データが語る「集まる意味」コロナ禍で私たちの職場は何を失ったのか ―コミュニケーション方法が職場パフォーマンスに与える影響―

コミュニケーション方法が、職場のパフォーマンスに影響を与える

コロナ禍で失われた対面での会話。現状では、web会議やメール・チャットなどリモートの手段では、うまく集まる場の創出はできていない。

本稿ではさらに分析を進めて、これまで意識せずとも得られていた職場におけるさまざまな機会がコロナ禍でどのように変動しているのかを分析する。リクルートワークス研究所「職場における集まる意味の調査」では、コロナ禍以前からの、職場において経験する機会と職場の状況を知る機会の変動を尋ねている。また、それに加えて個人の業績や組織の業績などパフォーマンスの変化も聞いている。

職場における経験する機会や知る機会の変化など集まる場や機会の変化は、職場のパフォーマンスに影響を与えていると考えられる(図表1)。つまり、コロナ禍で起こった対面/非対面といったコミュニケーション方法の変化は集まる場や機会を変動させることを通じて、パフォーマンスにまで影響を与えていると考える。

こういった仮説を前提として、本稿では経験する機会や知る機会の変動の結果と、パフォーマンスの変動の結果を分析してみたい。

図表1 本稿による分析の視界
本稿による分析の視界

受け身の学びが失われた

まずは、職場において経験する機会がどのように変わったかを見ていこう。私たちは職場で仕事をしている際に、日々さまざまなことを経験している。同僚の仕事を手伝ったり、他部署の人と関わったり、さらには偶然他の人たちの会話が聞こえてきたりなど、普段は意識しないこういった経験を本調査では洗い出している。

こうした経験のコロナ禍前からの変化を見ると、総じて減少していることがわかる(図表2)。特に、「たまたま出会ったり、予定していなかった人との情報交換(-0.62ポイント)」「他部署や社外の人との新たな出会い(-0.67ポイント)」「職場で偶然聞こえてきた会話や、自然に受け取った情報をもとに仕事をする経験(-0.60ポイント)」「目の前で怒られたり、褒められたりしている先輩を見て、その姿から学びを得る経験(-0.54ポイント)」の4項目の減少が著しい。つまり、こうした職場において自然と行われていた「受け身の学び」がコロナ禍以降は失われてしまっているのである。

そして、これらの要因としてはやはり対面でのやり取りの減少が大きく寄与している。いずれも減少の半分程度は対面でのやり取りの減少によって説明されることがわかる。さらに、音声のみのweb会議のマイナス寄与も無視できないものになっている。映像のないweb会議は、その場での仕事の効率的な遂行にあたっては有効なものかもしれないが、知らず知らずのうちにこうした機会を失わせているということが、データによる分析からは浮き彫りになっている。

図表2 職場における経験する機会の変化の寄与度分析(コロナ禍前との比較)
職場における経験する機会の変化の寄与度分析(コロナ禍前との比較)注:コロナ禍前からの変化を算出している。「減った」を-2ポイント、「やや減った」を-1ポイント、「変わらない」を0ポイント、「やや増えた」を+1ポイント、「増えた」を+2ポイントとしてその変化を算出。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

職場の情報を得る機会も減少

さらに、職場における情報のとり方にもコミュニケーション方法は影響を与える。図表3は職場における知る機会の変化を分析したものであるが、こちらも経験する機会と同様に総じて減少傾向にある。

上司・部下・同僚の仕事の内容や忙しさ、他部署における取り組み、社内情報や人脈などあらゆる情報の取得が難しくなっていることがわかる。これもやはり、対面でのやり取りの減少に主な原因が求められる結果となっている。

ただ、こうしたなかで知る機会については、ほぼすべての項目で画面に顔を映したweb会議がプラス方向に寄与していることも特徴的である。多くの人はweb会議を通じてこういった社内の状況等について情報交換を行っており、web会議を通じたコミュニケーションがコロナ禍で失われた情報を補っていると考えられる。必ずしもリアルの場で会わなくとも、リモートで工夫を凝らしてコミュニケーションをとれば、失われた情報を得ることは十分にできるということだ。

図表3 職場における知る機会の変化の寄与度分析(コロナ禍前との比較)
職場における知る機会の変化の寄与度分析(コロナ禍前との比較)注:コロナ禍前からの変化を算出している。「減った」を-2ポイント、「やや減った」を-1ポイント、「変わらない」を0ポイント、「やや増えた」を+1ポイント、「増えた」を+2ポイントとしてその変化を算出。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

短期的な影響は少ないが、職場の一体感や他部署との協働が失われている

最後に、コミュニケーション方法が個人のパフォーマンス、組織のパフォーマンスに与える影響を分析する(図表4)。

まず、個人のパフォーマンスに関しては、コロナ前から実はそこまで大きな変化は生じていない。「自分自身の仕事の成果」が-0.04ポイントと若干の低下で収まっているなど、コミュニケーション方法の変化が個人の業績に与える影響はさほど大きくなかった。メールやチャットの活用が「一日のうちに集中して働ける時間」にプラスに寄与しているなど、コロナ禍のコミュニケーション方法の変化によって仕事がしやすくなり、業績が向上したという人もいたのだろう。

一方で、組織のパフォーマンスに関しては、総じて個人よりもマイナスの影響が大きくなっている。こうしたなか、「職場の業績(-0.17ポイント)」や「職場の仕事の効率性や生産性(-0.11ポイント)」は、そのほかの要因が大きくなっている。これは、コロナ禍で業績が落ち込んだ企業が多かったことによるものと考えられ、やはりコミュニケーション方法の変化による影響はそこまで大きくない。

パフォーマンス項目のなかで影響が目立ったのは、「職場の一体感や仲間意識(-0.28ポイント)」や「部署や企業の壁を越えた協業(-0.21ポイント)」を中心とした数値には表せない項目であった。つまり、コロナ禍におけるコミュニケーション方法の変化は、一見すると個人や組織のパフォーマンスにさほど影響を及ぼしていないように見えるのだが、実は目に見えないところで影響が出ているということである。

特に憂慮すべきは、パフォーマンス項目で最も減少幅が大きかった「職場の一体感や仲間意識(-0.28ポイント)」である。調査の回答者の一定数がコロナ禍によって職場の一体感が失われたと認識しているのである。そして、これはやはり対面でのやり取りが減ったことによるものとなっている。

これらは、短期的な組織のパフォーマンスに直接影響を及ぼすような事柄ではない。しかし、中長期的に見れば数値には表せないものが業績に大きな影響を与える可能性があり、こうした状況は看過すべきではない。

新しい働き方が浸透し、ハイブリッドワークが求められるなか、受け身の学び機会の創出や、職場の一体感や協業を促す取り組みをいかにして埋め込んでいくか。それが、今企業に求められているのである。

図表4 集まる場の変化の寄与度分析(コロナ禍前との比較)
集まる場の変化の寄与度分析(コロナ禍前との比較)

注:コロナ禍前からの変化を算出している。「減った」を-2ポイント、「やや減った」を-1ポイント、「変わらない」を0ポイント、「やや増えた」を+1ポイント、「増えた」を+2ポイントとしてその変化を算出。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

文責:坂本貴志