機械化・自動化で変わる働き方 ―事務・営業編RPA活用などによって雑多な事務作業を減らす

【まとめ】自動化・機械化による働き方の進化 事務・営業編(前編)

AIやクラウド型サービスの出現により、事務や営業などホワイトカラーの働き方も急速に変化しつつある。政府もデジタル庁の設立やマイナンバーカードの普及により、自治体サービスのDX推進を加速する。DXや自動化によって事務職や営業職の働き方はどう変わるのか。前編では一般事務、経理事務、営業職のタスクやロボットに代替可能な領域、働き方の変化について見ていきたい。

 自動化・機械化による働き方の進化(事務・営業編)

現在の事務・営業職の働き方と自動化・機械化へのロードマップ

■事務・営業職の主なタスク

総務省「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」によれば、事務従事者の就業者数は約1400万人と全職種の中で最も多いが、有効求人倍率は0.5前後と求人より求職者が多い職種となっている。事務職のカテゴリーは、扱う領域や所属組織によって多種多様である。一般事務といっても、庶務など総務の仕事を行う者や人事を扱う者、経営企画を担っている人もいれば受付の担当の人もいる。また、一般事務のほかにも会計事務や営業事務、生産関連事務に携わる人もいる。医療事務、学校事務、貿易関連事務など所属する業態によっても様々に仕事が分かれている。このように、事務職は行っている仕事が多種多様であることから一概に区分することは難しいが、本稿では便宜上、庶務や総務の仕事などを中心とする一般事務業務と、お金まわりを中心に扱う経理事務に分けて検討したい。

一般事務で一定の割合を占めるタスクとしては、見積書、請求書、納品書、契約書など取引関係書類の作成業務やその処理などがある。多くはワードやエクセルのフォーマットでテンプレートを作成し、数量、単価、納期、明細などを入力し、確認後に発行、郵送するが、電子化によりクラウド上で作業するケースも増えている。こうした取引書類等のファイリングや電子上の整理といったような作業もあるだろう。オフィス内のペーパーレス化が進んでいるが、企業別、期間別、処理別にファイリングしキャビネットに収納するなど法律などで保存が義務付けられている書類もあるなかで、こうした紙の作業もまだまだなくなってはいない。

パソコンが普及した現在においては、データ関連作業や社内資料作成の業務なども一般事務の作業量の多くを占める。入力内容は所属する業界や部署などにより千差万別であるが、顧客情報やサービスの表示内容(物件情報や求人情報など)の管理のほか、営業日報などの作成や、企画書や所内会議のための資料作成などもあるだろう。医療事務であればレセプトの入力作業、人事・労務事務なら採用や退職、異動に伴う手続きなども主な業務としてあげられる。受付を置く企業は減っているが、中小企業では入り口近くの事務が対応するケースは少なくない。また、営業電話やメール、社内会議や顧客訪問対応などに時間を割くことも多い。事務の中でも法務事務や貿易事務、医療事務などは専門性が高く、知的財産権や通関の知識、保険関係の知識などが求められる。

経理事務は、会社の資金の流れを管理する仕事であり「財務会計」と「管理会計」に分かれる。財務会計は、企業の財務状況や業績報告に焦点を当てており、主に企業の株主、債権者、投資家、税務当局、金融機関に対して企業の財務状態や業績を報告するための財務諸表の資料作成などを行う。1年間の帳簿を確定させる決算業務は年度末に実施するが、上場会社は四半期決算や中間決算が義務付けられている。管理会計は主に経営陣やマネジメント層などが意思決定するための会計分野で、収益分析、予算策定、財務分析、投資分析などを行うための資料を作成する。経理担当者の基本タスクとしては、月次や年次の決算スケジュールを遵守しながらミスのない入力や集計を行うことのほか、セキュリティ対策や不正防止策の徹底などの仕事もあるだろう。

一方、営業職のタスクは、自社商品・サービスの見込み客の開拓(そのためのリスト作成、アポイント取得、資料作成、営業トークの検討)、顧客との関係性構築、商品やサービスのプレゼンテーション、見積書や提案書の作成、商談や交渉、契約書の取り交わし、納品手配、納品・請求書発行、顧客フォローアップなどである。付随して管理職には事業の中長期目標に沿った組織単位の目標設定や営業戦略の策定、営業の教育などのタスクがある。顧客にとって営業は会社の窓口であり、顧客の要望を次の商品、サービスに活かすことも営業の役割である。


■ホワイトカラーに残る紙文化、低い生産性が課題

日本の労働生産性は、OECD加盟38カ国中27位で(日本生産性本部「労働生産性の国際比較2022」)、なかでもホワイトカラーの生産性の低さが指摘されている。日本のオフィスでは、いまだに紙の書類を使った手作業の業務プロセスが残っており、過剰な文書管理や承認プロセスの複雑さ、独自のハンコ文化などが課題である。実際、役所への各種手続きや申請業務などでは紙の申請書や添付書類の多さに閉口する人は多いだろう。銀行でもいまだに定期預金の解約などは紙の書類や印鑑が必要な場合が多い。不動産契約や車検の登録なども手間のかかる手続きが残っている。

介護やドライバー、接客、調理などの職種と異なり、事務や営業は労働力の供給不足が逼迫しているわけではない。しかし、その一方で、事務作業は定型的な作業が多く、将来的には自動化が進みやすい領域である。それと同時に、企業競争力や提供する付加価値の向上に向けてはホワイトカラーの生産性向上も不可欠である。事務職はこれまでのような入力、コピー&ペースト作業、文書ファイリングなどの単純作業から、それらをAIや機械に代替し、データ活用の方法などを考えるタスクへシフトしていく必要があるだろう。

銀行の事務職については一般職の採用削減や店舗の削減など、人員の調整が進む。インターネットバンキングやATMの取引の拡大などにより、銀行店舗の存在意義が薄れるなか、2020年5月には三菱UFJフィナンシャル・グループが2023年度までに三菱UFJ銀行の店舗数を2017年度末比で約200店舗減らす方針を示した。窓口数や取扱事務を減らした軽量店舗の比率を上げて、来店客自身が操作する専用端末やテレビ電話などを通じた手続きを主体とする。操作方法などを案内する係は置くものの、店舗に必要な行員数は減るだろう。三井住友銀行も2023年春までに4分の3にあたる300店舗を軽量店に置き換えると公表した。生命保険業界ではコロナ禍をきっかけに保険の支払い業務が一時的に集中したが、RPA(Robotic Process Automation)を導入した保険会社では大いにその導入効果を発揮している。損害保険業界では雪害や台風などの大規模災害の被災地での支払い業務の迅速化が課題だったが、スマートフォンで損傷箇所と修理見積書の画像を送るとAIが損害額を査定することができるようになり、迅速な保険金支払いを可能にしている。

行政手続きのデジタル化・オンライン化については2002年に「行政手続オンライン化法(現・デジタル行政推進法)」等を策定し基盤整備を進め、2016年には「マイナンバー制度」を導入、これからも普及が進んでいくだろう。そのためには、セキュリティ面の不安解消など、より一層国民の理解を促す必要もある。行政手続きのデジタル化推進を妨げている要因の1つが、申請時に提出を求められる住民票や戸籍謄本など「添付書類」の多さである。これについては国や地方行政機関が保有するデータを自動的に連携するなどの改善が待たれる。

営業については、営業効率アップのためにMA(Marketing Automation:マーケティング活動を自動化するツールおよびプラットフォーム)やSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)などデジタルツールの導入が進むが、「足で稼げ」「営業は行動量」といった過去の成功体験からくる営業手法へのこだわり、売上維持とDX推進の同時並行の負荷などから、営業DXが停滞するケースも出ている。

■定型的なパソコン操作をRPAが代替、更なる効率化へ

RPAはあらゆる事務作業の自動化を加速していく。RPAはこれまで人間が行ってきた定型的なパソコン操作を、ソフトウェアのロボットにより自動化するもので、表計算ソフトやメールソフト、ERP(基幹業務システム)など複数のアプリケーションを扱う業務を自動化できる。具体的には、キーボードやマウスによるパソコン画面操作の自動化、異なるシステムのアプリケーション間のデータの受け渡し、条件分岐設定やAIなどによる適切なエラー処理と自動応答、蓄積されたデータの整理や分析などへの適用が可能である。

これによって事務職は、これまで行ってきた、①受け取った書類から必要項目をコピーし、②社内のエクセルやクラウド上のシステムに必要項目をペースト、③さらに入力済みデータを所定の場所へ格納する、といったような作業を自動化し、ワンクリックで作業を完結できるようになる。Webサイトからの問い合わせや発注メールの内容確認や返信、顧客管理システムへの入力作業にも人手を介さずに24時間対応できる。OCR(Optical Character Reader:光学的文字認識機能)と組み合わせることで、紙の文書を社内システムに入力する作業の自動化も進むだろう。RPAは年商50億円以上の企業では、社数ベース導入率は45%となり、半数近い企業が導入するまでになった(MM総研「RPA国内利用動向調査2022」)。AI-OCRはOCRにAI技術を加えたもので、手書き文字の読み取り、レイアウト解析、文字の切り出し、文字認識、フォーマット入力を自動で行う。経理事務では見積書、納品書、請求書などを扱うが、紙の文書や手書き文字の文書もあるため、導入後はこうした一枚一枚を処理する作業から解放されるだろう。

自治体でのAIやRPAの利用については、2021年12月時点でAIの導入割合が都道府県、指令都市で100%、その他の市区町村で35%、RPAの導入割合については都道府県91%、指定都市95%、その他市区町村が29%となっている(総務省「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」)。導入しているといってもその進捗の度合いはまちまちではあるが、例えば死亡届の提出に伴う保険証、水道、税金、年金などの各種手続きについて、情報をシステムから抽出して申請書に必要部分を入力して渡す作業をRPA化するなどといった試みが始まっている。このような取り組みが進めば、地方自治体における事務作業は相当の効率化が期待できるだろう。

営業については今後、労働人口減少とともに採用の難度が高まると予測される。このため、限られた時間でいかに成果をあげるかが問われるようになるだろう。また、アフターコロナにおいても、いったんオンライン営業に慣れた顧客については、営業チャネルの1つとしてデジタルツールを戦略的に組み入れていく必要がある。営業の早期育成が課題となり、教育の機会も限られるなか、AIによるロールプレイングやトークの分析、アドバイスなどが普及していくかもしれない。営業はデジタルツールで顧客の購入意向が高まった段階で「最後の一押し」を決めるという重要なタスクを担うようになるだろう。
後編では、「一般事務」「経理事務」「営業」の各領域での自動化や働き方の進化について解説する。

キーとなる思想とテクノロジー
・RPA           ・AI-OCR
・電子署名         ・チャットボット
・自治体DX推進計画     ・マイナンバーカード
・デジタル田園都市国家構想 ・AI契約書審査
・AI損害査定        ・SFA
・CRM           ・バーチャルMR  
・AIセールスアシスタント    
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執筆:高山淳、編集:坂本貴志