データが語る「集まる意味」「コミュニケーションの責任」は誰にあるのか

コロナ禍においては、「働き方の変化」に関する調査が多く実施された。マイクロソフト社が2021年9月に実施した「To Thrive in Hybrid Work, Build a Culture of Trust and Flexibility」では、自己評価による個人の生産性は、コロナ禍前と比較して変化がないこと、ワークライフバランスの満足度は9ポイント上昇していることが示された。さらに、この調査では「出社意向」を聞いており、メンバークラスと管理職クラスで出社意向は異なっていること、メンバーのほうが非対面を望んでいることを明らかにしている。

我々がサイバーエージェントに対して行ったインタビューにおいても、管理職とメンバーの出社意向が異なっていることが挙げられていた。多くの場合は、管理職がリアルの対面で集まりたがる傾向にあるという。その理由は、管理職のほうが組織のコミュニケーション設計や組織風土の改善に対する責任がメンバーよりも大きいからだと推察される。しかし、自律分散型組織の重要性が指摘される中、個人が仕事の管理をしようとしたときには、必要な時に人を集めて仕事をするという視点が、今後メンバークラスでも必要になるだろう。
本稿では、管理職とメンバーとの間で、コミュニケーション上の課題と認識されているものがどのように違っているのかを明らかにし、今後の施策検討に役立てたいと考える。

会議主催者としての役割の違い

調査では、職場で行われる会議の主催者になった経験があるかどうかを尋ねた(図表1)。「常に主催者である」「時々、主催者である」「ほとんど主催者になることはない」「主催者になることは全くない」の4つの選択肢から選択してもらったところ、以下のように管理職が最も「主催者」経験が多く、「常に主催者である」と「時々、主催者である」の合計が79.3%である。一方でメンバーを示す一般では、「主催者」経験は24.1%であった。どういう集まりにするか、「集まる場」を設計・デザインする機会が一般は管理職に比べて少ないことがわかる。

図表1 役職別「会議」の主催者割合
役職別「会議」の主催者割合出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

中長期的な課題における、管理職と専門職、一般職の視界の違い

次にコロナ禍における中長期的な組織課題について、役職別の認識の違いを尋ねた。「今の働き方を続けていくと、中長期的にあなたの職場では以下のようなことが起こると考えていますか。」と尋ね、「はい」と回答した比率を記したのが図表2だ。
全体的に、懸念している内容は管理職・専門職・一般で同様のものが挙げられている。しかし、一般に比べて、管理職や専門職のほうが、懸念に対して「はい」と回答する傾向が高い。管理職および専門職では、「仕事のノウハウが継承されない」ことに対する懸念を示した人が30%を超え、項目中最も多かった。しかし、一般では懸念している比率は管理職に比べて9.3%低い。課題に対する認識が一般のメンバーとは違っているということを前提に、管理職は自身の課題感を共有する必要があるのではないだろうか。

図表2 役職別中長期的な懸念
役職別中長期的な懸念出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

コミュニケーションの工夫をしているのは誰か

役職別にコミュニケーションの工夫を見たのが図表3だ。こちらも全体的に管理職の平均値スコアが高い。発言の少ないメンバーに意見を言うように促したり、メンバーとの対話の時間を持ったりする機会を作るといった工夫をメンバーより管理職のほうが行っていることがわかる。

図表3 役職別コミュニケーションの工夫
役職別コミュニケーションの工夫出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

管理職とメンバーの組織のコミュニケーションに対する認識ギャップをどう埋めるか

管理職と一般職の間で「集まる/集まらない」「対面/非対面」「テレワーク/非テレワーク」「同じタイミング/録画も含めた非同期」「集まる日を決める/決めずに柔軟に」など、職場の「集まる」に関しては意見の対立も多いと聞く。集まりたい管理職と、「この会議なら集まる必要はない」と考えるメンバーとの集まることに対するニーズのギャップを埋める方法はないのだろうか。

分析結果からは、一般のメンバーよりも管理職のほうが、集まりづらい環境における長期的な課題を懸念する比率が高く、コミュニケーションの工夫をしていることが読み取れる。図表1で見たとおり、管理職が「集まる」ことの主催者になっているケースが多い一方で、一般メンバーでは集団に対する責任を担う経験が少ない。ということも、その理由の一つだろう。経験数の違いは、課題感やコミュニケーションの工夫にもあらわれている。解決策としては、メンバーに対する組織視点の権限を委譲し、コミュニケーション上の工夫を一般メンバーにも一部任せてみるなど、メンバーに「集まりの参加者」から「集まりの当事者」としての視点を委ねるのも一案だ。現場での主体的な意思決定や戦略立案が求められる中、自律的で強いチームを作っていくためには、組織の視点を少しずつメンバーにも委ねていく必要があるだろう。組織で仕事をする視点を共有することによって、管理職もメンバーも互いに目的に応じた「集まり方」を共有し、より良い場を作れるようになるのではないだろうか。

文責:辰巳哲子