高校に聞く。キャリア教育と就職指導Casefile.1 愛知県立愛知総合工科高等学校

パートナー企業256社、連携大学11校。進学後の就職まで長期的に見据えたキャリア指導(※1)

自動車産業をはじめとした製造業が盛んな愛知県。そんなものづくり王国にあって、これからの自動車・航空宇宙産業などの国内最大のものづくりの中心地を担い、日本の将来を支える理工系研究者、技術者のリーダーの育成を目標に、2016年4月に開校されたのが愛知県立愛知総合工科高等学校だ。特徴的なのは、企業、大学、民間団体が一体となったキャリア形成支援の試み。インターンシップや講師派遣などで同校とパートナーシップを組む「あいちT&Eサポーター」参加企業はなんと250社以上。国内11大学と連携した授業運営など、多様なリソースを生かした、生徒の育成・キャリア形成に取り組んでいる。

(学校プロフィール)
愛知県立愛知総合工科高等学校
創立:2016年4月
設置学科:機械加工科/機械制御科/電気科/電子情報科/建設科/応用化学科/デザイン工学科
生徒数: 1200名(1学年10学級)
進路状況:進学200名/就職163名/その他(留学含む)22名(2020年3月卒)
*専攻科(2年制)を併設(産業システム科/先端技術システム科)

求められる人材が変化、自分で考え工夫できるリーダーに

県内総生産額のうち製造業が3割を占め、製造品出荷額が全国一でもある愛知県。従来、地元の製造業を担う人材として、工業高校出身者は大きな役割を果たしてきたが、製造現場の機械化・自動化が進む中、求められる人材像も変化してきている。そこで同校が目指すのは、生産現場にとどまらない「技術者のリーダー育成」だ。STEAM教育(※2)による高度な技術と知識の習得を目指すとともに、進路指導・キャリア教育も、高校卒就職だけをメインターゲットにしたものではなく、高校卒業後の進学・就職、その先までを見据えて構想された。実際、進学を目指して入学する生徒が約7割にのぼる。指導の主眼に置いているのは、生徒自身が「主体的に進路を選択できるようになること」。企業・大学と連携し取り組んでいることすべてが、そこに最終的に結び付いていくよう、教員全員が方針を共有し実践している。

企業・大学と連携し、リアルを知り、自ら選び取る力に

キャリアプログラムは、仕事をただ体験するということではなく、授業カリキュラムを踏まえて、学ぶ動機づけになることを目指している。
1年次では、一般社団法人アスバシと協働で「夢志(ゆめ)クエスト」というプログラムを実施。これは、様々な分野で活躍する社会人講師による講座形式のプログラムで3日間24講座の中から2講座以上を受講する。また希望者は、別途インターンシップへの参加も可能。狙いは、自分の夢や志の「種」を探す(クエスト)こと、1年次の前期に授業で学んだ技術が、社会でどのように生かされているか実際に体感することだ。
プログラムの実施にあたっては、学年主任とアスバシ担当者が「生徒が授業で何を学んでいるのか」などの情報共有と打ち合わせを行い、事前学習や講座後にクラスや文化祭で発表を行うなど、単発のイベントで終わらせないよう継続的な指導に取り組んでいる。また、教師も生徒とともに講座やインターンシップに参加し、生徒の体験と授業での学びを結び付けて指導するなど、キャリアプログラムと授業が有機的に働くよう工夫をしている。
2年次には、より高度な先端技術に触れるインターンシップなどを、愛知県教育委員会事業への参加およびあいちT&Eサポーターの協力により実施。
3年次には、「課題研究」として自ら課題を設定し、社会で必要とされる、問題解決力や自発的、創造的な取り組み姿勢を養う。大学や企業との協働により、より実践的なものづくりを体験することができる。
「プログラムを継続してきた中で、もう一度企業に行きたいとか、自分から企業の人と話をする生徒も出てきて、最終的に就職に結び付いたケースもあります。そういう、自主的にやる生徒が、少しずつ出てきている状況ですね」と、3学年主任の谷先生。

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進路担当・担任・学科が組んで、生徒の志望と適性を生かす

進路ガイダンスは、時期ごとに、授業カリキュラムとキャリア教育プログラムの状況を踏まえた内容で実施されている。ここでも企業や大学と連携し、リアルな姿をイメージできるよう工夫されたプログラムが印象的だ。例えば、1年次の12月には、企業や大学などから講師を招いて、生徒と保護者を対象とした進路ガイダンスを実施。進路選択を控え2年次の3月には、教室に企業10数社、大学・専門学校10数校のブースを開設し、じっくりと説明を聞く機会を設けている。
個別の就職指導について、現在、同校ではほぼ全員が学校推薦により就職先を決定していく。愛知県では1人1社制を敷いていることから、7月の校内選考に向けて、生徒たちは応募したい企業を検討していくことになる。毎年約1600社から求人が寄せられるが、「企業を選ぶ際、生徒には、就社ではないということを常に話しています。有名だから、大企業だから選ぶというのではなく、自分のやりたいこと、職種をベースに選ぶようにしなさいと。会社の名前だけで選んでしまうことはミスマッチにもつながりますから」と進路指導主事の津崎先生。
進路指導部は全10名。就職担当5名、進学担当5名が中心となって指導にあたる。「実際は、クラス担任・学科・進路担当が常に連携しています。工業高校なので専門的な部分については学科の先生に説明してもらうことも多いですし、スクラムを組んでやっていかないと成り立ちません」。
「仕事というのは、単にお金をもらうだけのものではなく、生きがいだとかやりがいにつながっていってもらいたい。この3年間を使って十分自分でも考えて、いろんな情報を吟味した上で、自分で主体的に動いて探す。そうして行きたいと思った企業がやはりいい企業じゃないかと。また、そういうふうにも指導していきたいと考えています」

卒業後のキャリアをサポートする新たな試みを開始

1期生、2期生を送り出した現在、トヨタ自動車やデンソー、中部電力といった大手企業への就職をはじめ、京都大学、名古屋大学といった国公立大学への進学者も輩出。設立の目標である、技術者リーダー育成に向けて着実に成果をあげているように見える同校。しかし、山口校長は、「進路実績や内定率といった、目先のことだけにとらわれてはいけない」と手綱を引き締める。念頭にあるのはミスマッチの問題だ。
「就職して活躍する人材を育てるという目標の中で、離職の問題は大きい」。そこで新たな試みが、2019年より立ち上げた「ステップアップ・サポート・センター」だ。高校卒業後に就職した生徒が職場の問題やミスマッチで悩んだ時に頼る先であり、進学で県外へ出た生徒がUターン就職を希望する際のサポート機関として、機能させていきたいという。あいちT&Eサポーター企業は、そうした支援の強力なサポーターになり得るという。
また、「卒業のその先を見据える」という同校の視点は、あいちT&Eサポーター企業との関係からも感じられる。「生徒には就職しても学び続けてほしい、企業にも学べる機会をきちっと作ってほしいという思いがあります。当校のHPには、あいちT&Eサポーター企業を紹介するページがありますが、各社さんに『5年後、10年後にどうなっている』ということを、しっかりと伝えてもらうようにしています」
高校を卒業させて終わりではなく、卒業後のキャリアまでを見据えて、徹底的に生徒に寄り添っていく。高校と企業、大学がタッグを組む同校の取り組みはまだ始まったばかり。今後の動向に注目したい。

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山口先生.jpg●愛知総合工科高校 山口直人校長が考える、学校と高校の先生だからできること
・徹底して生徒に寄り添い、成長させること
・時間を惜しまず生徒の話を聞き、話をしてあげること
・生徒が主体的になれるよう関わること

(※1)令和2年10月16日現在
(※2)STEAM教育/Science,Technology,Engineering,Art,Mathematicsなどの各教科での学習を実社会での課題解決に生かしていくための教科横断的な教育。

執筆/鹿庭由紀子
※所属・肩書きは取材当時のものです。