ソーシャル・サポートのスピルオーバー研究第1回 本業から広がる「助け合い・支え合い」の輪

労働供給が不足する社会で求められる「助け合い・支え合い」

2040年、少子高齢化とともに労働供給制約が進む中で、日々の生活を担うサービス(生活維持サービス)が社会的に行き届かなくなることが予想されている。こうした未来においては、私たち一人ひとりがそうしたサービスの一方的な需要者である状態から、供給者に回ることが求められる。行政や企業からのサービスの供給に頼らずに、自分たちでできることは自らの手で行い、お互いに助け合い、支え合いながら生活を整えることが必要になってくる。

しかし、そうした働き手の大半は本業以外の活動に参加できていないという実態がある。例えば、「ボランティア活動」や「地域コミュニティ活動」に参加している人は、実にその15%に満たない。また、副業なども含め、本業以外の活動にその視野を広げてみても、その参加状況は25%に満たない状況にある(結果は後述のとおり)。こうして見ると、多くのフルタイムの働き手が、本業のみに従事している(本業のみへ多くの労働供給リソースを割かざるを得ない)姿が浮かび上がってくる。

このような状況下においては、フルタイムの働き手を本業から切り離して、その助け合い・支え合いの手を引き出すことは容易ではないであろう。安心・安全で豊かに暮らしていくことができる社会を維持・発展させていくためには、無理なくできるところから、何かしらの取り組みを始めることが必要である。その意味でも、本業の中に、本業の外にある助け合い・支え合いに繋がるきっかけを見出すことが大切ではないか。

そこで抱いたのが、「本業での助け合い・支え合いが充実しているほど、その境界(企業や組織)を越えて助け合い・支え合いの輪が広がるのではないか」という素朴な仮説である。これまでの調査・研究では、特定の組織・コミュニティ内での助け合い・支え合いが、その組織コミュニティ内でどういった影響を与えているかといった点に焦点を合わせられており、その外との関係を見ているものは少ない。既に、職場内での助け合い・支え合いには、個人のストレス低減を通じた心身の健康やパフォーマンス発揮、また、職場における学習を促進するなど、多数のメリットがあることが分かっている(*1) 。それに加えて、そのメリットが職場・会社内に限らず、その外にももたらされるものであるならば、その助け合い・支え合いの重要性はさらに高まるではないか。

本業での「助け合い・支え合い」の輪が広がる可能性を探索する

そうした仮説を検証するべく、本業での助け合い・支え合いと本業以外で助け合い・支え合いの関係について、個人や組織要因の観点から多面的にその実態について調べることとした。なお、今回の調査は、フルタイムの働き手が本業以外の活動を十分に行えていないという状況に対する懸念に端を発していることから、会社勤務の20~50代の正規の職員・従業員をその対象とした。また、調査方法は、インターネット調査とし、全国1,513名からの回答を得た。

本調査の結果について、これから複数のコラムに分けて見ていきたい。まず今回は、そもそも本業以外での助け合い・支え合いとはどういった活動なのか、また、そうした活動と本業における助け合い・支え合いの関係はどうなっているのかという点について見てみたい。

本業以外での「助け合い・支え合い」活動とは

そもそも、本業以外での助け合い・支え合いはどういった活動を指すのか。この点を明らかにするにあたり、本業以外として、図表1に示す次の全5種類、計16個の活動への参加の有無と、「向社会性(prosociality) 」との関係性について確認した。ここで確認した向社会性とは、他の個人や集団の助けになることや、ためになることをしようとする心情や行動、として定義されるものである。この向社会性との関係性が見られた職場外における活動は、助け合い・支え合いといった側面がある(強い)と考えたのである。なお、向社会性の測定にあたっては、Luengo Kanacriら(2021)により作成された尺度を使用している。本尺度は、向社会的感情について「私は、助けを必要としている人々に力を尽くしている」「困っている人の立場になって考えてみる」、また、向社会的行動について「私は、悲しんでいる人を慰めようとする」「困っている人に寄り添い、世話をするように心がけている」といった設問から構成されている。

図表1:本業以外の活動
図表1 本業以外の活動実際の上記5種類の活動と向社会性との関係は以下のとおりである。図表2は、向社会性と本業以外のいずれかの活動との関係を、図表3、4は、向社会性と各活動との関係を見たものである。セルが黄色くなっているものが、関係性を確認できたものである(*2) 。

まず活動全体で見ると、図表2が示すとおり、向社会性の得点が高いほど、社外での活動に参加しているといった関係性にあることが窺える(*3)。

図表2:向社会性と本業以外のいずれかの活動との関係
図表2 向社会性と本業以外のいずれかの活動との関係一方で、個別の活動に目をやると(*4)、図表3、4が示すとおり、その関係性が見られたのは「❶ボランティア活動」「❷地域コミュニティ活動」「❺趣味・サークル」の3つとなっている(「❸副業」「❹プロボノ」ではその関係性は見られなかった)。一口に、本業以外の活動といっても、すべての活動が助け合い・支え合いの側面を持っているわけではないのである。関係が見られた先の2つ、「❶ボランティア活動」「❷地域コミュニティ活動」は想像どおりの結果となっている。意外にも、「❺趣味・サークル」においても関係性が見られた。人は、誰かの役に立ちたいという思いを持ちながら本活動に参加していることが推測される。

また、「❸副業」との関係が見られなかったのも想定どおりであろう。人は必ずしも、誰かのためになりたいという思いから副業をしているわけではないのである。なお、「❹プロボノ」との関係が見られなかったのはやや意外であった。ただし、そもそも当該活動に参加している人が少ないこともあるため、この点については、さらなる検証が必要である。

図表3:向社会性と「❶ボランティア活動」「❷地域コミュニティ活動」との関係
図表3 向社会性と「❶ボランティア活動」「❷地域コミュニティ活動」との関係

図表4:向社会性と「❸副業」「❹プロボノ」「❺趣味・サークル」との関係
図表4 向社会性と「❸副業」「❹プロボノ」「❺趣味・サークル」との関係

本業と本業以外での「助け合い・支え合い」の関係

本業以外での具体的な助け合い・支え合いの活動が明らかになったうえで、本調査の主眼となる、本業での助け合い・支え合いとの関係について見てみたい。

本調査では、本業での助け合い・支え合いを「ソーシャル・サポート」の観点から把握した。これは、他者から得られるさまざまな形の援助、として定義されるものである。ソーシャル・サポートはそのサポートの内容を踏まえて、一般的に2~4種類に分類されるが、本調査では「道具的サポート」と「情緒的サポート」の2種類に分ける考え方を採用した。前者は、問題を抱える他者に対して、その問題を解決するために必要な資源や関連する情報を提供するといった、実際的なサポートであり、後者は、そうした他者に対して、励ましたり、相談相手になるなどといった、情緒的なサポートである。なお、向社会性の測定にあたっては、小牧(1994)により作成された尺度を使用している。具体的な質問項目は図表5に示すとおりである。

図表5:ソーシャル・サポートに関する具体的な質問項目

図表5ソーシャル・サポートに関する具体的な質問項目

また、ソーシャル・サポートについては、提供する側と受領する側の両側面が想定される。そのため、今回は、職場においてそれぞれ、「提供しているソーシャル・サポート(以下「提供ソーシャル・サポート」とする)」と「受領しているソーシャル・サポート(以下「受領ソーシャル・サポート」とする)」に分けて確認した(提供ソーシャル・サポートについては、図表5にある質問文の受動的な表現を能動的に変換したものを使用している)。

本業以外での助け合い・支え合い活動と本業での助け合い・支え合い活動との関係は以下のとおりである。図表6が示すとおり、提供および受領のいずれのソーシャル・サポートも「❶ボランティア活動」と関係していることが分かる(*5)。また、提供ソーシャル・サポートは、「❷地域コミュニティ活動」とも関係していることが分かる。

図表6:提供/受領ソーシャル・サポートと「❶ボランティア活動」「❷地域コミュニティ活動」との関係
図表6 提供/受領ソーシャル・サポートと「❶ボランティア活動」「❷地域コミュニティ活動」との関係これらの結果は、(必ずしも因果関係を示したものではないが)本業での助け合い・支え合いの輪が、本業以外へ広がっている(またはその逆)可能性を示唆している。本業での助け合い・支え合いは、本業のみならず、本業以外でもメリットをもたらす可能性があるのである。

今回は、労働供給が不足する社会において本業の外にある助け合い・支え合いが必要になるのではないかという問題提起、そして実際に、本業での助け合い・支え合いがどう本業以外での助け合い・支え合いに関係しているかといった点について見てきた。次のコラムからは、さらに踏み込んで、具体的にどういった要因が、本業での助け合い・支え合いを促進しているのかという点について、個人および組織要因の両側面から見ていきたい。

執筆:筒井健太郎(研究員)

(*1)ソーシャル・サポートは、ストレッサーに対する重要な対処の一つであると考えられており、ストレス低減に対して効果があることが分かっている(小杉他,2002)。過度にストレスを抱えなくなることにより、心身の健康に繋がるとともに、最適なパフォーマンス発揮にも繋がるのである。また、職場内における助け合いやその規範は、職場における学習を促進することが分かっている(中原,2010)。

(*2)表中の数字の色は統計的に優位な差があったか否かを表しており、青字は1%水準で優位であることを示している(黒字は1%水準で有意ではない)。また、セルの色は関係性の強さを表しており、黄色地は一定の関係性があること(カイ二乗検定を行ったうえで、クラメールの連関係数を算出して判断している)を示している。以降の分析も同様に行っている。

(*3)実際の測定にあたっては、因子負荷の高い項目を中心に選択し、筆者にて翻訳したものを使用している。全4問について「あてはまらない」から「あてはまる」の5件法で測定した。なお、具体的な分析にあたっては、各因子の得点を合計し項目数で除したうえで、2.5未満を低群、2.5以上3.5未満を中群、3.5以上を高群としている。

(*4)これらの活動への参加有無は、複数選択できる形で聞いている。前々段で、「ボランティア活動」や「地域コミュニティ活動」に参加している人は15%に満たないとしているが、図表3にて示されているそれぞれの活動に参加している人の合計(20%)よりも、小さくなっている。これは、ボランティア活動にも地域コミュニティ活動にも参加している人がいるためである。

(*5)実際の測定にあたっては、因子負荷の高い項目を中心に選択して使用している。全6問について「分からない」「まったく十分に受けていない」から「とても十分に受けている」の7件法で測定した。なお、具体的な分析にあたっては、それらの得点を合計し項目数で除したうえで、3未満を低群、3以上5未満を中群、5以上を高群としている。なお、因子分析の結果、「道具的サポート」と「情緒的サポート」の2因子構造を本調査では確認できなかったため、本分析は1因子構造として行っている。

【参考文献】
小杉正太郎(編著)(2002)ストレス心理学,川島書店
小牧一裕(1994)職務ストレッサーとメンタルヘルスへのソーシャルサポートの効果,健康心理学研究, 7(2),2-10
Luengo Kanacri Bernadette Paula, Nancy Eisenberg, Carlo Tramontano, Antonio Zuffiano, Maria Giovanna Caprara, Evangelina Regner, Liqi Zhu, Concetta Pastorelli, and Gian Vittorio Caprara (2021) Measuring Prosocial Behaviors: Psychometric Properties and Cross-National Validation of the Prosociality Scale in Five Countries, Frontiers in Psychology, 12 July, 693174
中原淳(2010)職場学習論,東京大学出版会