機械化・自動化で変わる働き方 ―運輸・建設編ラストワンマイルの自動化はドローン&配送ロボットで。まずは山間地・過疎地域で先行か(日本郵便)

【Vol.3】日本郵便 オペレーション改革部長 西嶋 優(にしじま ゆたか)氏/オペレーション改革部 担当部長 上田 貴之(うえだ たかし)氏

物流ビジネスの自動化において最も難度が高い領域の1つが、「ラストワンマイル」と言われる最終拠点からエンドユーザーまでの物流サービスである。日本郵便では持続可能な郵便・物流サービスの提供に向け、2017年よりドローン、配送ロボット、自動運転などの新技術を活用した取り組みを行っている。その狙いや課題などについて、オペレーション改革部長・西嶋優氏と担当部長・上田貴之氏に聞いた。

高齢化する未来にどう備えるか

日本郵便のオペレーションは大まかに、郵便物や荷物を(1)引き受け配達する業務、(2)拠点(郵便局・地域区分局〈ハブ〉など)内において仕分けする業務、(3)拠点間を結ぶ運送業務の3つに分類される。

「例えば渋谷から道頓堀に荷物を送る場合、渋谷局で引き受けた荷物は新東京郵便局に集約され、局内で配送エリア別に仕分けされます。東京から大阪へ拠点間輸送後、新大阪郵便局を経由して大阪南郵便局に移送され、最終目的地へと届けられます。その各工程においてデジタル化、自動化を検討していますが、配達工程は手作業で最も人手を必要とします。将来の労働人口の減少に向けて最も緊急度が高く、早くから具体的な取り組みが進められてきたのが配達や引き受けの業務になります」と西嶋氏は語る。

同社の従業員は約37万人おり、その半数以上が郵便・物流関連業務に関わる。西嶋氏によればほぼ毎日日本中の道路を配達員が通り、2軒に1軒モノを届けている計算になる。

「都市部では人件費が高騰する一方、地方の過疎地域などは配達量が減り、コスト見合いで個人委託の形を取るケースが増えています。今後、委託者の高齢化や担い手不足が加速する中、労働力不足をどう補うか、サービスの質・スピードを維持しつつ、コストをいかに抑制するかが大きな課題です。無人化、省人化配送は、その解決の手段となります」(西嶋氏)

日本初、ドローン&配送ロボット連携による配送を実現

日本初、ドローン&配送ロボット連携による配送を実現

ドローンや配送ロボットなど次世代モビリティの具体的な活用については、2017年12月に福島県南相馬市で配送ロボットの実証実験を開始、翌年3月には東京都心で自動運転車の実証実験を行った。同年11月には福島県内の郵便局間でドローンを使用した荷物輸送を開始している。その後も各地で実証実験を進め、2021年3月に千葉県習志野市のマンション内で複数台の配送ロボットによる配送試行を実施、同年12月には東京都西多摩郡奥多摩町で日本初のドローンおよび配送ロボットの連携による配送試行を実施している。

日本初、ドローン&配送ロボット連携による配送を実現2

奥多摩町の実験では、奥多摩郵便局から中継地点の奥多摩フィールドまで人が郵便物や荷物を輸送し、そこから配送ロボットの設置されている峰生活改善センターまでドローンが運搬した。ドローンには飛行前に配送ルートのデータを転送し、ワンクリックで飛行させることができる。配送物の重量は1.7kgまで搭載可能で、事前に指定した経路を高度30~140m、時速40km以内の速度で自動飛行する。奥多摩フィールドから峰生活改善センターへの道路は、山間部で標高差が大きく起伏に富んでおり、ドローンなら車両の約半分の時間で配達が可能となる。ドローンから荷物を受け取った配送ロボットは、集落内の坂道を経由して130m離れた民家の入り口に到着し、「置き配」形式で届ける。

技術的な課題はほぼクリア、実装に向けては制度設計や経済面の課題も

同社では2016年からドローン単独での配送実験に取り組んできたが、一軒でもドローンの離着陸が困難な配送先があった場合、結局は人が運ばざるを得なくなる。これを配送ロボットとの連携で解決しようというのが東京都西多摩郡奥多摩町での実験である。

「配送ロボットの歩道走行については、これまで関係省庁とともに都市部で実験を重ねてきました。中山間地域では歩道と車道が未分離の区間が多く、改めて安全性を確認する必要がありました。通信環境や天候状態の変化に伴う走行上の課題の洗い出しや対策の検証が実験の目的でしたが、基本的に技術的な課題はすべてクリアすることができました」と上田氏は説明する。

実験の結果、社会実装に向けては大きく3つの課題が見えてきた。第1は技術や制度的な問題で、GPS誘導で位置を補正するための通信環境の整備やニーズに応じた重量、サイズのルール化が必要となる。2つ目は郵便物・荷物の受け渡し方法。民家の玄関前への「置き配」とするのか、もしくは特定の集配所等での共同配送とするか、強い雨が降った日はどうするかなど、オペレーション的な課題である。3つ目は生産性(経済性)の観点で、どの機種を、どの場所に、何台置けばサービスとして成立するのかという問題である。

「1軒に1台ずつ配送ロボットを用意するわけにはいかないので、一定規模の集落であれば、集配所までロボットが運び、あとは分業にする。日本郵便だけでなくほかの宅配事業者も巻き込んで、相乗りの事業として稼働率を上げる。あるいは小売店と組んで生活必需品を配送するなど、利用頻度を上げる工夫が必要です。いわゆる『フィジカルインターネット』の発想でモビリティを『共有する』ことで解決を目指したい」と西嶋氏は語る。

マンション内のロボットによる個別配送を実現

配送ロボット

集合住宅における配送ロボットの活用については、2019年度から検証を開始している。2021年2月末からは千葉県習志野市のオートロック付きマンション(17世帯)において、5台の配送ロボットとエレベーター運行管理システムの連携による荷物配送の実証実験を行った。配達員はマンションに到着するとアプリで配達先を指定し、屋内のロボットを呼び出す。

「外からオートロックを解除するのは技術やコスト面のハードルが高いため、マンション側にロボットを用意し、呼び出す仕組みにしました」(西嶋氏)

積載する荷物は3辺合計80cm程度、最大10kg収納可能で、荷物を格納するとロボットが配達を開始する。ロボットは事前にプログラムされたルートをお届け先まで自律走行し、通行人を感知すると、自律的に回避するなど安全に配慮して走行する。局内の管理者は、運行管理システムで複数のロボットのステータスや配達状況を一元的に管理し、緊急時にはシステムから操作介入を行うことができる。ロボットにエレベーターを遠隔操作させることでフロア間移動も可能とした。

社会実装への課題としてはロボットのコスト負担をどうするか、日本郵便単独の運用では利用者のメリットが少ないので配送業者間の連携をどう進めるか、配送ロボットの格納スペースをどう確保するかといったことがある。

「当社の不動産部門ではオフィスビルの企画開発も手掛けていますから、企画段階からそうした運用を想定し、開発・設計の検討を進めています」(西嶋氏)

配送ロボット2配送ロボット

道路交通法、航空法の改正が可決、2023年以降にサービス開始か

2030~2040年にラストワンマイルの配送サービスはどこまで進化しているのか、上田氏は次のように語る。

「配送ロボットも、ドローンも、社会実装以前にルールが整備されていないという課題がありました。車なら道路交通法、ドローンは航空法にどう明記されるかに注目していましたが、ドローンに関しては2021年6月、配送ロボットについても2022年4月に法改正が決議され、後は施行を待つだけという段階です」

この改正道路交通法が施行されれば、歩道あるいは路側帯を時速6km以下で小型のモビリティが走行可能になる。歩道がない車道でも路側帯を走行でき、中山間地域も都市部においても導入が可能となる。同社でも小型モビリティを実際にどのようなサービスに導入するか、本格的な検討を始めている。

配送ロボットは電動車椅子と同程度のサイズまでという規制があるため、荷物の容積が限定されるが、郵便事業では封書やはがきの取り扱いが多いことから、それらの配達での活用について実証実験を進めている。これに伴い働き方はどう変化するのか。

例えば中山間地域のある郵便局を想定した場合、仮に4つのエリアに4人の配達員が担当しているとする。このうちある地域は高低差があるような山道を走るとかなりの時間がかかる。これを郵便局からドローンを飛ばしてお客様に受け取っていただくと、ほかのエリアを効率良く少ない人数で配達できるようになる。ドローンは複数の拠点を統括するセンターなどで管理する。特に中山間地域では個人に配送業務を委託しているケースが多く、しかも高齢者が多いため、省人化が進むと見ている。一方、都市部の場合はまだ人による業務効率の高さとドローンやロボットの社会受容性の醸成の低さにより、まだまだ実装に時間がかかりそうだ。

「配送高度化」の目標と課題
「高層マンションなどでは実装が進む可能性が高いですが、配送ロボットが低層マンションの2階、3階まで階段を上がっていけるのかとか、玄関口で手渡しできるかというと実際は難しい。特に郵便では信書は個別配達が基本なので、ロボットで代替するにはまだ時間がかかると見ています」と西嶋氏は語る。

ドローンや配達ロボット以外にも同社では、配達員に携帯端末を持たせて軌跡データを蓄積することでルートの最適化を図ったり、建物内での移送に無人搬送車(AGV)を活用したり、拠点間輸送に自動運転やAIダイヤグラムを導入する検討が進んでいる。配送については、2030年までには中山間地域での自動化が徐々に始まり、都市部の新築の集合マンションでは配送の自動化も徐々に始まる可能性がある。拠点間輸送や配送ロボットの車道上の配送はトラック・普通自動車の自動運転の進展に伴い実現していくだろう。

聞き手:坂本貴志村田弘美、高山淳/執筆:高山淳)