高齢期の生活と小さな活動高齢期の社会参加の実態を探る ―農業や地域貢献に着目して―

様々な活動が行われる高齢期、その中身を探る

労働供給制約社会が訪れる2040年に向けて、仕事にかかわらず高齢期に無理なく活動する人が増えることは重要な要素になってくる。本稿では40名の方々へのヒアリングの結果から、高齢期に人々が行っている活動の実態を探る。

私たちが行ったヒアリングからは、人生の後半に多くの人々がこれまで行っていなかった活動に参加する姿が浮かび上がってきた。高齢期の社会活動の具体的な内容について説明していくことで、どのような社会への関わり方があるのかを明らかにしていこう。

農業は地域貢献のための有力な選択肢

誰かの役に立つ何らかの活動を行っている人にインタビューしたところ、複数の人からあがってきた活動がある。

多くの方々からあがってきた活動として、まずあげられるのは農業である。農業というと大規模なものを思い描く人も多く、ハードルが高いと感じる人もいるとみられる。しかし、実際にヒアリングをしていると退職後に大規模な農業を始めたという人は少数派であり、多くは小さな農園を運営する形での活動になっているようだ。

70代前半の中村さんはドラッグストアでパートの仕事をしながら、畑の管理も行っている。収穫した作物は自家消費に加えて近隣の方々へ譲ったり買ってもらったりしている。こうした形の活動も、社会へ貢献する有力な手段になっていることがうかがえる。

「私は畑もやってますので、ちょっと畑で水やりとかあれば、午前8時から9時半までの間を使って出かけて畑を見ることもあります。これは借りている畑なんですが、結構年配の方で退職してからそういう畑をやられる方って、この周辺では多いですね。
 今の時期だとほうれん草とか、大根とか、ジャガイモとか、ニンジンとか。夏野菜とか、秋冬野菜とかなんでもやります。実際収穫がないのは1月から4月ぐらい。植え付けないと実りませんので、1月、2月が畑仕事がないぐらいで、あとは何だかんだ仕事があります。収穫したら家庭で使いますが余ってしまいますので、周りの地域の方にあげたり、買ってもらったりしてます。
 畑仕事は人と関わるいい機会になりますので。最近では幼稚園の園児さんたちに来ていただいて、大根取ってもらったり、タマネギ取ってもらったりしました。そういう意味で、いろんな人と、野菜を通じてつながって地域に根付くっていうんですか、面白いです。子どもたちが大きな大根を収穫して、わーわー騒いでくれて。幼稚園に行くと、野菜のおじさんだって言われますよ」

定年後に地方に移住したという人もいた。高橋さんは同じく70代前半の男性。東京の大手建設会社に勤めていたが、定年を機に京都府郊外の古民家を購入しIターンで移り住んだ。シルバー人材センターで請け負っている公園管理の仕事に加え、趣味をかねて季節の野菜の栽培やまき割りを行って生計を立てている。

「だいたい年間40種類ぐらい。季節の野菜はほとんど作ってます。今はYouTubeでも何でもあるから。僕だって野菜作りなんかほとんど素人だったけど、ネットで調べてやってますからね、分からん時は。だから失敗も多いです。でもそれはそれでいいんです。いいものができると『やった』というのがあるんで。そういう楽しみがありますよ。
 それとこの時期になるともう野菜の仕事はないので、まき割りをしてますね。うちのまきストーブは24時間まきをずっと入れっぱなしなんですよ。外が零度とか2度とかっていうような状況なので。近所の山を切るんです。太いのは直径40cmぐらいなものから、みんな切り倒して。枝も使えるとこはみんな枝も下ろして。で、運んで帰ってきてそれから割って。乾燥させなきゃいけないんで、今年切ったやつは来年、再来年の冬からたけるんです。
 今だいたいまきが1束のやつ を僕は600束作ってるんだけど、これ1個買うとホームセンターや何かで700円ぐらいしとるでしょう。だから、600作れば7×6=42で42万の節約になっています」

町内会や老人クラブなど様々な活動が存在

農作業のほかに多くの人が従事している活動としてあげられるのは、地域における活動。多くの地域では町内会をはじめ、様々な活動が行われている。ヒアリングした人の中には東京都内で町内会の相談役をしているという人もいた。

「30代後半くらいから町内会に入っています。定年後にブロックの理事になって、そのあとに任期2年の常任理事。そうこうしているうちに、いろいろやって副会長までやったんだけど、家内が肺がんになった時にやめました。やめた時に相談役ということで、肩書きっちゃおかしいけど一応もらって。
 実務としては町内のイベントがあるでしょう。もともとはそういうののお手伝いをしてたっていう感じですね。特に現役の頃は一生懸命やってました。今もそうですが盆踊りであるとか運動会であるとか、そういうのに駆り出されていますね」

70代後半の渡辺さんも国家試験の運営サポートの仕事をパート勤務で行いながら、町内の活動に精を出している。 町内会の活動のメインとなるのは小学生の交通誘導。そのほか消防訓練などで地域への貢献をしている。

「町内会では平役員やってます。基本的には交代制で、朝と夕方に近くの交差点で小学生たちの登下校の見守りなどをしています。たとえば朝の7時から8時までの1時間。交差点の通学の補助、管理、指導、そういったものを役目として月2回ぐらいなんですけど、シフトを組まれて交代でお手伝いしたり。それから、消防訓練。これは3か月に1回ぐらいしかないんですが、その時に三役さんが中心となってやりますけども、そういった時のサポート役。あとは年に1回ある夏祭りの時の補助業務。こういった町内活動に参加させてもらってます」

町内以外にも地域での活動の方法はいくつかある。地域の老人クラブに所属しているという男性もクラブの活動を通した地域貢献に従事している。

「老人クラブに入ったのは2000年ぐらいですかね、62~63歳だったと思います。会社を辞めてしまって、このままではご近所との付き合い、人との付き合いがなくなってしまうから、何か一つやらないといかんなというような感じで入ったんです。
 実際の活動はというと海岸の掃除が多いですね。近所に有名な海岸があるんですけど、そこの掃除をしたりします。あとは共同墓地の掃除をしたり、地域の花壇の手入れをしたり。大変なこともあるけど、知らんかった人とも話をするようになりますし、顔見知りにもなりますし、そういうのはいいですね」

以上のように、高齢の方の中には現役時代とは異なる様々な活動を行っている人がいる。次回は活動の中身をもう少し紹介していきながら、その実態をさらに明らかにしていきたい。

執筆:坂本貴志(研究員/アナリスト)