機械化・自動化はどのように進展していくか

2023年09月14日

労働供給制約に直面する将来において、各業界で機械化・自動化を進めていくことは不可欠となる。各業界がデジタル技術を活用し、労働生産性を向上させていくためにどのような取り組みが必要だろうか。「自動化の世紀」を迎えようとしている日本経済において、これからどのように進んでいくのか、また進んでいくべきかを考えてみよう。

労働市場からの圧力を活かす

市場原理を前提とすれば、人が決定的に足りなくなる将来においては、労働市場からの強いプレッシャーを受ける形で、企業は熾烈な競争に自然に巻き込まれるようになる。それと同時に、企業が変わらなければならないという市場からの要請を適切に発露させる環境も大切になるだろう。

円滑な労働移動を促す取り組みは重要である。労働移動というとリストラを伴うものと想定されがちであるが、労働供給制約社会においてはむしろ労働条件のよい職場を積極的に選ぶという側面の強い労働者優位の移動が活発化するだろう。
そのためには企業側からの適切な情報公開は欠かせない。ある企業の職場において残業がどの程度発生しているのか、給与は勤続年数に応じて増えることが見込めるのか、離職率はどれくらいかなど、企業からの基本的な情報開示を促し、質の高い労働移動を増やす政策が今後ますます必要になる。

人手不足が深刻化する将来の労働市場においては、希少な労働力を巡る企業間の競争は激しさを増すだろう。適切な労働移動が行われていくなかで、より高い賃金を提示する企業、よりよい労働条件を提示する企業に労働者は集まっていく。市場メカニズムが適切に発露すれば、労働者の賃金上昇率は加速し、労働時間の縮減なども今後さらに進んでいくはずだ。そうなれば、経営の意識も変わらざるを得ない。これまでは「事業に穴はあけられない」として企業が、従業員に無理な働き方を強いることは決してめずらしいことではなかった。しかし、こうした経営者は労働供給制約時代の経済社会を生き抜くことはできなくなる。これからは、従業員を大切に思いながら優れた経営を行う企業が生き残っていくことになるはずなのである。

企業間の熾烈な競争が生活者の暮らしを豊かにする

サービスに関する業務が機械化・自動化されれば、働き方は大きく変わる。逆にいえば、少数の労働者が高いパフォーマンスを生み出す経済に変わるためには、ビジネスの現場が変わらなければならない。それは同時に、これまでと同じ仕事のやり方にとどまるような企業には、市場からの退出圧力が高まっていくということも意味している。

労働者の心身に負荷の大きい働き方や業務を放置したり、生産性を高めて賃金水準を上げていくような努力に二の足を踏む企業は、労働供給制約を迎える将来の日本の労働市場において、自社に必要な人材を集めることが難しくなるだろう。一方で、業務プロセスを大きく見直すことで、生産性高く仕事ができる環境を生み出し、それを従業員の報酬として還元しようとする企業には、より良い人材が集まることが期待される。政策面では、後者の企業に人が集まりやすくするための情報開示や生産性向上への支援を充実することが必要だ。

その結果として、熾烈な企業間競争のもとで、従業員によりよい労働環境を提供し、消費者によりよいサービスを提供することができる企業に事業は集約していくことになるだろう。実際に、多くの産業の動きを見ていると、デジタル化の進展とともに、各産業で中核的な役割を担うサービスを提供するプラットフォーマーが生まれつつある。こうした企業が提供する効率的なサービスを社会全体として享受するとともに、プラットフォーマーに対する向き合い方を考えることは、今後避けては通れない課題となっていく。

行政や業界団体からの支援も欠かせない

業務を自動化するためには、行政や業界団体の関与は欠かせない。運輸業界においては、ドライバーの深刻な人手不足解消のために、近い将来に高速道路での幹線輸送の自動化までこぎつけておく必要がある。そのためには高速道路における自動運転車用の専用レーンの設置やセンサー・カメラの配備、高速通信規格のネットワーク拡充が必要になる。国土交通省や経済産業省は近々センサーの設置法や走行ルールを固める方針だという。公共性の高いインフラを整備していくにあたっては、行政がイニシアティブをとって進めていくことも必要である。

行政に加えて、業界団体が主体となった取り組みも広がっていくだろう。小売業界では、レジの無人化のためにこれまでのバーコード方式からRFID(RadioFrequencyIdentification)方式や画像認識方式へ移行する動きがある。こうしたなか、コンビニエンスストア5社と経済産業省は2025年までにすべての取り扱い商品にRFIDタグを貼り付けて商品の個別管理を目指す「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定、日本チェーンドラッグストア協会も同省と「ドラッグストアスマート化宣言」を行っている。

建設業界では、建設RXコンソーシアムが業界横断で自動化施工の実現に向けてロボット・IoTアプリ等に関する研究開発を共同で行っている。機械化・自動化を進展させるにあたっては、業界各社がやみくもに競争するのではなく、協調領域と競争領域とを区別したうえで、協働しながら規格の標準化を行っていくことが必要不可欠である。

様々な現場で話を聞いていると、デジタルを使った革新的なサービスが存在しているにもかかわらず、それがなかなか広がっていかない光景を目にすることも多い。特に地方の規模の小さい企業で自動化技術が広まっていく際には、その地域における身近な企業が新しいサービスを実際に活用することで経営を変革している現場を目の当たりにすることがきっかけになることが多々ある。各業界において、初期段階のユースケースを作るために、行政や経済団体が果たすべき役割もあるだろう。

坂本貴志(研究員・アナリスト)

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