企業が語る「集まる意味」の現在地ワクワクする空間にオフィスをリニューアル 「集まる意味」をコミュニケーションに置く

カルビー コーポレートコミュニケーション本部 広報部 広報課 
櫛引 亮氏
幕内 理恵氏

2021年9月、カルビーは東京・丸の内にある本社オフィスの全面リニューアルを行った。こんにち、オフィスのリニューアルは働き方改革と密接に連携しており、現に同社も働き方の新しいルール「Calbee New Workstyle」をあわせて導入している。そのリニューアルにおいては部署横断の若手チームが先頭に立った。メンバーの一員でもあった広報部の櫛引氏と、働き方改革の経緯と実情に詳しい同部の幕内氏にお話を伺った。

新オフィスのキーワードは共感、協働、共創

―― 本社オフィスのリニューアルについて、経緯や考え方について教えていただけますか。

櫛引 先行き不透明で、将来予測が困難な、いわゆるVUCAの時代にあっても、変革や成長を続けるため、働き方とその根本となるオフィスのあり方を考えよう、というのがそもそもの趣旨です。
しかも、これは先を見すえた話でもあります。未来のことを思考するには、次世代を担う若手に当事者意識をもって取り組んでもらいたい。そうした会社の考えから、昨年6月、30代を中心とした若手約10名で構成された各部門横断のチームが発足し、定期的に会合を重ねました。
会合を通じ、新オフィスのキーワードとして、共感(エンゲージメント)、協働(リレーション)、共創(コラボレーション)の3つが決まり、新オフィスはそれらを三本柱とした「価値創造の場」であるべきだ、としました。

リニューアルのポイントは3つあります。

一つは、オフィス勤務者の場合、リモートワークが標準的な働き方になったこと。これに関しては、昨年7月、「Calbee New Workstyle」を導入しました。自分のライフスタイルに合わせ、自ら出社および退社時刻を設定できるフルフレックス制を採り入れ、勤務はオンラインをベースにする、というものです。このルールをもとに、オフィスもリニューアルしたのです。
具体的にはこれまでの2フロアを1フロアに集約するとともに、一人での仕事や報告型の会議はリモート実施を前提としました。そのうえで、オフィスを「コミュニケーションを重視した新しいアイデアを創出する空間」と位置付けたのです。そのためには、社内だけではなく社外からも「集まりたい」と思ってもらう空間にしなければいけない。それが次のポイントにも関連してきます。

二つ目は、当社にとって重要な価値を持つ、畑をモチーフにした、遊び心あるオフィスにしたこと。コンセプトを「Dig up field(新しいを掘りだそう)」と定め、畑の畝をイメージした入口をしつらえ、かっぱえびせんやポテトチップスといった主力製品をモチーフにした会議室を設けるなど、ワクワクする空間を設けました。

三つ目は、執務エリアは先にも述べたコミュニケーションの活性化を重視したことです。具体的には各執務スペースがランダムに重なり合うようにしました。こうして机の配置をばらばらにしたおかげで、動線が複雑になり、人と人との交わりを増やすレイアウトになりました。自席のないフリーアドレス制を導入、社長室もなく、皆がワンフロアで執務するフラットでオープンな空間です。
新オフィスの勤務対象者は約600名で、座席数は754。出社率は最大4割を目安としていますが、コロナの状況が大分落ち着きつつある11月現在、2割程度で推移しています。

新オフィスではフリーアドレス制を導入しているカフェスペースは明るく広々とした空間になっている

カルビーの一員であることを意識させる

―― 先ほど、実際のオフィスを見学させていただきました。主力製品の名称が冠された会議室は内装も個々の商品がイメージされており、面白かったです。確かにワクワクするオフィスですね。

櫛引 ありがとうございます。このコロナ禍を通して、一人でやる仕事はリモートワークで十分対応できるというのは皆が実感したはずです。あえてオフィスに来る場面を考えると、仲間とのアイデア出しや、初対面の社員あるいはお客様との関係構築が目的となる場合ではないかと。また、研修や教育もオフィスのほうがやりやすいと思います。

さらに付け加えるとしたら、オフィスに来る意味として、カルビーグループの一員であることを実感してもらうことも重要ではないかと。リニューアルにあたって、私たちもそのための仕掛けを意識しました。ご指摘のように、会議室のネーミングやしつらえが典型ですが、そのほかにも、新オフィスの象徴として、エントランスからカフェテリアに向かう通路に、社名Calbeeの巨大なロゴを設置したり、空撮した畑を表現した植栽「グリーンアート」を壁面に施したりしました。

もちろん、一人仕事であっても、オフィスのほうがパフォーマンスが上がる人もいると思います。そこで、周囲の音を気にせずに電話できるスペースやオンライン会議に適したブースも用意しました。出社か自宅か、あるいはカフェなどの第三の場所か、パフォーマンスの最大化を目指し、働く場所を自由に決めるのがベストという考えです。

社名Calbeeの巨大なロゴは新オフィスの象徴となっている社名Calbeeの巨大なロゴは新オフィスの象徴となっている

フリーアドレス制に移行して、すでに10年

―― もともと御社は働き方の自由度を高める仕組みを次々に導入してきました。

幕内
 はい。週2回を上限に、自宅でのリモートワークを認めた「在宅勤務制度」を2014年に、勤務場所や回数を問わない「モバイルワーク制度」を2017年に導入しています。
本社を赤羽の自社ビルから丸の内に移転させたのが2010年で、その時から各自にノートパソコンと携帯が支給され、完全フリーアドレス制に移行しました。

2007年、まだ赤羽に本社があったとき、一部の部署でフリーアドレス制を試したことがあったのですが、フリーといいながら、仲良しグループができ、多くの社員が毎日同じ席に座るという固定化が起こってしまいました。2010年当時は、そうならないよう、出社してIDカードを画面にかざすと、コンピュータが自動でその日の席を割り振ってくれる「ダーツ式」というやり方を採用しました。わかりやすく言えば、新入社員の隣に管理職が座ることもあり、半ば強制的にコミュニケーションが生まれるように仕向けたのです。
でもいつの間にか、こういうやり方をとらなくても、出社した人の間で自然にコミュニケーションが生まれるようになり、今般リニューアルしたオフィスではダーツ式は使われていません。

―― フリーアドレス制にはかなりスムーズに移行できたと。

幕内
 菓子メーカーという業種ならではの社風もあるのかもしれません。それ以前から従業員の関係はフランクで、社長を含め、役職ではなく、「さん」付けで呼び合っていましたから、隣の席に誰が来ても抵抗感があまりないのだと思います。

オンラインでの学びの場も立ち上がった

―― 新型コロナウィルスの感染拡大で、緊急事態宣言が発出されると、出社率が大きく下がったと思います。そうなると、社員同士のコミュニケーションが低調になりがちです。それを防ぐため、何か施策を講じましたか。

幕内
 それについては、部や課、あるいはチーム単位で、さまざまな工夫が行われました。仕事の話は一切なし、雑談だけを行うチャットを立ち上げた部署がありました。あるいは、オンラインで全員が常時つながっている時間を定期的に設け、話したければ話し、相談したければ相談し、黙っていたければお互い黙って仕事をしているというリアルの場面に近い状態を作ったり、オンラインでの勉強会を立ち上げたりするグループもありました。

リモートワークが通常化すると、外との関わりが薄れ、学びや刺激が減ってしまうことに対する危機感から、人事が始めたのが「Calbee Learning Café」です。月2回程度開催される、全社員を対象にしたオンラインでの学びの場で、社内外のさまざまな人が講師となります。社内でいうと、たとえば海外事業部の人間が、現地から最新の取り組みについて話をしてくれるという感じです。講師の話を聞くだけではなく、マインドフルネスの実践講座といったカリキュラムも用意されています。

―― リモートワーク主体に移行すると、上司が部下とのコミュニケーションをとるのに苦労するという話をよく聞きます。御社はどうでしょうか。

幕内 苦労しているという話はあまり聞きません。リモートか、対面かにかかわらず、コミュニケーションがうまい人はうまいし、苦手な人は苦手なのではないでしょうか。

―― これだけリモートワークが浸透すると、上司が部下に対し、対面で打ち合わせをするために出社してほしいと思っても、なかなか言い出しにくく、結局リモート会議になってしまう、という問題も最近よく聞きます。

櫛引 私たちの部署では、オフィスから遠い場所に住んでいる人が出社するタイミングで打ち合わせをしたり、ほかの用事がすでにあり、出社が決まっている日に会議を設けたりといった工夫をしています。出社しなくてもできることが増えたからこそ、オフィスのあり方が重要になるのだと思います。リモートで仕事をしているときには味わえないワクワク感がないと「行きたい」とならないでしょう。

―― 今日の取材で、社員の働き方改革、集まり方改革に関し、御社の場合、大きな問題は生じておらず順調に進んでいるという印象を受けました。その秘訣は何でしょうか。

幕内
 働き方改革やオフィスのリニューアルが総務や人事といった特定の部署だけではなく、部署横断で進められてきたことと、何か問題が起これば、総務や人事がその都度吸い上げ、個別に解決してきたことが大きいと思います。

カルビー コーポレートコミュニケーション本部 広報部 広報課

櫛引 亮氏櫛引亮氏

新聞社、PRエージェンシーでの勤務を経て2020年カルビー(株)入社。社外広報を担当し、「ポテトチップス」や「堅あげポテト」などの商品をはじめ、働き方などの企業広報にも携わる。


幕内理恵氏幕内 理恵氏

新聞社勤務を経て2005年カルビー(株)入社。社内報制作、イントラネット運営業務や統合報告書、会社案内制作等に携わる。2度の出産・育児休暇を経て2014年より働き方や商品に関する社外広報を担当。

インタビュアー:坂本貴志
TEXT:荻野進介
PHOTO : 勝尾仁