機械化・自動化で変わる働き方 ―医療・介護編ロボット薬局が調剤ミスゼロと利便性を実現。薬剤師は対人業務に集中(メディカルユアーズ)

【Vol.7】メディカルユアーズ 代表取締役社長 渡部 正之(わたなべ まさゆき)氏

医療の高度化・専門化を受け、薬学教育が6年制になって17年。だが一般的に薬剤師はまだ「薬を渡すだけの人」という印象があり、調剤薬局やドラッグストアでは業務と職能が乖離している感もある。2023年1月から導入された電子処方箋の影響によって調剤薬局が変革の時を迎えるなか、薬局および薬剤師が生き残るために何が必要なのか。薬局における対物業務の自動化を推進し、“ロボット薬局”を実現したメディカルユアーズの代表取締役社長・渡部正之氏に今後の薬局と薬剤師のあり方を聞いた。

待ち時間ゼロ、画期的な「計数調剤」を実現

薬剤師の業務といえば、一般には、薬に関する専門知識を基とした患者への服薬指導などが想起される。しかし、実際の薬剤師の業務を見ると、そのような仕事は実は業務の一部である。調剤薬局における薬剤師の業務の概ね半分は、処方箋の内容に基づいて該当する薬剤をピッキング、必要な錠数を箱から取り出し、ブリスター包装されている薬剤をハサミで切ったり輪ゴムで縛ったりといった単純作業となってしまっている。日本の薬剤師の業務は調剤における労働集約的な業務が数多く残っていることから、諸外国に比べても人口あたりの薬剤師の数が多く、労働生産性は低い水準にとどまっている。

こうした課題を解決するためにメディカルユアーズが2019年にオープンしたのが「大阪梅田メディカルセンター梅田薬局」。同薬局は、内科や整形外科、皮膚科など7つのクリニックがビルのワンフロアに集結する医療モール内にあり、処方箋の大半はこれらのクリニックから応需している。各クリニックで患者が受診すると、医師が記載した電子カルテと処方情報のデータがシステムを介して薬局側に共有され、医師が入力を終えた瞬間から薬局で調剤がスタートする。処方情報を読み取って医薬品をピッキングするのは調剤ロボット。薬剤師はロボットが取り出し口に運んだ医薬品を受け取って計数調剤を行い、監査の後、来局した患者に投薬する。患者から処方箋を受け取り、薬の受け渡しを始めるまでを「患者の待ち時間」とすると、このフローでは質問票を書く必要のない再診患者の待ち時間は2分58秒。厚生労働省の調査によると、処方箋1枚あたりの平均処理時間は約12分だから驚くべきスピードである。

「実感としては患者さんが集中する時間帯を除き、待合室に座る方はほぼゼロ。薬局に着くと既に薬剤師が薬を用意して待っているので、みなさん『信じられない』と驚かれます」と渡部氏。さらに同薬局では自動薬剤受取機による無人投薬サービスも行っている。

日本初の「ロボット薬局」大阪梅田メディカルセンター梅田薬局の受付日本初の「ロボット薬局」大阪梅田メディカルセンター梅田薬局の受付

開局当時、同薬局の革新性は大きく3点あった。1点目は「計数調剤」を部分的ながら自動化したこと。計数調剤とは、錠剤やカプセルが収まる銀色のシート(PTPシート)から処方箋に記された数を数えて必要な分だけ患者に渡す方法で、日本ではこれが主流だ。調剤ミスの防止および薬剤師の負担軽減の観点から日本でも一部で調剤ロボットの導入が進んでいるが、現在普及しているのは液剤や散剤、軟膏の攪拌、また異なる種類の薬を1回の服薬量ごとにまとめる一包化の機械などであり、計数調剤を行うロボットは見受けられない。なぜなら、世界のほとんどの薬局が医薬品を箱ごとそのまま患者に渡す「箱出し調剤」を採用しているからである。このため、日本市場のためだけに、世界のロボットメーカーがわざわざ箱を開封し、PTPシートを抜き取るロボットを開発する旨みはなく、国内開発品も課題が多く、実用に耐えるロボットはまだ存在していない。

「海外では箱出し調剤が主流ですので、棚から箱を取り出すようなロボットの開発はどんどん進んでいます。でも、日本では計数調剤なので海外のロボットが使えないんですね。日本では調剤業務の大半が計数調剤である以上、枝葉末節をいくら自動化しても意味がありません。可能な限り計数調剤を前提に自動化をすることが最重要課題でした」と渡部氏は振り返る。試行錯誤の末、薬剤の箱出しまではロボットが、その後の計数は薬剤師が、という2工程に切り分けることにした。

最新型の自動入庫払出装置最新型の自動入庫払出装置

箱出しだけなら既存のロボットでも可能だが、100%自動化するには一度開封した箱をロボットが再び入庫棚に戻し、さらに手前にセットしなければならない。日本の医薬業界では品質を保つため、古い薬から先に使う「先入れ先出し法」を採用しているからである。

そこで渡部氏は海外で普及している最新式の「自動入庫払出装置(※1)」を比較検討し、先入れ先出しが可能なアーム式のロボットを選定し、日本用にローカライズしたうえで計数調剤ができるようにソフトウェアを書き換えて改良した。ロボットのCPUに自社で独自開発したミドルウェアを搭載し、個包装箱のGS1バーコードを読み取らせることにより、開封済みの箱の再入庫と適正位置への格納はもちろん、1錠単位での管理もできるようになった。

「共同創業者がAmazon出身のエンジニアであり、ソフトウェア周りは彼がやってくれました。ハードウェアを一から作るのは無理でも、ソフトウェアを改良して日本仕様に直せば十分に実用化できます。錠剤ピッキングの自動化として、ここまでできるのは世界初。また従来、薬剤師が行ってきた業務でいうと、在庫管理はもとより、毎月かなりの作業量になっていた『棚卸し』(在庫の総確認)の負担からも解放されました」(渡部氏)。

導入コストに関しては、「初期コストはロボットの費用から輸送の費用、改良にかかる開発費も含めて1台あたり数千万円かかりました。ただ、処方箋枚数が例えば月間で2000枚の薬局であれば、ロボットが薬剤師2人分くらいの働きはします。そのくらいの規模の薬局であれば、導入効果がかなり出てきます。薬剤師の年収を踏まえれば数年で回収できます」(渡部氏)。

(※1)処方箋情報から医薬品を自動的にピックアップし払い出すロボット

情報連携に無人投薬。ICTとロボットを融合したロボット薬局

革新性の2点目はクリニックと薬局の情報連携。これにはEHR(医薬連携型医療情報連携基盤)と呼ばれる技術を使った既存のシステムを導入した。クラウド上に暗号化して保存される電子カルテと処方情報を薬局のレセプトコンピュータで取得する仕組みで、梅田薬局ではレセコンからミドルウェアを経由してロボットが医薬品を取り揃える。欧米ではかなり普及しているEHRだが、日本であまり浸透していないのはメーカーのインターフェースが統一されておらず、互換性がないためである。だが梅田薬局では主要応需先の5クリニックが同じメーカーのシステムを入れているため連携が可能だ。医療モールの開設自体をメディカルユアーズが主導し、渡部氏がMR時代に培った人脈を活かしてクリニックを誘致したことが勝因である。

「同じシステムを使うということは何かと便利で、例えば医療事務などのスタッフに欠員が出た場合などに、モール内の他のクリニックから応援に来てもらいやすい。この点が大きな説得材料になりました」(渡部氏)

医薬連携型医療情報連携基盤の仕組み医薬連携型医療情報連携基盤の仕組み

3点目は自動薬剤受取機(ピックアップターミナル)の導入である。医薬品を受け渡した後の服薬指導は薬機法で認められていないため、薬剤師は患者が持参した処方箋をまず預かり、処方監査をして、問題がなければ服薬指導を行った後、患者に処方箋の番号と紐付いたQRコードを発行する。調剤した薬剤は自動入庫払出装置に入れ、患者は調剤完了の連絡を受けると、都合のよい時間に薬局に行って同装置と連動するピックアップターミナルから薬を受け取る。

梅田薬局の場合、1つの薬の計数調剤で済む若い患者が多く、かつ受付から投薬までのスピードが早いため今のところニーズは低いが、将来的に「一包化」の活用を期待して導入した。複数の薬を併用する高齢者に望まれる一包化は、計数調剤よりもかなり手間がかかり、待ち時間も長くなるからだ。サービスが知られるにつれ、門前クリニック外からも応需する、いわゆる面展開の拡大も考えられよう。

将来的な利用拡大が見込まれる自動薬剤受取機将来的な利用拡大が見込まれる自動薬剤受取機

導入にあたり、渡部氏はこのフローが法に抵触しないか、あえて経済産業省の「グレーゾーン解消制度」を使って照会したため、所管庁(厚生労働省)の「問題なし」という見解が経産省の公開情報により業界に周知された。「これにより営業時間外に店外で薬を受け取れるロッカータイプの普及が進むと見ています」と渡部氏。梅田薬局は日本で初めて「無人投薬」を実現したことになり、またピックアップターミナルが市販薬ではなく処方薬の受け渡しに使われるのは、「おそらく世界初」(渡部氏)とのこと。

計数調剤ロボット、医療情報連携、無人投薬の3機軸はインパクト大で、梅田薬局はおのずとマスコミなどから「ロボット薬局」と呼ばれ、注目を浴びるようになった。

「ネット薬局」に対抗するには、同様の利便性と薬剤師の価値向上が不可欠

渡部氏が薬局業務の自動化にいち早く乗り出したのは、かねてより外資の進出を予測していたことも大きい。はっきりと脅威を感じたのは2018年、Amazonが処方薬の配送を行う米国企業を傘下に収めたというニュースを目にした時である。ほどなくAmazonはアメリカ、カナダ、オーストラリアで処方薬のデリバリーサービスを開始。日本にも必ず上陸すると確信した渡部氏は、そのタイミングを電子処方箋の運用が開始される2023年と読んだ。予言通り、昨年秋にはAmazonが中小薬局と組み、日本で処方薬のネット販売に乗り出すことが報じられた。

この1月からスタートした電子処方箋制度は、クラウド上に構築するサービスを介して、処方や調剤、疑義照会などの情報を薬局と医療機関が連携・共有する仕組み。もちろん患者自身もマイナポータルなどを経由して閲覧可能で、処方箋の引換番号などを薬局に事前送付して待ち時間を短縮することもできる。オンラインによる服薬指導は既に2020年に制度が解禁されているため、「薬局に足を運ばず薬を受け取れる環境」が一気に進んだといえる。薬局業界は法令により厳しく規制されているとはいえ、ネット販売が規制緩和されないという保証はない。いずれは中小薬局と組む必要すらなく膨大な在庫を揃え、書籍のネット販売が町の書店を駆逐したような事態が薬局に起こり得る。

「ネット販売の脅威はワンクリックオーダー・即日発送の利便性と、ロボット調剤による正確性。これに対抗するには同じ機能を備えたうえで、ネット販売を超える価値を提供するしかありません」と渡部氏。ロボット薬局における処方箋の電子化(EHR)は待ち時間の短縮を、無人投薬は利便性を、ピッキングの自動化は調剤ミス防止(正確性)を実現する。なお薬剤を取り違える調剤ミスはロボットに任せてから皆無で、「ヒューマンエラーをなくすには、ヒューマン(人の介在)そのものをカットすること」が渡部氏の持論。

EHRは電子処方箋のシステムで一部代替でき、ピックアップターミナルもメーカーの開発が進むなか、渡部氏は残る調剤の自動化を広めるべく、自社のロボットをさらに改良して外販する予定だ。また完全自動化を実現していくためには、日本でも箱出し調剤を普及させることは不可欠であり、箱出し調剤の標準化を提案している。開封する必要のない、処方単位に合わせた7錠(1週間)や30錠(1カ月)単位での包装変更を呼びかけている。

「ネット販売を超える価値」とは、言うまでもなくフェイスツーフェイスの薬剤師の存在。自動化により調剤や発注、在庫管理など、1日の業務の半分を占めるという「対物業務」から解放されると、薬剤師は患者対応や医師との協働などの「対人業務」に集中できる。特に在宅医療では、患者と定期的に接するキーパーソンとして、在宅服薬指導はもちろん、アセスメントに、かかりつけ病院との連携にと、その職能が期待されている。また2022年から、医師の診察を受けなくても同じ処方箋で複数回薬を受け取れる「リフィル処方箋制度」が始まり、そのぶん薬剤師の高度な介入が求められている。

「調剤業務の自動化が進めば、社会全体で必要な薬剤師数は少なくなっていくでしょう。ただ、それと同時に医師からのタスクシフトも進み、業務が高付加価値化することで、薬剤師の報酬水準も高まっていくはず。例えば、急性期には医師の対応が必要でも、慢性期にもなればある程度の方針は医師が決めつつも、その後の薬の量などに関しては薬剤師が患者の症状も見ながら決めて、場合によっては中止も医師に対して提案する、そういう役割分担もできるのではないでしょうか。米国などではそのような役割分担が行われています。6年制の薬学教育を受け、国家資格を取得した専門職にふさわしい、本来の真価を発揮できるということです」と渡部氏。

薬剤に関する専門知識を基礎として、患者に対してその人の状態に合った適切な情報を提供する。そうした薬の専門家としての本来業務をやりがいとして活躍する薬剤師が増え、地域薬局が不可欠なものになるかどうかの基盤は、対物業務の自動化にかかっている。

聞き手:坂本貴志村田弘美、高山淳/執筆:稲田真木子)