高齢期の生活と小さな活動高齢期の社会参加の実態を探る ―シニアのワーキッシュアクト―

前回は高齢期の社会参加のあり方として、農業や町内会などの活動を紹介した。本稿でも引き続き高齢期の社会参加の実態を探っていこう。

自営業を行いながら、地域での見守り活動に従事

高齢者が行っている仕事には実に様々なものがある。その中でも自営業やフリーランスという就業形態は、高齢期に仕事をするうえで有力な選択肢である。

五十嵐さんは、自営業として地域の公民館でパソコンに関する講座を主催している。講座は週3日、日によって午前か午後に2~3時間ほど授業を受け持っている。現在の仕事を始めたきっかけは中高年の時の失業であった。

「私、一切パソコンに触れたこともなかったんですが、たまたま仕事していた当時の会社がつぶれちゃって。それで、職業訓練行った時に初めて国でお金を出してくれているパソコンのスキルを学ぶコースで習ったんです。そこでちょっと検定受けたりして、それが自分にすごく合ってたんですね。
 ちょうどその時、市内のあちこちでパソコン教室が始まった経緯があって、私もある程度渡り歩いて、大体のところを見て回ったんですね。そこから自分でやろうかなと思って立ち上げたりして、それが現在につながっています」

パソコン教室での指導という仕事と並行して取り組んでいるのは、社会福祉協議会における高齢者見守りの活動である。この活動も、五十嵐さんにとっては日々の生きがいにつながっている。一方で、待遇面での課題を抱えていることもわかる。

「社会福祉協議会っていうんですけど、地域の独り暮らしの人の安否確認のコーディネーターをやっています。近くの人が見て私のところに紙を持ってくるので、一月まとめて事務局に提出するというのが仕事です。
 私が直接見に行くわけじゃなくて、実際に現場を確認するのは担い手さんです。何時ごろ買い物に行ったとか娘さんが来てたとか、事細かく書く人から、安否確認だけで丸とかバッテンとか三角ぐらいしか書かない人まで、それは人によってまちまちで、そういったものを取りまとめる役割です。
 ただ、担い手の方が今いなくなってきています。報酬がゼロなので、もうこれからはいないですよ、やる人。今のお年寄りは結構それが何か生きがいになってるけど、これからの若い人にはなり手がいません。これも一つのボランティアじゃなくて有料ボランティアっていうんですか、にしていかなきゃ、この先もうできないですね。何でもそうです。行事だって結局、1日時間つぶれるわけでしょう。それで無報酬で。だから、ああいうんも全部やっぱり、少しでもお金出すとかしてやっていかないと、これからは人がいないですね」

小学校の用務スタッフで社会への恩返し

地域での活動に関しては、町内会やクラブ活動など一定の組織に属して行う活動が含まれるが、そうした組織に入らずに活動している人もいた。普段、学校の用務スタッフとして働いている大橋さんは通勤がてらごみ拾いをするのが日課になっている。

「これはもう全く個人的にですが、仕事に20分間歩いて出勤してますが、たばこの吸い殻だとか、近隣のコンビニエンスストアで買ったインスタント食品の容器とかが捨ててあるんですね。店舗の前だとか住宅の前だと、その住民の方とかがいずれ掃除をされるんですけども、陸橋だとか跨線橋だとかそういった、人が住んでないところのごみっていうのはなかなか誰も拾わなくて。そういったところで目に付く物をピンセットとか挟むもので袋に入れていくと、片道で袋はいっぱいになります。
 似たようなことをされる方が近隣住民の方にもいらっしゃって、このエリアはあの方が、このエリアはこの方がやってらっしゃるみたいなことで、お互いにうまくカバーし合いながらやってますね」

小学校の用務スタッフの仕事は多くを稼げる仕事ではない。ただ、その代わりとして業務の負荷はほどほど。仕事や日々の活動を通じて社会に何かしらの貢献をしたいという思いは変わらない。

「この仕事でいいところなんですが、いろんな子どもがいるけれども、やっぱり素直ですね、子どもたちは。たとえば特別学級なんかあるんですが、そういった教室の子どものほうが向こうから駆け寄ってきて『きれいにしてくださってありがとう』みたいな感じでちゃんとお礼を言ってくれて。そういう表現はしないまでも、後ろ姿だとか教室をきれいにしている姿を子どもたちが目にして、何か児童の発育成長に資するところはきっとあるんだろうなと。
 そういう意味で、自分も小学校6年間通って、当時は思いも寄らなかったけどもいろんな人のお世話になって、担任の先生だけじゃなくてそういう中で自分も育てられたことの、回り回っての恩返しにはなると。そういう意味で、『年収はピークはこれだけあった』とか肩書だとか役職だとか武勇伝に依拠して余生を暮らす人ももちろんいらっしゃるのでしょうけど、むしろそうじゃないところに生きがいを見つけるといいますか。次世代を託すのは子どもたちだから、その子どもたちが気持ち良く学校で過ごせる環境整備に携わることで満足感が得られるような考え方ができる人だったら、この仕事はもってこいだと思います」

無理のない活動でできる範囲の社会貢献を

ここまでシニアが取り組む高齢期の活動の様子について、いくつかの事例を交えながら紹介してきた。

現在、各地域において取り組むことができる様々な活動が広がっている。高齢期になった時、自身の生活をより豊かにし、かつ社会へ無理なく貢献していくためには、その中から自身の嗜好やその時々の状態に合った活動を選んでいくことが必要になる。

現役世代の人にとっては、社会への貢献は日々の仕事と同義になっているという人も少なくない。しかし、高齢期に関していえば、社会との関わり方やそこでの貢献の在り方は様々である。人のためになる活動は、何も現役時代のように一生懸命に働くこととは限らない。自身のできる範囲の活動によって、社会への貢献を行いながら、それと同時にそうした活動を自身の日々の生活の豊かさにつながるように活かしていくことができれば理想的である。

労働供給制約社会を迎える将来の日本において、個々人の体力や気力などとも相談しながら、無理のない範囲でできる活動を続ける意識がますます重要になっていくだろう。

執筆:坂本貴志(研究員/アナリスト)