データが語る「集まる意味」コロナ禍で変わる集まり方 ―対面でのやり取りに頼った結果、何が起こったのか―

対面でのやり取りが減り、オンラインでのやり取りが増える

コロナ禍で職場でのコミュニケーションの方法はどのように変わったか。まずはコロナ禍で職場がどのように変化したのか、その実態を探っていこう。

「職場における集まる意味の調査」では、仕事のコミュニケーションの方法を「対面でのやりとり」「画面に顔を映したWeb会議」「音声のみのWeb会議」「メールやチャット」「電話」の5つに分けて、それがコロナ禍でどのように変化したかを調査している。

そのなかで仕事のコミュニケーションの方法の変化を集計したものが図表1となる。対面でのやり取りはコロナ禍前より減ったと答えた人が67.1%存在しており、多くの職場で対面でのやり取りが顕著に減っていることがわかる。

一方で、画面に顔を映したweb会議は54.9%の人が増えたと回答している。音声のみのweb会議(44.9%)、メールやチャット(44.8%)も増えたと回答している人が半数近くに上り、これらの設問では減ったと回答した人はごくわずかである。なお、電話に関しては減ったと答えている人が15.9%、増えたと答えた人が23.8%と拮抗した結果となっている。

以上から考察すると、まずコロナ禍で感染防止のためにテレワークの導入が進んだことなどから、対面でのやり取りが全国の職場で大きく減少していることがわかる。ただし、対面でのやり取りが減ったから仕事におけるコミュニケーションの手段がなくなったわけではなく、その代わりにweb会議やメールやチャットなどの手段でのコミュニケーションを増やすなどの工夫を多くの人が行っている。

このように、コロナ禍で対面での仕事が限られるなか、それを補うためのリモートによるコミュニケーションが増えていることがデータで確かに確認できる。

図表1 仕事のコミュニケーションの方法の変化(コロナ禍前との比較)仕事のコミュニケーションの方法の変化(コロナ禍前との比較)出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

コミュニケーションの方法が、集まる場の持ち方を規定する

さらに、上述の事実を前提として、集まる場や機会がどのように変わっていったのかを検証したい。

本研究プロジェクトが貫く大まかな考え方として、集まる場や機会の持ち方が職場でのコミュニケーションなどを変化させ、個人や職場のパフォーマンスに影響を及ぼすという仮説がある。

こうした考え方を基本とすると、まずその起点となっているのがコロナ禍でのコミュニケーションの方法の変化であると考えられる。そして、それによって集まる場や機会の持ち方がどう変わったのかを分析するということが本稿による分析の視界となる。

また、コロナ禍前との変化に注目しているということも重要である。コミュニケーションの方法や集まる場や機会の持ち方などは個人属性などにも影響される(内向的な人はそもそも集まる場を持ちたがらないなど)と考えられる。こうした属性は基本的には変化していないと考えられるから、コロナ禍での変化を捉える本稿における分析ではこれらの要因を捨象して考えることができる。

図表2 本稿による分析の視界本稿による分析の視界

対面でのやり取りの減少が、集まる場を変えた

このような視界のもと、集まる場の変化を分析したものが図表3である。同図表では集まる場の変化が何によって引き起こされたのか、その寄与度を分析している。

まず分析の結果わかったことは、コミュニケーションの方法が集まる場に与える影響は非常に大きいということである。一部の項目を除けば、集まる場の変化の多くがコミュニケーションの方法の変化によって説明されていることは一目瞭然である。

そのなかでも対面でのやり取りの減少が集まる場の減少に大きく寄与していることも重要な事実である。たとえば、「仕事とは関係のない雑談」はコロナ前より0.60ポイント減少しているが、その内訳を見ると、対面でのやり取りの減少分が0.35ポイントとなっている。ここから、コロナ禍で失われた雑談の場の原因の半分以上が、対面でのやり取りの喪失に求められることがわかる。これと同様に「会議の前後に発生する会話」や「『ちょっといいですか』などから始まる会話」もその減少分の多くが対面でのやり取りの減少によるものだとわかる。

さらに、現状では、そうした会話はweb会議などの増加によって補うことができていないという事実も浮かび上がる。特に音声によるweb会議に関しては頻度が増えているにもかかわらずマイナスに寄与しているなど、こうした機会が有意義な場につながっていない。つまり、日本企業においては、偶発的な会話はほぼ対面でのやり取りに頼っているというのが現状で、リモートでのやり取りをこうした意義のある場の創出にうまく活用できている企業は非常に少ないことが推察される。

対面でのやり取りがなければ、意義ある場は作り出せないのか

さらに、集まる場の変化の分析からわかったことを取り上げていくと、「ランチや飲み会」「研修やイベント」はコロナ禍前と比較して大きく減少しているが、その多くはコミュニケーションの方法の変化だけでは説明できなかった。本分析による「そのほか(の要因)」が具体的にどのような要因であるかはデータから判別することは難しいが、これらの場が減少しているのは、会食の制限や、大規模な集まりの制限などを実施した政府の方針の影響が大きいということだろう。

一方で、会議については大きな減少傾向は見られていない。「情報伝達のための会議」や「意思決定・合意形成のための会議」に至っては、平均するとやや増えてすらいる。たとえば、「意思決定・合意形成のための会議」を見ると、対面でのやり取りの減少がやや減少に寄与しているものの、それを上回る規模でチャットやメールが増加している。

こうした場については、対面でのやり取りが減っても、必要に応じてチャットで会議を呼びかけたり、メールで関係者と調整したりということが自然とできているのだろう。ここからも、たとえ対面でのやり取りが失われても職場のメンバーの工夫次第で有意義な場を作り出すことは可能であることがわかる。対面でのやり取りの減少は、必ずしも意義のある場を失わせることを意味するわけではないのである。

次回は、職場での経験などの機会の場がどのように変化したのか検証していくことで、コミュニケーションの方法の変化がもたらした変化をより詳細に分析していきたい。

図表3 集まる場の変化の寄与度分析
集まる場の変化の寄与度分析注:コロナ禍前後と比較した変化を算出している。「減った」を-2ポイント、「やや減った」を-1ポイント、「変わらない」を0ポイント、「やや増えた」を+1ポイント、「増えた」を+2ポイントとしてその変化を算出。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

文責:坂本貴志