機械化・自動化で変わる働き方 ―事務・営業編ビジネスツールを使いこなし、少人数でマルチタスクを担う

【まとめ】自動化・機械化による働き方の進化 事務・営業編(後編)

入力作業の繰り返しなど定型的な事務作業へのRPA導入が業種を問わず加速している。事務や営業はAIやクラウド型ツールを使いこなし、マルチタスクの実行や効率的な営業を模索する。後編では「一般事務」「経理事務」「営業」各タスクの自動化・機械化の可能性と働き方の変化について検討する。

一般事務の自動化・機械化と働き方の進化

一般事務の自動化・機械化と働き方の進化

■あらゆる業種でRPA導入が加速、3000超の施策導入の企業も

一般事務の業務効率化に最も効果をあげているのがRPA(Robotic Process Automation)である。特に煩雑で定型的な事務業務が多い銀行や生損保など金融業界で先行して導入されている。高い導入効果を発揮していることから、現在では業界を問わず多くの企業や団体に導入されつつある。

例えば、三井住友銀行は海外送金に関する書類をOCR(Optical Character ReaderまたはRecognition:光学文字認識機能)で電子化した後、データベースに格納したり、顧客向けの営業資料を金融商品のマニュアルなどから抽出、作成する作業をRPAが自動的に行う。三菱東京UFJ銀行ではコンプライアンス部門において、定期的な、あるいはインシデントが発生した際の内部監査のため、誰が何のためにいつどのように情報にアクセスしたかを正確かつ詳細に記録する「証跡管理」の役割をRPAに移行した。それまでベテラン行員に頼っていたが、RPA化することで属人化を解消した。地方銀行では横浜銀行が早くからRPA化に取り組んでおり、2019年にはインターネットバンキングや融資の申込書など、年間約2万4000件のデータを対象に、紙の帳票をAI-OCRで読み取ってテキストデータ化し、これをRPAを用いて業務システムにデータ入力する仕組みを導入した。

損保業界でも、例えば三井住友海上火災保険は2018年にRPAを本格導入し、経理や営業事務、商品開発部門などで、定型的な業務のロボット化を進めている。損害保険金の支払部門では台風や豪雨、地震といった自然災害が発生すると支払請求が殺到する。従前は顧客が同社へ電話で報告し、オペレーターがその内容をシステムに手入力するという手順を踏んでいた。現在は顧客がホームページから事故報告すると、RPAが保険金を支払う管理システムと連携し、自己査定や保険金支払いのお知らせまでをRPAが代替している。こうしたRPAによる自動登録を一部に導入することにより、災害時に一時的に集中する事故登録業務の負担が大幅に改善された。損害保険ジャパンと東京海上日動火災保険は、自然災害時にこれまで調査員が実施していた損害査定をAIに代替する。契約者が撮影した写真と修理見積書を読み取って損害額を査定するシステムの導入で、平均2週間かかっていた支払業務を最短2日に縮めた。

米国では法律関係の業務を効率化する「リーガルテック」が注目されており、法務事務の効率化も今後は進むだろう。国内でも複数のスタートアップが、締結前の契約書の内容をAIで審査して条項の抜け落ちなどを指摘するAI審査サービスを提供している。

AI活用についてはIT企業などでも高い成果をあげている。ソフトバンクは、2019~2022年に実施した「デジタルワーカー4000プロジェクト」で、電子押印の導入や各種事務作業におけるRPAの活用、新卒採用選考におけるAI動画面接など、業務効率化を実現する合計3000以上の施策を実行した結果、約241億円のコスト削減につながった。

中小企業でもRPAやクラウド型ツールの活用により、1人何役ものタスクをこなす例も生まれている。例えば営業部門がデータ入力すると社外文書の作成から郵送までを代行するサービスや、契約締結から契約書管理まで可能なクラウド型の電子契約サービス、LINEによる出退勤管理、Googleドキュメントによる業務報告書や日報管理などを駆使することで、極小人数でも無駄のない管理を実現している例がある。

営業事務がこれまで行っていた企業情報の検索や情報のファイリングなども、ChatGPTなど対話型AIの発達などにより容易になるだろう。また、電子化によりクラウド上に資料を保管することでキャビネット内の資料の削減が進み、紙の資料の管理業務も大きく減っていくと見られる。今後事務職はこうしたツールを使いこなし、定型業務の自動化を図りながらより多くのタスクをこなすことが求められるようになるだろう。

経理事務の自動化・機械化と働き方の進化

経理事務の自動化・機械化と働き方の進化
■各種の取引を自動化し、タイムリーに集計、保存

経理事務のタスクは各種伝票の起票・整理、仕訳入力、現預金管理、経費処理、月次・年次決算などである。請求書や契約書の作成などは企業規模などによって異なるが経理事務が行うケースも多い。

請求書の作成、送付についてもRPAの導入が進む。例えば会計ソフトとOfficeソフトを利用している場合、RPAが会計ソフトから顧客別の請求一覧をフォーマットに合わせてWordにコピーし、データをチェックしたうえで、メールに添付して送るといった一連の作業の自動化を可能にし、入力ミスの解消や業務効率の改善につなげている。

タイムカードによる勤怠管理やアナログの給与計算は「勤怠管理システム」「給与計算システム」などアプリケーションソフトを連動させることで集計を自動化する。従業員はスマートフォンでいつでもどこでも始業・終業を打刻でき、経理側でも状況確認が可能になる。

経費精算についてはクラウド型のサービス利用により、領収証のOCR読み取り、乗換案内サービスや交通系ICカードとの連携が可能で、入力の負担を軽減する。また、時間・場所を問わず経費の申請・承認が可能で、申請時にどの勘定科目に当てはまるかをAIが判断し、自動で仕訳してくれる。会計ソフトにも連携しており、領収証の電子保存もできる。売上などの日報管理も「kintone」のようなクラウド型サービスのテンプレートを活用すれば、データの登録・共有、集計やグラフ化などを容易に行うことが可能になってくるだろう。

デジタル化を急ぐ伊予銀行では、新規口座開設や住所変更など21の手続きに関する情報を客自身がタブレットに入力する仕組み「AGENT」を全営業店に導入した。普通預金の口座開設の場合、従来は通帳とキャッシュカードを渡すまで平均45分かかっていたが約15分に短縮された。事務的な負荷を軽減することにより、お客さまの相談事に応えて役立つ商品などの提案を行う、本来なすべき業務に集中できるようになっている。

医療業界においても経理事務の効率化の可能性は大きい。コロナ禍で医療提供体制の逼迫が懸念された2020年、信州大学医学部附属病院ではRPAを導入し、電子カルテ等からの情報収集とHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)への入力および入力結果の報告という一連の作業を自動化している。これにより臨床検査技師は完全にこの作業から手が離れ、正確性が向上した。

財務会計については、財務データの処理や財務諸表の作成を自動化することで、人為的なミスのリスクを低減し、膨大なデータを迅速かつ正確に処理することができるようになる。以前から存在するERP(Enterprise Resource Planning:企業のリソースを統合的に管理することにより、業務や経営全般の効率化・最適化を図る手法)には、財務諸表作成に必要なデータを自動的に取り込み、財務諸表を生成する機能が含まれているサービスもある。ビジネスインテリジェンス (BI) ツールを使用することで、財務データを可視化し、解析が容易になる。また、異なるソフトウェアをつなぐAPI(Application Programming Interface)連携の活用で、複数のシステムから財務諸表のデータを自動的に取り込むことができ、省力化が可能になる。さらにここでもRPAの活用で、財務諸表の作成に関するルーチンワークを自動化することができる。例えばPwCあらたやWorkivaは、連結財務諸表作成において、データ入力やチェックなどの作業を自動化したり、接続されたデータで財務諸表を自動的に更新したりするソフトウェアなどを提供しており、導入によって財務部門のスタッフはより高度な業務に集中できるようになる。

営業の自動化・機械化と働き方の進化

営業の自動化・機械化と働き方の進化

■営業資料作成や見込み客育成、教育などにAIを導入

営業は本来、顧客との接触機会をいかに多く持つかが売上向上の要諦であると言われてきたが、コロナ禍を経て、近年その様相は変わってきている。オンライン営業が当たり前になるなかで、まず確度の高い見込み客を確保し、機の熟した段階でニーズにしっかりと応える提案を行う。またMA(Marketing Automation:マーケティング活動を自動化するツールおよびプラットフォーム)やSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)などのツールを有効に使いながら契約への最短距離を狙うことが重要になる。

例えば大塚商会では5000万件に及ぶ商談データをAIに学習させ、受注確度の高い見込客を特定し、営業担当に推奨する。日報に記載された上司から部下へのアドバイスも学習させ、AIが営業にアドバイスする機能も搭載している。結果として全社の商談件数は2.3倍に拡大し、受注成功率も大きく上昇している。横浜銀行では銀行のビッグデータや信用調査会社から入手したデータなどをAIが分析し、顧客ごとに最適なソリューションや商品がわかる「経営課題推計モデル」を構築、既存客はもちろん、新規開拓にも有効だという。

戸建て住宅販売のオープンハウスグループは対人の営業活動に集中できるように付帯業務の自動化を着々と進める。例えば、顧客との商談時の提案用に持参する物件チラシは、以前は営業が各自で作成していた。これを新たにAI・RPAを活用した業界初の「オンラインチラシ全自動作成システム」を導入することで「立地」「価格」「間取り」「学区」などのおすすめポイントを変えた最大14パターンのチラシを短時間で作成できるようになった。

営業業務の記録や人材育成についてもツールの活用で効率化が可能となる。例えば中外製薬ではMRがパソコンで入力していた業務記録をスマートフォンから音声で入力するとAIが音声を認識し自動で内容を分類、登録する。また、アフラックの「募集人育成AI」は、募集人育成の一環で行われるロールプレイングの顧客役をAIが代替し、募集人が自学自習できる環境を創出する。新人の保険営業が身につけるべき基本的な対応、新商品紹介で確実に伝えてほしいキーワードなどを音声認識で自動的にチェックし、商談時に不足していたキーワードがテキストで明示されるため、本人も改善点が理解しやすい。同社ではWeb上に代理店の店舗を開設し、健康や保険、生活に関する情報提供、セミナーの告知、募集人との面談予約、オンライン面談などを可能とする「デジタルほけんショップ」を開設、将来的にはショップ内でチャットや音声でコミュニケーションができ、保険の契約完了まで行うことを想定する。

自動化・機械化実現への課題と働き方の未来

■課題は自動化のための環境整備とデジタル人材の育成

RPAは仮想知的労働者(Digital Labor)とも呼ばれ、前編で触れたように半数近い企業が導入するまでになっており、近い将来、事務的業務の相当部分がRPAに置き換わるインパクトがあるとも言われている。導入に際して巨額なシステム投資は不要で、プログラミング知識なども要らないため、今後も加速度的に普及が進むだろう。

一方、RPAは万能ツールではなく、導入に失敗する企業も少なくない。例えば現場がRPA導入の意義を理解しないまま、なし崩し的に導入し、プログラム開発者が現場で使いにくいロボットを提供したりしてしまうケースである。本来RPAに適さない、プロセスが複雑な業務に導入した結果、トラブルが起こり業務停止となった例もある。また、RPAの導入以前に業務効率性などに対する危機感が薄く、RPA導入のために重要な定型業務などの業務プロセスの整理、改善が行えていないことなども考えられる。銀行ではインターネットバンキングへのシフト、店舗の縮小、一般職の廃止などが進むが、自動化による事務作業の代替が進むことで「仕事が奪われる」という不安を感じる従業員もいるかもしれない。実際の現場では、事務職の仕事の変化について理解を促し、DX人材への転換や他部門などへの異動を無理なく進める必要があるだろう。

事務職の仕事のすべてが機械に置き換わるわけではない。事務員が日々異なる雑多な仕事を請け負うことは多く、こうした非定型の業務は将来的にも残る。また、定型業務であっても発生頻度が相対的に低い業務を自動化することは難しい。今後、RPA化そのものについて、どの業務にどんな目的で導入するかを考え、計画・実行することはますます重要になってくるだろう。このために、こうした新しい業務プロセスを構築できる人材、いわゆるDX人材の養成を各社は急いでいる。社内外の人とのコミュニケーションも人の仕事として残る。また、営業部門や外部の会計事務所、システム会社などとの連携を機械に任せるのは困難である。例外的な処理が発生した場合の対応などは、あらかじめプログラムに組み込まれていない場合も想定されるので、臨機応変に対応できる人材が欠かせないだろう。自治体等公的機関の自動化についても同様に、デジタル人材の確保・育成のほか、マイナンバーカードの普及促進、セキュリティ対策、デジタルデバイドの解消などの環境整備が不可欠である。

営業についてはMAやSFAなどのツール導入やAIによる資料作成、ロールプレイングのプログラム導入などが進むが、昔ながらの営業手法にこだわる企業の場合は、これまでの仕事の仕方に対する慣性が働き、自動化が進まないケースがあるかもしれない。また、DX化してもすぐに成果が表れるとは限らない。現状の売上を維持しながら営業DX化を進めるためには、「生みの苦しみ」が発生するだろう。営業に関する業務についても人とのコミュニケーションは最後まで残る。営業現場の実際の姿を見ると、大きな契約を交わす際に最終的に決め手になるのは、結局は営業を担う人材の人柄だとかその信頼感となる。こうした人の感情が支配する部分は機械による代替はできないだろう。

全体を総括すると、一般事務では文書の作成や入力、送付といったさまざまなタスクでRPAの導入が進み、近い将来業務は半減するかもしれない。一般事務は単純な入力作業から解放される一方、さまざまなビジネスツールを使いこなすことでマルチタスクを少人数でこなすようになるだろう。経理事務も同様にRPAやクラウド型サービスを活用することで省力化やミス低減を実現、本来の経営判断に有益な資料作成などにシフトしていくようになるだろう。営業は限られた時間でより高い成果をアウトプットできるよう、見込み客の選定や営業資料作成を自動化し、オンライン・オフラインのチャネルを有効に活用しながら顧客の決断を促す存在となることが求められるようになる。

これまで日本ではホワイトカラーの業務の自動化はなかなか進んでこなかったが、RPAやChatGPTなど革新的なツールの登場で、今後一気に加速していくだろう。

執筆:高山淳、編集:坂本貴志