進む機械化・自動化 変わる働き方機械化・自動化による生産性向上の先に、余暇が充実する未来を描く

本研究では、機械化や自動化、デジタル化などが人々の働き方にどのような影響をもたらすのか、またどうすればそれが進捗するのかを明らかにしてきた。本研究の締めくくりとして、機械化・自動化した経済の先にあるものは何かについてまとめてみよう。

最大の恩恵は省人化と労働時間の短縮

機械化・自動化による最大の恩恵は何よりも省人化である。省人化によって人々を過度な労働から解放できれば、人々の生活は今よりもっと豊かになる。日本の労働者の平均労働時間は過去から現在において長期的に減少傾向にある。例えば、40代前半の男性就業者の週平均労働時間は2000年に50.1時間だったが、2022年には44.4時間にまで減っている。ここ数年で見ても働き方改革の浸透によって労働時間は減少傾向にある。

なぜ長期的に日本人の労働時間が減少しているのか。それは、日本経済が緩やかではあるものの、着実にその生産性を高めているからである。もちろん、生産性の向上という果実は労働時間の縮減だけに向かうわけではない。人によっては、向上した生産性の分をそのまま消費を増やすことに用いるかもしれない。

生産性向上なくして人口減少下の経済は持続不可能

さらにいえば、これからの日本において、生産性向上の使い道は山ほどある。社会全体として高齢化が進んでいけば、高齢者の消費を賄うためにその成果は用いられなければならない。また、人口減少によって日本経済の規模の経済性が失われ、インフラの生産・維持効率が低下すれば、こうした影響を補うためにも大規模な効率化は達成されなければならない。そして、ロボットやAIによる生産性向上の成果がこうした要素に費やされ、それでもなお十分に残るようであれば、その先の労働者のさらなる余暇の充実は実現していくだろう。

逆にいえば、これからの日本社会では、それだけ大きなイノベーションが必要とされているのである。急速な人口減少が進む現代日本において、雇用が代替されることを懸念して機械化を躊躇するよりも、人と機械との効果的な協働を模索していくことが重要だ。人々が豊かな消費生活を送っている未来も、過度な労働から解放された未来も、徹底的なデジタル化とそれによる省人化なくして実現することは不可能なのである。

複雑なタスクが絡み合う現実の仕事の自動化は、未来への大きな挑戦

様々な事例を通して見えてくるのは、多くの仕事にとってそのタスクを完全に機械に任せることは決して簡単ではないということだ。どんなに優秀なロボットであったとしても、現状では人手ほどには優秀ではないことがほとんどである。実際の労働者のタスクに細かく入っていけばいくほど、完全な機械化の難しさを理解することができる。

こうしたなか、徹底した機械化・自動化を実現するために最も重要なことは、人手不足による労働市場の逼迫を活かすことである。市場メカニズムを健全に発露させることで、また企業に創意工夫を促すことで、地道に粘り強く生産性上昇の流れを作っていくしかないだろう。その先には仕事と余暇のバランスのとれた生活を楽しむ現代日本人の豊かな生活が見えてくるはずだ。

坂本貴志(研究員・アナリスト)

機械化・自動化研究では、様々な企業事例を紹介しながら、企業がどのようなプロセスで業務の機械化・自動化に挑戦をしているのか、結果として従業員の働き方や企業経営がどのように変わっているのかなどの詳細を明らかにしています。

※具体的な事例に関しては、以下の記事にまとめておりますのでご参照ください。
■ 機械化・自動化で変わる働き方 ―運輸・建設編
■ 機械化・自動化で変わる働き方 ―接客調理・販売編
■ 機械化・自動化で変わる働き方 ―医療・介護編
■ 機械化・自動化で変わる働き方 ―事務・営業編

※機械化・自動化研究の最終報告書は以下のページにて公開をしております。
進む機械化・自動化 変わる働き方