ワークス1万人調査からみる しごととくらしの論点語られてこなかったライフキャリアの真実 

人生における6つの重大な意思決定

人生においては、いくつかの重要な局面がある。リクルートワークス研究所が実施した調査(※1)では「あなたの人生において、その後のご自身の生活に大きな影響が生じた意思決定について伺います。その意思決定は何歳ごろのどのようなものでしたか」という形でライフキャリアにおける重要な意思決定の存在を自由記述形式で尋ねた。

上記設問で挙がった回答のなかで多かった項目を6つに集約し、改めて「ワークス1万人調査」で意思決定の経験の有無を尋ねた(図表1)。それは「進学」「最初の就職」「転職・独立・起業・退職」「上京・転勤・移住」「結婚(事実婚を含む)」「子の出生」である。この6つが現代日本人に典型的にある代表的な意思決定なのである。

この6つの意思決定について、40歳以上の人に限定した上で経験の有無を確認してみよう。「進学」は92.0%とほとんどの人が経験していると答えた。進学についてはどの時点での進学かは設問では明示的に問うていないが、大学や専門学校などへの進学を意識して答えている人が多いと見られる。

仕事関係の経験率も高い。最初の就職は96.2%、転職・独立・起業・退職は79.6%となった。就職もまたほとんどの人が経験しており、転職等は8割方が経験している。これら仕事に関する意思決定は、現代人において一般的な意思決定であると言える。

一方、上京など地域の移動を伴う意思決定はちょうど6割と6つの意思決定のなかでもっとも比率が低かった。家族関係の意思決定は結婚が77.3%、子の出生は61.1%となった。現代日本では未婚率が上昇し、出生率が低下している状況ではあるが、最終的にはこれらの意思決定も経験している人のほうが多い。

図表1 重大な意思決定の経験率(40歳以上)
 図表1 重大な意思決定の経験率(40歳以上)出所:リクルートワークス研究所「ワークス1万人調査」

人生において影響が大きい意思決定は、子の出生と結婚

これらの意思決定のなかで、人生にもっとも影響が大きいものは何だろうか。図表2では、6つの意思決定について、それぞれ人生でもっとも影響の大きかったと答えた割合を算出している。なお、結婚や子の出生をはじめ、それぞれのイベントについて経験していない人も含まれていることから、ここでは全てのイベントを経験した人に限って集計している。

全体平均で見ると、子の出生がもっとも大きな影響があった意思決定だったと答えた人が一番多く38.9%、結婚が29.4%となった。結婚・子の出生の家族形成に関するイベントがおよそ7割となる。男女別では女性ほど家族形成のイベントの影響力は大きく、子の出生が54.4%、結婚が27.0%になった。

仕事に関する意思決定については、男性は比較的大きな影響があったと受け止めている人が多い。最初の就職が11.3%、転職等が18.4%であり、およそ3割の人が重要な意思決定として仕事関係のイベントを挙げた。他方で女性に関しては最初の就職を選んだ人は3.0%、転職等を選んだ人も2.8%と少なかった。これは世代の影響もあるだろうが、女性に関しては出産や結婚が生活に与えるインパクトが大きく、それと比較すればどうしても仕事関係の優先度は下がるのだと考えられる。

進学に関する意思決定についても、のちに仕事に関連することから男性のほうが9.7%と比率が高く、女性は6.2%であった。最後に、移住など地域の変更を迫られるものは男女ともに7%前後と一定の影響が見られた。

図表2 もっとも重要な意思決定
図表2 もっとも重要な意思決定出所:リクルートワークス研究所「ワークス1万人調査」

ほとんどの人が結婚・子の出生を希望して選んでいる

このような重要な意思決定について、人はどういったプロセスで選択しているのか。調査ではそれぞれの出来事 を経験している人に対して、その意思決定を自身の希望で選んだのかそうではないのかを聞いている。

6つの出来事ごとに希望して選んだかどうかを算出したものが図表3になる。この結果から見ると、多くの意思決定は本人の希望に基づいて行われている。例えば進学については自分の強い希望で選んだ人は13.4%、自分の希望で選んだ人が53.7%となっており、自らの希望で選んだ人は67.1%に上る。最初の就職や転職等もそれぞれ62.0%、72.9%と同様に自ら選んだ人が多い。

一方でこれらの意思決定は必ずしも自分の希望がかなったとは言えない人も一定数存在している。進学については32.9%、最初の就職では37.9%、転職等では27.1%が自分の希望で選んだとは言えないと答えている。進学であれば希望した学校に進学することがかなわなかった人、就職であれば希望した会社等に進むことができなかった人などが存在するからだろう。ライフイベントは必ずしも自分の希望にかなうわけではなく、かなったと言える人であっても他の選択肢もにらみながら、ある程度の妥協を含めて選択を行う必要があるのだろう。

こうしたなか、結婚・子の出生に関しては自らの希望で選んだ人が多い傾向が確認できる。結婚で85.4%、子の出生で89.2%が自身の希望で選択したとしている。就職などであれば自身の希望にそぐわないものであっても、経済的に仕事をしなければ生活を営めない以上、限りある選択肢のなかから選択をしなければならない。しかし、結婚や出産に関して必ずしも行わないと生きていけないということはない。現代において、結婚するかどうか、あるいは子を出産するかどうかの選択はあくまで個々人の自由だ。

そういう意味では、過去では望まない相手との結婚などもありえたのかもしれないが、現代においては自身の意にそぐわないような選択なのであれば、それを行わないという選択もとられているのだと考えられる。つまり、就職等は妥協してでも選ばなければならない出来事である一方で、結婚等は妥協してまでも選ぶ必要はない出来事であるという意味で、やや性質の異なる意思決定であると考えられるのである。

図表3 もっとも重要な意思決定
図表3 もっとも重要な意思決定出所:リクルートワークス研究所「ワークス1万人調査」

家族形成については、キャリア以上に真剣に向き合う必要がある

今回実施した「ワークス1万人調査」で見えてくる事実は、仕事よりも結婚など家族形成に関する意思決定のほうが人生に与える影響が大きいという事実である。これは多くの人の実感にも合うのではないだろうか。

現代においては、キャリアをどのように歩んでいくか、多くの人が真剣に考えた上で就職や転職に関する行動を決めることが多くなってきている。しかし、それよりも人生に大きな影響を与える結婚や子の出生について、日本人はどこまで戦略性を持って臨んでいるだろう。多くの人は成り行きに任せて意思決定を行っているのではないだろうか。場合によっては、目の前にある仕事のキャリアを優先して、家族形成を後回しにするような事態も起きているかもしれない。

もちろん、家族形成に関する意思決定の全てを合理的な判断のもとで決定することは困難だ。しかし、自身の人生に責任を持とうと考えるのであれば、家族形成に関する意思決定について、人生における最大の問題として真剣に向き合わなければならないことは確かだろう。

執筆:坂本貴志

(※1) 「キャリアに関する実態プレ調査」。2023年7月19日~7月21日、インターネット調査。サンプルサイズ1414。性別・年代・就業形態によって均等割付を行い回収した。フリーワード設問を中心としている。