データが語る「集まる意味」コロナ禍におけるコミュニケーションの問題

「オンラインでの集まり」の効果を考える

働き方改革、それに続くコロナ禍によって職場の集まり方が大きく変わった。2021年10月以降、ここ数ヵ月の間に各社から寄せられた報告では、テレワークによって個人の生産性が上がり、従業員のウェルビーイングが向上したことが報告されている。しかし、テレワークのメリットが明らかになる一方で、2021年11月以降、都内では始業に合わせた朝のラッシュアワーが復活しており、オフィスの出社率が上昇していることは明らかだ。出社しているある企業にオフィスに集まる理由を聞いたが、「特に理由はない。集まれるから集まった」という返事が返ってきた。一部の企業ではあくまでオフィスに集まることが標準で、テレワークはコロナ禍における緊急避難的な対応としてとらえられているようだ。

果たしてこのままコロナ以前の状態に戻ってよいのだろうか。テレワークによって、移動時間を気にすることなく仕事時間を確保できたり、グローバル化が進むなかで国外メンバーと一緒に研修に参加することが可能になったり、これまで採用が難しかった距離的な制約のある優秀な人材を採用することができるようになった。本プロジェクトで実施した「職場における集まる意味の調査」の調査結果を見ても半数以上の人が「情報伝達のための会議はオンラインでも有意義だ」と回答しており、テレワークはすでに「対面に代わる一時的な手段」ではなく、テレワークでないとできない、「効率的な情報伝達」や「集中した思考」の場として機能しているといえよう。

実際、本プロジェクトコラムでも取り上げた、カルビー富士通のように全員出社の働き方を前提にせず、コロナ禍においてオフィスをリニューアルした企業もある。これらの企業では「集まる意味」にあわせた集まり方がおこなわれている。
つまり、今後は、「コロナ禍以前の状態をどのようにテクノロジーで代替するか」という発想ではなく、「目的に照らして必要なコミュニケーション機会をいかに戦略的に構築するのか」を考えるべきだろう。「パーパス経営」が話題になって久しいが、集まり方を決めるためにもパーパスが必要だ。もちろんそのなかには、「雑談のための集まり」や「気軽に相談できる関係性を構築するための集まり」も含まれる。

各社にとって有効なコミュニケーション手法を検討するためにも、私たちは今こそ、コロナ禍における働き方で個人が考えていた「集まる」ことについて、「ファクト」としてきちんと把握したうえで、新たな時代に即したコミュニケーション戦略を考えるべきではないのだろうか。

そこで本コラムでは2021年10月に実施した「職場における集まる意味の調査」の結果から、コロナ禍において、組織内のコミュニケーションがどのように変化したのか、そのことによって働く個人の「集まること」に対する意識はどのように変化したのか。今後の組織のコミュニケーション戦略のヒント、個人の働き方のヒントにつながるファクトをシリーズで紹介する。

集まる場はどのように変化したのか

企業組織で一般に行われている「集まり」について、公式的な集まりと非公式的な集まりに分けて聞いたのが図表1だ。コロナ前とコロナ下を全体で比較してみると、半数を超える項目で50%以上の人が「変わらない」と回答している。

図表1 集まる場の変化出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

しかし、こうした場の変化は、テレワークで働いているかどうかで異なると考えられる。そこで、テレワーク制度が適用されている人とされていない人での集まる場の変化の違いを分析した。

図表2 テレワーク制度が適用されている人とされていない人の「場の変化」の違い図表2 テレワーク制度が適用されている人とされていない人の「場の変化」の違い注:あなたの職場ではテレワークの制度が導入されていますか。また、あなたは、その制度の対象者として適用されていますか。あてはまるものを1つお答えください。と聞き、「制度として導入されていて、自分自身に適用されている」を「テレワークできる」、「自分自身に適用されていない」「制度として導入されていない」を「テレワークできない」とした。各場について、「減った」1点「やや減った」2点、「変わらない」3点、「やや増えた」4点、「増えた」5点の平均値を比較し、差を検定した。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

図表2からは、テレワークで働いている人のほうが、「情報伝達のための会議」が増加していること、一方で「目的以外の会話」は減少していることがわかる。
こうした状況のなか、個人は自身や組織のパフォーマンスの状況をどのように捉えているのだろうか。
図表3を見ると、その特徴は明らかだ。テレワークで働く人は、自分自身の仕事のマナジメントが自律的にできており、集中して働ける時間が多い。個人のパフォーマンスが高くなったと認識している様子がうかがえる。一方で組織のパフォーマンスに目を向けると、一体感や仲間意識、新しい取り組みや新規事業、部署や企業の壁を越えた協業、企業文化や組織風土の継承といった、組織のパフォーマンスを尋ねた多くの項目において、テレワークできないと回答した人のほうが、スコアが高いことが示されている。

図表3 個人と組織のパフォーマンスの変化図表3 個人と組織のパフォーマンスの変化

注:パフォーマンスに関する各項目について、「減った/下がった」1点「やや減った/下がった」2点、「変わらない」3点、「やや増えた/上がった」4点、「増えた/上がった」5点の平均値を比較し、差を検定した。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

しかし、図表3の結果から、「テレワークは組織のパフォーマンスを下げる可能性がある」と判断してしまうのは早計だろう。多様な個人の協働が強みになるなか、「オフィスに毎日通える」「大学卒の」「正社員」「男性」だけでは、グローバル社会に対応できないことは明白だ。考えるべきは、「テレワーク下において、個人は組織パフォーマンスが上がる実感が持ちづらい」という事実を踏まえたうえで、コミュニケーション上の施策を工夫することだ。具体的にどのような方法が考えられるのか、以下に詳しく見ていこう。

テレワークだからこそのコミュニケーション上の工夫

図表4を見てみると、コミュニケーション上の工夫については、ほとんどすべての項目について、テレワークできるほうが、スコアが高い。この結果からは、組織全体としてテレワーク下でのコミュニケーションに制約を感じているからこそ、より丁寧なコミュニケーションが行われていることが推察される。職場風土や目的に応じて対面、オンラインの場を使い分けていると回答したのも「テレワークできる」と回答したほうが高いことが示されている。

図表4 テレワークの有無によるコミュニケーション上の工夫の違い図表4 テレワークの有無によるコミュニケーション上の工夫の違い注:各コミュニケーション上の工夫について、「あてはまらない」1点、「あまりあてはまらない」2点、「どちらでもない」3点、「ややあてはまる」4点、「あてはまる」5点の平均値を比較し、差を検定した。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

図表4に見られる一連のコミュニケーション上の工夫は、本来、コロナ禍の影響があってもなくても重要な内容だ。こうしたコミュニケーション上の工夫は各企業において今後も進むと思われるが、それに伴って企業によるコミュニケーション戦略の差はより大きくなることが予想される。

中長期的な課題とその対処

職場のコミュニケーションが変化したことによる中長期的な課題について尋ねたところ、多くの人が挙げたのは、1位:仕事のノウハウが継承されないこと、2位:職場の一体感やチームワークが弱くなること、3位:離職者ややる気のない人がでてくることだった。

図表5 中長期的な課題(複数回答)
図表5 中長期的な課題(複数回答)出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

どうすれば職場の一体感やチームワークの弱体化に歯止めをかけることができるのか。続いて行った図表6の分析結果からは、「職場全体で同じ経験をすることを大切にしている(推奨している)」かどうかが、職場の一体感に影響することが示されている。

図表6 職場の一体感と組織風土の関係
vol1_06.png注:職場の一体感と組織風土のクロス分析結果。職場の一体感が減少した群(減った・やや減った)と、増加した群(やや増えた・増えた)について、各組織風土項目の回答(「あてはまらない」1点、「あまりあてはまらない」2点、「どちらでもない」3点、「ややあてはまる」4点、「あてはまる」5点)の平均値を比較し、有意な差が見られた内容を一覧にした。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

目的に応じたコミュニケーション設計とはいかなるものか

これまでに見てきた「コミュニケーション戦略に基づいた施策」とは具体的にはどういうことなのか。プロジェクトでは、これまで職場の集まり方を大きく見直した企業に対するインタビューを進めてきている。最後に一例を紹介したい。
テレワーク下で入社した新入社員が孤立してしまう問題に対処するため、ヤフーでは、当時利用者数が激減していた社食のカレーを従業員宅に配送し、オンラインで同じものを食べながら雑談する「お友達獲得大作戦」の場を設けた。カルビーでは仕事の話は一切しない雑談だけのチャットを立ち上げ、オンライン学習講座「Calbee Learning cafe」を設けている。富士通では本社オフィスの位置付けを「エクスペリエンス・プレイス(経験する場)」に変え、社外パートナーにも場を開放している。
同じ、「社長のメッセージを共有する」という行為であったとしても、時差のある従業員らに共有する場合には、非同期のメールや掲示板を使ったほうが目的に沿ったやり方になるだろうし、同じ場をリアルタイムで共有することで職場の一体感を醸成したいという方針の企業では、経営者が話しながら従業員からのチャットでの質問に答えるというやり方を選択している。企業の組織風土や業態によっても、コミュニケーション戦略は異なってくるだろう。

先進企業への取材から見えてきたのは、「集まり方の判断は各チームのリーダーに委ねている」という企業の姿だった。コロナの収束を待ちつつ、以前のように職場に集まるのか、それともコロナ禍下で得られた教訓をもとに、新たなコミュニケーション戦略を描くのかー今後は、各企業・各チームが独自の風土や目的に合わせたコミュニケーション戦略を描く必要があるだろう。

文責:辰巳哲子