高校卒就職の視点・論点高校卒者の早期離職抑制を科学する

高校生の採用に熱心な企業からよく聞かれる質問のひとつに、「早期離職対策」がある。
「新たに高校生を採用したが、ほかの企業ではどのような定着を促す試みをしているのか」
「高校卒者を採用しており、離職率も低いと思っているが、他社で良い取り組みの事例があれば教えてほしい」
といった声だ。大学卒が入社後3年以内で3割、高校卒では4割が離職していくことから、企業の関心は高い。
今回は、高校卒の早期離職をいかに防ぐか、という点について、リクルートワークス研究所で実施した定量調査(※1)の結果を用いてデータから検証する。

「打てば響く」、高校卒就職者

まず今回のデータからは、入社1年目のOff-JT(仕事から離れた研修)が早期離職防止に効果的であることが明らかになった(図表1(※2) )。図表からは、「1年間に合計で50時間以上」という、入社1年目に概ね1週間強のOff-JTを行った場合に、大手企業では13.7%、離職が多いとされる中小企業でも29.8%まで3年以内離職率が低下することがわかる。Off-JTの機会がない場合には、大手企業で27.1%、中小企業で51.1%の離職率であることを考えると、ほぼ半減している。また、大学卒の3年以内離職率が3割であることを考えると、50時間以上のOff-JTがあった高校卒の離職率の低さが想像できるだろう。
また、1年目で50時間以上=「1週間強」というOff-JTに限らず効果はあり、どの企業規模でも、時間に関わらず3年以内離職率が低下していくこともわかる。

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さらにもう1点判明しているのは、高校卒はOff-JT実施による早期離職低減効果が大学卒と比較して相対的に高いということである。図表2には大学卒・高校卒別にOff-JT機会別の3年以内離職率を示している。高校卒では「機会がなかった/受けなかった」場合には平均すると44.7%、これが「1年間に合計で50時間以上」であった場合19.2%まで低下している。
大学卒でも同様の傾向は見られるが、その低下幅は37.1%から23.7%と高校卒と比較して緩やかであることがわかる。この結果からは、1年目のOff-JT機会の提供に対して高校卒者がより反応を示し、定着が促されていることが示唆されている。
高校卒者は「打てば響く」。ただ、高校卒者のうち53.1%が「1年目のOff-JT機会がなかった」(※3) と回答していることに留意する必要がある。つまり、機会がないから離職率が高い傾向があるが、機会を提供すれば定着し戦力となる人材が飛躍的に増えるという可能性がある。
また、1年目のOff-JT機会は純粋な学びの意味に加えて、一緒に学んだ「同期」を形成する、という意義があるとも考えられる。同期という気軽に相談できる相手の存在が生まれることで定着に繋がる。今回の結果は、高校卒者への投資がもたらす重層的な効果を示唆している。

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相談相手をつくる

今回の結果からは初期のOff-JT・研修機会だけでなく、相談相手の有無が定着に与える影響についてもわかったことがある。図表3に1年目に仕事上で影響を受けた人別に3年以内離職率を検討した結果を示した(※4)。この結果からは、仕事上の初期のリレーション(上司や先輩、職場の同僚との関わり)が高校卒者の離職と関係があることがわかる。0人、つまり「いなかった」と回答した者では45.0%だが、人数が増えるごとに減少傾向が見られ、3人以上と回答した者では31.9%まで減少している。

大学卒者においては、入職初期に短期間での部署の横断的異動やメンター制度によって、上司や同期といったタテ・ヨコの関係だけでなくナナメの関係が構築されることも多い。結果として、「仕事上で強く影響を受けた人」が獲得しやすい環境にある。他方で、高校卒者は全体の43.2%が「0人」であったと回答したことを忘れてはならない(※5)。配属先が本社でなく支所や事業所のような小規模な職場であったり、初期の研修機会・相談体制の乏しさであったり、といった要素がこの背景にあると考えられる。しかしながら、図表3で示されるように、高校卒者における仕事上のリレーションの豊かさは3年以内離職率の低減につながるという関係は、Off-JT機会と同様に留意する必要があるだろう。
ナナメの関係を含めた仕事のリレーションをいかにつくるか、メンター制度や1on1といった手立てが一般化しつつある中で、対象を職種・配属先や学歴で限定していないだろうか。この対象を広げることで企業にとっても、若手人材活用上、大きな恩恵が得られるかもしれない。

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高校卒者の入社後の活躍にもつながる

さらに、今回検証したような1年目の教育投資は離職か定着か、だけでなく高校卒者の入社後のキャリア形成にも関係していることがわかっている(図表4)。
「将来の目標に向けた、これまでのキャリアの進み具合」「新しい技術・技能を獲得するための、これまでの進み具合」といった持続的なキャリアの形成度合いに関する5つの質問への満足度合いをスコア化した結果が図表4(※6)であり、正に高い方が持続的にキャリアを形成できている、と考えられる。結果としては1年目のOff-JT機会はここでも機会が多ければ多いほど、良い影響があることが示唆されている。

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こうした結果を踏まえれば、高校卒1年目における企業の教育投資や新人の支援策は、定着促進に大きな効果があるばかりか、その後のキャリアの充実、会社での活躍にも大きな効果がある。また、1週間強の初期研修やメンター制度などは多くの企業で大学卒向けには実施している内容でもあり、その対象を拡大することで高校卒者が自社の重要な戦力になるのではないだろうか。
高校卒で就職すると、年齢的にも学習の段階的にも早い時期に社会に出ていくことになる。この早い分だけ、企業の打ち手に敏感に反応し、しっかりと定着し活躍する形で応えてくれる。今回の検討結果はそのような高校生採用の本来的な意味・意義を浮き彫りにしているのかもしれない。

(※1)リクルートワークス研究所,2020,高校卒就職当事者に関する定量調査
(※2)調査を高校卒者に限定して集計。サンプルサイズ3404
(※3)リクルートワークス研究所,2020,「高校生の就職とキャリア」
(※4)「就職して1年目に、あなたの仕事のやり方や仕事に取り組む姿勢について、強く影響を受けた人はいましたか。家族、友人など仕事に関連しないプライベートな関係の人も含みます。(いない場合には0と記入ください) ※0~20の間でお答えください」という質問に対する回答。外れ値として11人以上と回答した者を除外(高校卒者の1.73%)
(※5)リクルートワークス研究所,2020,「高校生の就職とキャリア」
(※6)①「自分のキャリアにおいて、これまで成し遂げたこと」②「将来の目標に向けた、これまでのキャリアの進み具合」③「目標とする将来の収入に向けた、これまでの年収の増え具合」④「目標とする仕事や社会的な地位に向けた、これまでの進み具合」⑤「新しい技術・技能を獲得するための、これまでの進み具合」の5設問を最尤法、プロマックス回転で因子分析した結果の抽出された第一・第二因子の因子得点の合計値。第一因子は①・②の回答の因子負荷量が高い。第二因子は③・④・⑤の因子負荷量が高い。設問は、Spurk, D., Abele, A. E. & Volmer, J. (2011). The career satisfaction scale を筆者が邦訳したもの