高校生採用企業の声を聞く【製造業編】現場の声。高校卒採用が直面する「課題」と「これから」

大学卒採用と比較しても高い求人倍率となっている高校卒の採用。古くは「金の卵」と呼ばれ、長らく日本企業の若手人材獲得を支えてきた仕組みだ。現在も強いニーズがある一方で、変わらぬ仕組みにより、現場に“きしみ”が生まれている事例も少なくない。

採用を行う現場はこの状況をどのように捉えているのか。私たちは、高校卒採用を行う企業の人事・採用担当へのインタビューを実施した。第1回・小売業編に引き続き、今回は製造業の実態をお届けする。

(聞き手:リクルートワークス研究所 古屋星斗、坂本貴志)

【参加各社の概況】
A社:金属の加工・処理を請け負う中小企業で、社員数は70名ほど。県内の工業高校を中心に、毎年2〜3名の高校生を採用している。
B社:大手自動車メーカーの子会社で、輸送機器の設計・販売を手掛けている。高校卒採用数は毎年2名ほどで、A社と同じく県内の工業高校をメインに受け入れを行う。

高校生の採用を行う理由

──はじめに、高校卒採用をしている目的を教えてください。

A社:大学卒採用と並行して、フレッシュな人材を受け入れようと4年ほど前から高校卒採用を始めました。採用の門戸を広げることで、男性中心の製造ラインに女子生徒からも志望をいただくなど、結果的に幅広い人材の受け入れにつながっています。

B社:同じく、元気のある若手を登用して組織の新陳代謝を促すことが目的です。若者が増えると、上の世代にとっても「良い刺激」になりますからね。

──フレッシュという意味では大学卒もあてはまりますが、採用方針に違いはありますか。

A社:方針自体に差はありません。選考時期の早い大学生の内定承諾数に応じて、高校卒採用数を決めています。入社後1年は同じ研修プログラムですが、そこからは能力に応じてキャリアが決定。学歴の関係なく、個人の実力に沿ってポジションを決めています。

B社:高校卒・大学卒を毎年2名ずつ採用しています。入社式や半年間の研修は合同ですが、その後は別のキャリア。大学卒は「設計」の部署に、高校卒は部品の仕上げをする「現場」に配属するのが慣例です。ただ、昇進スピードは人それぞれですし、現在の管理職の比率はむしろ高校卒の方が多いですね。

「交換ノート」で定着を図る

──入社後の研修についてもお聞きしたいです。

B社:1週間の座学を経て半年間のOJTに取り組みます。少し特殊なのは、自分が配属される予定ではない部署で研修を受けてもらうことですね。
大学卒は設計、高校卒は現場への配属が多いと言いましたが、研修では逆に、大学卒が現場、高校卒が設計の仕事を経験します。フレッシュな時期に、お互いの仕事を理解してもらいたい意図です。

──面白いですね。社員の定着に関してはいかがですか。

B社:離職は3年間で1名なので、定着は図れているのではないかと考えています。

A社:弊社は高校卒採用を始めてから4年が経ちますが、退職者は1人だけ。計10人以上は採用しているので、比率でいうと1割以下だと思います。

──高校卒の就職後3年以内離職率は39%(厚生労働省,2019)ですから、定着されている方が多いですね。何かサポートをしているのですか。

A社:先輩社員によるフォローもありますが、毎日メンターとやりとりする「交換ノート」の存在は大きいかもしれません。入社してから1年間、新入社員には日々学んだことや、困ったこと、感じたことをざっくばらんにノートに書いてもらっています。
さらに、1カ月に1回は所属部署以外にもノートを回してコメントをもらうよう促しています。実は、このノートは社内からも評判が良くて、新卒の成長ぶりに涙する先輩社員もいるくらいなんですよ。

B社:素敵な取り組みですね。我々も、社内の交流や社員の定着を促すために「部活動」制度を積極的に運用しています。
特にフットサル部やソフトボール部は、地区大会にも出場するほど活発。年齢、部署に関係なく、業務外で「ナナメ」のつながりを作る取り組みは、社員からも良い反響を得ています。

自社の魅力を、生徒に直接語りたい

──採用実務についても教えてください。今年は、コロナ禍の影響で選考開始日が1カ月後ろ倒しになりました。

A社:スケジュールに変更がありましたが、ハローワークの規定通りに順次採用を進めています。6月に求人票をハローワークに提出し、7月に学校に開示。そして10月から順次選考を開始する進行です。
コロナ禍で変わったことといえば、毎年6月に商工会議所主催で開かれる「名刺交換会」が今年はなかったことですかね。

──ハローワークが5〜6月に実施する「求人説明会」とは別に、ですか。

A社:はい。私たちの地域では、この集まりでいかに高校の先生とつながり、信頼を獲得できるかが、採用の「生命線」となっています。知名度の高い大手企業と違い、中小企業は「まず知ってもらう」ことが大切なので、名刺交換会に精を出す企業が多いんです。
とはいえ、先生や商工会議所、それからハローワークとのコミュニケーションに多くの時間を割くのは本質的ではないな、と感じることも多いです。名刺交換会に限らず、日頃から各所との情報交換が欠かせませんが、本当に会社のことを伝えるべき相手は、生徒さん本人のはずですよね。
しかし、高校卒採用は推薦から選考、内定後のやりとりまで、一連のプロセスについて学校の先生を介するのが規定。さらに、先生たちに企業を紹介するのは商工会議所やハローワークですから、必然的に間にいる大人たちへのアプローチに時間を割かざるを得ません。ここに、少し違和感を感じます。

B社:本当ですよね。私たちも、「名刺交換会」には毎年参加し、商工会議所の主催のもと、先生方と密に情報交換をしています。
ですが、そうした「根回し」に腐心するのは筋が違うでしょうし、このような状況を生み出している制度や慣習には、見直す余地があると思います。

──なるほど。先生との関係性については地域による違いもあるかもしれませんね。

A社:そうですね。もちろん地域によって、先生と企業の関係性は様々だと思いますが。
それから、良くも悪くも大手メーカーの採用状況に中小企業や学校が左右されてしまう、という特徴も私たちの地域についてはあります。大手企業が大量に採用する年は、上位の工業高校にごっそりと求人が集中しますし、そうでない年は求人枠が足りず、就職先に迷う高校生も少なくない。
年によって企業の採用ニーズがバラつくため、結果的に生徒にしわ寄せがいっているのは問題ではないか、と感じています。

生徒にも「納得感」を持ってほしい

──連載第1回で実施したインタビューでは、「高校卒採用は、生徒との接点が非常に少ない」という声があがりました。この点に関してはどうですか。

A社:生徒との接触は説明会とインターン、面接くらいしかありませんから、もっと機会があった方が双方の理解が深まるだろうと感じます。
生徒とは面接で話しますが、たった1回、しかも約1時間では適性を見抜くのはやはり難しい。履歴書も先生が隅々まで添削していることが多く、大学生のエントリーシートと比較しても生徒の「人となり」は見えにくいです。

B社:同感です。同時に、企業情報を載せる求人票も2枚という限られたスペースしかありません。ですから、会社の理念や方針、そして仕事の内容が正確に生徒に伝わっているかと聞かれると、正直あまり自信がない。
求人票に同じ高校から採用した「直属の先輩」の働いている写真を添付する、などの工夫は行っていますが、できればもっと理解を深める時間がほしいですね。

──写真を添付するのはいいアイデアですね。そして、やはりもう少し接触機会があった方がよい、と。

B社:そうですね。会社の概要説明や工場見学の日程は設けているのですが、それでは不十分だと感じます。大学生向けには2週間のインターンを実施して、入社後の相互理解度の高さを実感しているだけに、です。
高校生に2週間インターンしてもらうのは難しいかもしれませんが、何か別の手立てで少しでも知ってもらう方法はないかな、と考えてしまいます。今はあまりにも接触の機会が少なすぎます。

──また、高校生はルール上、同時に複数社の選考を受けることができません(※1)。大学生は、何社でもエントリーできるので、そこは違うところですね。

A社:そうですね。比較検討なくして、企業を客観的に判断することは難しいはず。「一社決め打ち状態」も不健全だと感じます。
また、正直なところ学校の推薦で面接に来ている生徒について「ちょっと違うな」「合わないかもな」と思っても、不採用にすることはできません。一度不採用としてしまうと、その学校との関係が切れてしまうからです。
採用要件としては唯一、「明るく元気」な子を、と学校にお願いしているのですが、しっかり伝えきれているかというと疑問が残ります。本当であれば自分たちで生徒に直接熱意を伝えて、どういった職場なのか、どんな人がいるのかを話した上で、一緒に働く人を見つけていきたいです。

B社:同感です。学校推薦だと、そもそも提示された候補者以外の生徒には会うことすらできませんから。そして、A社さんが言うように「不採用にする」という選択肢が現実的ではないので、候補者を出された時点ですでに採用が決まっている、といっても過言ではありません。
それから、推薦者の決定プロセスについても何か共有があるといいな、と思います。「志望度などをあまり考慮せず、成績順だけで推薦が決まっている」という学校もあるようですし、「担任の先生と進路指導部の認識がズレていて、ミスマッチにつながっている」なんて話も聞きます。
こうした問題も、生徒さんと企業の直接的なコミュニケーションの場が増えるだけで軽減されると思うのです。

──そうですね。間接的なやりとりが増えれば増えるほど、ミスコミュニケーションも生まれやすい。

A社:ええ。昨今は社会の変化に合わせて「経団連ルール」を改定する動きもあり、大学生の就活状況が大きく変わっている最中です。ならば、高校生の選考も歴史的に続いてきたルールを単に踏襲するのではなく、社会状況の変化に対応しつつ、変えていくべきだと感じます。
そのためには、行政や学校を含めた様々なセクターが手を取り合う必要があるかもしれませんね。例えば、ハローワーク主導で「オンライン合同説明会」を開催するなど、今はいろいろなことができます。

B社:合同説明会があれば、生徒も自由に複数の企業を見ることができるかもしれません。全然知らなかった企業のことを知り、社員と話してみて、新しいきっかけが生まれるかもしれない。
現ルールでも会社の目線では採用は滞りなく進んでいますが、生徒の立場に立つと考慮の余地があると思います。
加えて、「正規雇用と非正規雇用の違いを教える」など、基本的なキャリア教育の機会を高校に設ける必要もあると思います。高校卒の社員と話していると、雇用が不安定でも「目先の給料が高い方がいい」という理由だけで転職してしまうなど、雇用形態の話などはあまり馴染みがないようなので少し気になっているんです。
もちろん、最優先に考えるべきは、高校生が自身のキャリアへの「納得感」を持てるかどうか。それを念頭に、正しい知識を届け、選択の機会を提供する。それが、私たち企業と学校、そして行政が手を取り合って、まず取り組むべきことなのではないでしょうか。

(※1)いわゆる「一人一社制」。一部の県を除いて、選考開始後の一定期間、生徒が同時に1社しか選考を受けられない申し合わせが存在している。

(執筆:高橋智香)