対話型学びを進める職場自発的にマネジメントやリーダーシップを学び合うコミュニティ「Leaders Lab」――ソニーグループ

社員のチャレンジや自主性を大切にする組織風土が根づくソニーでは、学びにおいても、さまざまな自発的な活動が展開されています。ここで取り上げる「Leaders Lab(リーダーズラボ)」もその一つ。部長クラスの有志メンバーが、自発的にマネジメントやリーダーシップを学び合うコミュニティです。2019年に発足して以来、イベントの企画・運営や、ウェブサイト上での記事配信などの活動を通じて、進化を続けています。その場づくりと継続させるための工夫とは――。立ち上げメンバーである赤井田徹郎氏と、和田徹氏にお話を聞きました。

Leaders Lab メンバーのお二人赤井田徹郎氏(写真右)
ソニー/セキュアテクノロジー&ソリューション事業部 副事業部長
和田徹氏(写真左)
ソニーセミコンダクタソリューションズ/コーデックシステム開発部 統括部長

雑談から始まった部活感覚のコミュニティ

――Leaders Labを発足したきっかけは?

赤井田:始まりは、部長の集まりがあった際の、自分たちに共通するマネジメント業務について「“横”で相談し合ったり、学び合ったりする場があるといいよね」という雑談からでした。実は、ソニーグループには部長クラスに対する定型的な研修はありません。自分の組織運営やメンバーの育成は我流でやることになるため、私自身、「これで大丈夫なのか?」という不安や、問題意識を持っていました。

もちろん、上司や人事に相談できるサポート体制はあるのですが、横のつながりは、また別の意味合いがあります。何かを教えてもらうだけでなく、共通する課題の下で、互いに学び合っていけるコミュニティがあればより活性化するのではないかという思いから「立ち上げてみないか」という話になりました。部活感覚に近い軽いノリでした。発起人は10人ほどで、それぞれが、一緒に推進してくれそうな部長たちに声をかけるところから始めました。

――実際にどのような活動をしてきたのでしょう。

赤井田氏の写真
赤井田:最初の1年間は、活動の周知のために象徴的なものをやろうと、外部から著名人を招聘して部長クラスに向けたイベントを開催していました。例えば、チームビルディングで業績をV字回復させた企業トップの講演会、人材育成の研究者によるワークショップなどです。

ただ、あまり人事色が出ないようには心がけました。人事が「参加しましょう」と呼びかければ、人は集まりやすいですが、このコミュニティはあくまでも自発的な活動です。後押ししてもらうというかたちで人事といい連携体制が取れたのはありがたく、大きかったと思います。

和田:当初の開催ペースは、年4回ほど。我々の知名度が全くなかったため、最初のイベントの参加者は20人ほどでした。国内ソニーグループの部長クラス全員に周知はしたものの、実際にはクチコミで参加してもらった感触でした。参加人数にはこだわらず、受講者アンケートを必ず取り、それを基に「次はどうしようか」と一つひとつ考えてきました。

参加者も運営メンバーも「楽しめること」を大切に

――場づくりやプログラムの実施において、大切にしている方針、考え方は?

赤井田:組織や人材のマネジメントをベースにはしていますが、基本的には、部長クラスの人が持っていそうな興味や課題をテーマにしています。そして、研修や教育を受けている雰囲気にはせず、自分たちも含めて楽しめる内容であることを強く意識してきました。やらされている感や、宿題が多かったりすると広がりませんし、続きませんから。

和田氏の写真和田:例えばコロナ禍のときは、みんなテレワークの管理要領に悩んでいましたから、「ワークショップをしよう」となりました。その都度、我々に共通する関心事を取り上げてきました。

そして、部長同士が学び合うのが大前提ですから、インプットに対してグループワークをするのは大事なことで、その際には、意見交換や発言をしやすい場づくりを意識しています。私たち運営メンバーも立場は一緒です。そこに参加しているメンバーと同じ課題や悩みを持っているので、同じ学び手です。役割としてファシリテートをしながらも、「私はこんな悩みがあります」と率先して話すようにして、場に対する安心感を醸成するよう心がけています。

赤井田:変化として一番大きかったのは、やはりコロナ禍ですね。イベントの開催スタイルを対面の集合型からリモート型に切り替えざるを得なかったのですが、これが拡大のいい契機になりました。場所の制約がなくなって多くの人が参加しやすくなり、私たちも会場手配などが不要になったことで準備期間が短縮され、実施頻度を増やすことができるようになりました。現在はほぼ1カ月に1回ペースで開催し、参加者が200人を超えたイベントもあります。

和田:一方で、しっかりと議論したいワークショップなどは、やはり対面が適しています。部長クラスの人たちが興味を持っていて、集まりやすいテーマのイベントと、対面で語り合う、学び合うイベント。「広げていく」「掘り下げていく」という目的に応じて、両方のスタイルをうまく取り入れていく必要があると考えています。

PORTの様子ソニーシティ(品川)にある、多様な社員の学びと交錯の場「PORT」。

リフレッシュと多様性を機軸に進化させていく

――活動を継続していくために、工夫していることはありますか。

赤井田:世代交代ができる仕組みをつくること。実際、私自身も今年の春に“卒業”しましたが、継続にはリフレッシュが必要で、世代交代については最初から決めていました。加えて、意識しているのは運営メンバーの多様性。違う経験や属性を持つメンバー構成が重要なポイントになります。そのほうがいろいろなアイデアが出てきますし、続ける点においても非常に有効だと思うのです。

和田:初代メンバーから3人が入れ替わって、現状、部門やグループ会社を超えた部長7人が中心となって企画・運営に当たっています。新しいメンバーが入ってきた際には、あらためて自分たちの活動ビジョンを語り合いました。「部長陣のコミュニティをしっかりつくる」という発足の原点に立ち返り、ありたい姿を共有するプロセスは大事ですから。ミッションとして言葉を大きく掲げるのではなく、活動への思いを一つにし、信頼関係を築くことが継続の力になると実感しているところです。

――今後に向けて、評価指標は設定されているのでしょうか。また、Leaders Labをどう進化させていきたいですか?

赤井田:いわゆるKPIは、まったく設定していません。もともとソニーグループには、こうした自発的な活動に対して「自由に挑戦してみなさい」という企業文化があるので、会社から目標を求められたり、評価を受けたりすることもありません。

ただ、日頃の業務に対してプラスになるように導線をつくることは私たちの責任だと捉えています。私自身は、ワークショップなどで学んだことは自分の部署に持ち帰って生かしていますし、異なる部署と連携する業務プロジェクトも実現させています。私は、経験者入社なのでソニーグループに同期がいないのですが、Leaders Labの活動を通じて知り合いがたくさん増えたので、その広がりで業務がうまく進んだり、新しい関係で協業ができたり、手応えは十分感じています。中長期的に見れば、こうした現場での広がりや積み重ねが、会社への貢献につながるはずだと考えています。

和田:課題認識を緩く交換できる場は会社組織にはないですし、各事業の自立がさらに進んだ現在、個社間をもつなぐコミュニティの存在は大きいと思います。知り合った人たちが横断する課題を一緒に考えたり、そこから新しいビジネスが生まれたり、新しい組織ができたりするのも面白そうです。

Leaders Labの人気コンテンツに、斜めのメンター制度があります。部長がメンターで課長がメンティーとなり、仕事関係がまったくないところで、一定期間メンタリングするものですが、先を見据えた仕掛けになっているかもしれません。課長クラスの人が「こういう活動はいいな」「部長たち、楽しそうだよね」と思ってくれるようになれば、今後は違う層にも活動が生まれるのではないかと考えます。横だけでなく、上下方向にもつながりが広がって活動が進化していけば、間違いなく職場はさらに活性化すると思っています。


聞き手:辰巳哲子
執筆:内田丘子
撮影:刑部友康