコラムでも指摘したが、1990年移行、「基底となる”個人と組織の関係”(筆者にて修正。原文はEOR)の定義を欠いたまま、人材マネジメント施策の修正・変更が行われているのではないか」(2:服部,2016)といった警鐘がならされている。
(※11) この点について言えば、今日、多くの企業が取り組んでいる「パーパス」の策定は、重要な意義を持っていると考える。情緒的コミットメントを測定する項目の1つに「この会社の一員であることを誇りに思う」といったものがあるが、「パーパス」の追求が、個人のこうした意識を醸成することにつながると考えられるためである。なお、パーパスの意味するところを正確に定義するのは難しいが、ここではひとまず、「目指したい方向性の指針となる企業理念と近しいものであると同時に、より具体的に『なぜその組織が社会に存在しているのか』、『組織の中で社員が何のために働くのか』」を指し示すもの」(4:三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2023)として使用している。

引用文献
1:Allen, N.J. and Meyer, J.P. (1990) The Measurement and Antecedents of Affective, Continuance, and Normative Commitment to the Organization. Journal of Occupational Psychology, 63.
2:服部泰宏(2016)「人材管理の基底としての個人-組織関係――欧米における研究の系譜と日本型マネジメントへの示唆」『横浜経営研究』371
3:服部泰宏(2020)『組織行動論の考え方・使い方――良質のエビデンスを手にするために』有斐閣
4:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2023)「経営用語集『パーパス経営」
5:日本労働研究機構(2003)「組織の診断と活性化のための基盤尺度の研究開発――HRMチェックリストの開発と利用・活用」『調査研究報告書』161
6:パーソル総合研究所(2020)「コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査」
7:パーソル総合研究所(2023)「エンゲージメントとは何か――人的資本におけるエンゲージメントの開示実態と今後に向けて」
8:リクルートワークス研究所(2023)「新しい『個人と組織の関係』を考える――アルムナイ・出戻りは日本型人材マネジメントを変えるきっかけになるか」
9:関口倫紀(2001)「”元社員”が企業競争力を左右する―『心理的アタッチメント』と『関係性』の視点―」『Works44
10:Shimazu, A., Schaufeli, W. B., Kosugi, S. et al. (2008). Work Engagement in Japan: Validation of the Japanese Version of the Utrecht Work Engagement Scale. Applied Psychology: An International Review, 57, 510-523.
11:高尾義明(2015)「過去に所属した組織に対する支援的行動:組織アイデンティフィケーションからのアプローチ」『組織科学』484