企業が語る「集まる意味」の現在地リアルとオンラインを組み合わせた「ハイブリッドワーク」で行こう!

NECネッツエスアイ
ビジネスデザイン統括本部ビジネスデザイン戦略本部 本部長
吉田和友氏

1953年、通信インフラの設置工事会社として設立され、現在は国内有数のシステムインテグレータとして活動するNECネッツエスアイ。同社は2007年から働き方改革を進め、その実践を通じ、新たな働き方を社会に提案してきた。この7月に発表された最新のコンセプトがオフィスとテレワークを組み合わせた働き方「ハイブリッドワーク」である。発案者の一人、ビジネスデザイン戦略本部本部長の吉田氏に、それが生まれた背景と問題意識を伺った。

コロナ禍以前から出社率はすでに3割

―― 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下、出社状況はどのようになっていますか。

まず、コロナ禍の影響がなくても、我々の働き方はテレワークが基本になっていました。なぜなら、他社が取り組む以前の2007年から「働き方改革」に取り組んでいたからです。特に2014年からはテレワークに力を入れ、2017年には回数や場所の制限を取り払ったテレワーク制度を全社に導入、その後、2019年10月にはテレワークを基本のワークスタイルとした分散型ワークに踏み切りました。分散型ワーク実施のため、社員の通勤負担の軽減と災害時のBCP対策、首都圏への一極集中といった課題解決を目的に、本社の面積を6割減らして社員の居住エリア付近に自社占有のサテライトオフィスを設けたのですが、この取り組みを開始して半年後にコロナ禍となり、現在は在宅勤務が基本の働き方となりました。

といっても出社厳禁というわけではなく、一人ひとりがチームと自分にとってベストな働き方を考え、働く場所を自律的に考えることになりました。
その結果、地域や職種によって異なる状況が生まれました。たとえば、今年9月10日時点での平均出社率を見ると全社で20.3%でした。地域別に見ると、最も出社率が低いのが関東地区で17.7%、逆に高いのが東北地区で49.1%でした。

関東が低いのはテレワークに馴染みやすいIT企業が多く、さらにコロナ禍の状況もよくなかったからでしょう。全般的に、地方に行けば行くほど、「お客様が出社しているんだから、我々も出よう」となる傾向があります。
職種でいうと、営業は出社率が高く3割を越え、逆に我々のようなバックオフィス系は低く、2割以下といったところでしょうか。

テレワークが抱える4つの問題

―― コロナ禍でテレワークがより進んだということですが、あえてその問題点を挙げていただけないでしょうか。

大きく4つあります。まずは社員の残業時間が増え、高止まりしています。考えられる原因は2つあり、一つは距離や時間、集まる場所などの制約がないため、オンラインでの会議が設定されやすいことです。特に就業時間外の打ち合わせが非常に多くなっています。
もう一つはそれとも関連するのですが、管理職が11で部下からの相談を受ける機会が増えた。つまり、マネジメントの工数が増え、負担が増している。世間ではよく、課長クラスの負担増が取り沙汰されていますが、うちでは、私も含め、部長以上の就業時間も大幅に増加しています。

3つ目には、イノベーションに不可欠な創造的かつ偶発的な議論ができにくくなっていることです。やらなければいけない仕事を各自が淡々とこなす一方、一緒に考えてみよう、何かをやってみようという意識を醸成するのが難しい。オフィスならば、自然発生的に起こっていた雑談の場が失われてしまったからでしょう。たまたま行き会ったときに、「そういえばさあ」といった感じで立ち話になり、そこから有益なヒントが生まれるといったことも期待できなくなりました。

最後に、若手の人材育成にも問題が生じています。オフィスという環境が失われると、先輩の仕事のやり方を見よう見まねで試し、駄目だったら都度アドバイスを受け、改善していくというOJTが機能しなくなってしまうのです。実際、彼らからは「同期と比較できないので、自分の仕事のやり方が本当に正しいのかよくわからない」「仕事の肌感覚が得られない。自分の立ち位置や目指す方向性がつかめず、不安だ」といった声が上がっています。

求心力と遠心力が効きすぎてしまうと……

―― どれもなるほどと思う、深刻な問題ですね。

はい。これに関連して別の側面からお話しします。我々の営業組織の問題です。先ほど触れたように、部下とのコミュニケーションが1対1のオンラインに代わり、管理職の負担が非常に大きくなっています。ただし、時間を割いている甲斐もあってか、管理職と部下という縦のコミュニケーションは、デジタルツールを駆使しながらうまくいっている様子も最近わかってきました。

一方、問題が生じていたのは、それぞれほかの組織との横のコミュニケーションでした。組織内で解決できない問題を、同じ立場にいる他部署の仲間に相談し、部署をまたがった問題を一緒に解決する、よい提案資料があったら共有させてもらうといったことができなくなったのです。
なぜなら、これらは公式な会議で行われていたわけではなかったからです。先ほどの立ち話や、飲み会の場で自然に生まれていたのです。それがテレワークで断たれてしまった。

オンラインになり横のコミュニケーションが廃れてしまう課題を解決するために、まずは営業職向けに、TeaRoom(お茶の時間)というデジタル・コミュニティを作りました。営業職自身がファシリテーター役となり、毎週1回、オンラインで、「お客様からこんなお題をもらったんだけど」といった仕事に関係する雑談をし、交流を深めてもらう場です。それ以外に、掲示板の機能を使い、事例や情報の共有も図っています。

対面でも初めて行われた。NECネッツエスアイの東京・日本橋オフィスにてTeaRoomがオンライン併用のもと、対面でも初めて行われた。NECネッツエスアイの東京・日本橋オフィスにて

テレワークには求心力と遠心力が働くんです。仕事上のつながりのある人たちは、その密度が増し、一体感と信頼感が強化される。これが求心力です。一方で、職場や顧客との距離が心理的なものを含め、遠くなってしまう。こちらが遠心力です。

この2つの力が効きすぎると、つながりは強くないけれど、時に重要な情報をもたらしてくれる他部署の人間が視野から外れてしまい、その情報が欠乏してしまうのです。
ここまでお話ししたことをまとめますと、テレワークは、個人、特に若手の力と組織力、その双方に悪影響を及ぼしている面があるということです。

メリットはフラットな議論がしやすくなること

―― 一方、そのテレワークのメリットをどう捉えていますか。

自宅を筆頭に自分の好きな環境で仕事ができ、通勤時間もなくなりますから、仕事の集中度が増すとよく言われます。ただしこれは個人に限った話で、組織で言えば、「オープンでフラットな議論がしやすくなる」というのが一番大きなメリットだと思っています。
我々はウェブ会議システムのZoom2017年から全社に導入しています。こうしたシステムを使うと、「ちょっと共有させてもらっていいですか」と、自分の考えをまとめた資料を会議のメンバーに提示しやすくなります。今までの対面の会議では上の立場の人がメンバーに一方的に何かを伝えるという場になりがちでしたが、そうではなくなる。

我々は全社会議もどんどんオープン化させています。
たとえば、Slido(スライド)というクラウドのアンケートツールを導入し、事業執行会議でも活用しています。同会議は中期経営計画の策定や予算説明などを行う場で、従来は執行役員以上のみが参加し、数字や決定事項を滔々と話し、出席者は拝聴するだけで終わり、となりがちでした。現在はZoomSlidoを活用し、本部長以上は誰でもオンラインで事業執行会議に参加でき、自分の意見を主張したり、疑問に思ったことを質問したりできるようになったんです。

時には歯に衣着せぬ意見も出ますが、会議に双方向性が生まれ、明らかに活性化してきています。組織のピラミッドを崩してフラットにし、議論を活性化させる。これはオンライン、そしてデジタルの力を借りると、案外簡単にできます。

お菓子を食べながら参加できる、役員への意見具申会

―― テレワークにはビデオ会議システムが不可欠ですが、それ以外のツールも使うと、人が集まる場が増えるということですね。

そのとおりです。若手の意見を集約し、役員に伝える「ALL FREE(オールフリー)」という企画も走っています。何を主張してもいいんですが、ルールがいくつかあって、たとえば、事前に上司に発表資料を見せて確認をとっておくのは厳禁です。ある人の主張に対し批判的なコメントをしたり、立場が上の人間がマウントをとるような発言をしたり問い詰めたりするのも禁じられています。自分の音声はミュート(消音)にし、お菓子を食べながら聞くのもありだと。

こういう仕掛けを設けると、「私は、日頃こう思っていて……」という話がどんどん出てきます。これが貴重なんです。たとえば、最近の例では、入社2年目の若手が、今日お話ししたテレワークの問題点を指摘したうえで、自分たちが楽しく働きながら成長できる土台づくりの必要性を訴えました。

「私はこんなことを考えましたので、見てください」「私はこんなことをやってきました」「私はこんなことに興味があります」……こういったことが気軽に発言、発表でき、幅広い人たちにチャンスを与えられ、悪しきヒエラルキーを突破させられるのが、まさにテレワーク、そしてデジタルの利点です。

対面して共感を高め、相手の熱量を感じながら、新しいアイデアを作り出していく。これがリアルのいい点です。どちらかを選択するのではなく、必要に応じ、どちらも使い分けていく。つまり、両者のいいとこ取りをしたハイブリッドワークがこれからの働き方の基本になるべきだと考えています。

NECネッツエスアイでは、対面とテレワークを組み合わせたハイブリッドワークを推進しているNECネッツエスアイでは、対面とテレワークを組み合わせたハイブリッドワークを推進している

働き方の舵取りは将来を担う若手にゆだねる

―― そのハイブリッドワークの大切さは私たちもよくわかります。

コロナ禍が終息したらなにもかも元に戻るだろうと思っているのは、昭和の世代だけで、20代、30代の若手たちはハイブリッドでやっていくしかないと思っています。経営判断としても、働き方改革の舵取りは将来を担う若手に任せるのが合理的ではないかと。

日本にはテレワークがなかなか普及しませんでしたが、コロナ禍で状況が一変し、10年かかるところ、2年という超短期での普及を強いられました。ここで立ち止まるのは意味がありません。テクノロジーの進歩に支えられたこの流れは必然であり、押しとどめようがないからです。

―― 今日のお話は社員の働き方の話にとどまらず、昨今話題になっているDX(デジタルを活用したビジネス変革)に関わることも多分に含まれていたように思います。御社のように、もう15年も働き方改革に邁進している企業ならいざ知らず、これからDXを本格化させたいけれど、何から始めたらいいかわからないという企業も多いと思います。その場合、どこから手をつけたらいいのでしょうか。

デジタルの力でディスカッションのやり方やコミュニケーションの方法を変えていくことをおすすめします。具体的に言えば、情報のあげ方、情報に対する判断の仕方、決済のやり方です。たとえば、現場のリアルな声をフィルターなしで一斉に把握し、共有できる状態にもっていく。重要な情報がなかなか共有されない、意思決定が遅い、組織の縦割りが強く横の連携がうまくいかない等々、これまで多くの企業が悩んできた経営課題はデジタルの力で解決できる可能性が高いのです。

NECネッツエスアイ
ビジネスデザイン統括本部ビジネスデザイン戦略本部 本部長
吉田和友氏

吉田和友氏1989年、現在のNECネッツエスアイである、NECシステム建設に入社。2007年のオフィス改革に始まり、約15年にわたり自社の働く場、ワークスタイル、業務プロセス変革に取り組んできた改革リーダー。自社実践で培ったノウハウをもとに、500社を超える企業・自治体・公官庁への働き方改革提案に携わり、企業・団体向け講演実績も多数保有。
2020年からは社長直下の「ニューノーマルプロジェクト」の推進リーダーとして、ニューノーマル時代に向けた働き方、DXを活用した企業改革を推進。自社の新しい働き方としてリアルオフィスとバーチャル環境を融合させたハイブリッド ワークの企画検討・社内検証を牽引。

インタビュアー:坂本 貴志
TEXT:荻野進介