機械化・自動化で変わる働き方 ―運輸・建設編重量物の運搬、高所作業などを自動化。建築プロセスを進化させ、人とロボットの協働を推進(建設RXコンソーシアム/鹿島建設)

【Vol.1】建設RXコンソーシアム 会長/鹿島建設 専務執行役員 建築管理本部副本部長 伊藤 仁(いとう ひとし)氏

人材不足が懸念される建設業界。業界団体では2025年までに90万人の新規入職者獲得を目標に掲げているが、それでも35万人が不足すると予測され、この部分をロボット化・IT化でカバーしようとする動きが始まっている。技術革新により現場の働き方はどう変わるのか。建設RXコンソーシアムの会長を務める鹿島建設専務執行役員・伊藤仁氏にコンソーシアムの目的や活動状況を聞くとともに、鹿島建設が描く建設現場のビジョンを語ってもらった。

建設業を魅力ある業界に。業界横断で「建設RXコンソーシアム」を結成

建設業は他産業と比べて特殊な業態構造を持つ。発注者から工事一式を直接請け負い、工事全体の施工管理を行うのはゼネコン(総合工事業者)だが、基礎工事や躯体工事、仕上工事といった各種工事はゼネコンや大手サブコンからそれぞれ専門工事業者に振り分けられる。大規模な工事になるほど一次請け、二次請け、三次請けと協力会社も増える。こうした構造から現場で働く作業員のマネジメントが難しく、「屋外作業や高所作業などで作業職場は3K(きつい・汚い・危険)のイメージを持たれがちで、少子化も相まって新たな作業員のなり手が全体的に不足しています」と伊藤氏は指摘する。

さらにゼネコンやサブコンの施工管理者の応募者数も減少している。「理由は作業効率の悪さです。全国の建築面積自体は増えていないのですが、コンプライアンス的な面から例えば配筋検査ではすべての鉄筋をチェックし写真に撮るなど、エビデンスを残す作業が格段に増えました。このままでは施工管理の仕事は煩雑かつ多忙、という印象が定着しかねません。第一に作業員、第二に施工管理者のなり手を確保することが、業界全体の喫緊の課題です」(伊藤氏)

「そのために建設業の魅力と生産性の向上を目指す」(伊藤氏)という趣旨で2021年9月に発足したのが、建設施工に活用するロボットおよびIoTアプリ等の共同開発・技術連携を目的とする共同事業体「建設RXコンソーシアム」である。RXとはロボティクストランスフォーメーション(Robotics Transformation)のことで、ロボットによる作業プロセスの変革を意味する。ゼネコン大手の鹿島建設と竹中工務店、清水建設が幹事会社となり、中堅13社を合わせて16社でスタートしたコンソーシアムは2022年6月現在、ゼネコンで構成する正会員25社、ITベンダーや専門工事業者などの協力会員72社まで拡大している。国内産業としては異例の同業他社との大規模な技術連携となるが、「協調領域と競争領域を区別して、建設RXコンソーシアムでは協調領域の技術開発に取り組みます」と伊藤氏。協調領域とは、どのゼネコンの建設現場でも作業員や施工管理者が共通して行う作業のうち、業界共通で汎用化・低価格化を目指すものを指し、機械化が可能な部分をロボットやITアプリに代替することで就業者の負担を軽減するとともに、開発・製造コストを抑えるのが狙いである。

組織図
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重量物の運搬や高所作業を代替する作業ロボットを開発。市販ツールの活用も検討

建設RXコンソーシアムではテーマごとに分科会を設置して共同研究開発を進めており、現在、9つの分科会が立ち上がっている(図)。重量物を運搬する、汚れた場所を掃除する、高所作業を行う、といった「3Kの解消」につながる開発としては、資材を指定された場所に自動運搬する水平搬送ロボット、作業所廃棄物のAIによる分別処理、タワークレーン遠隔操作システムの機能向上などの取り組みが進んでいる。工事の進行に必要な線や寸法を書き出す「墨出し」も精度の高さが求められることから自走式墨出しロボットを開発した。これらの大半は建設RXコンソーシアムの前身となる鹿島建設と竹中工務店、清水建設の3社技術連携の時点で既に基本的な研究開発が終わっていたもので、正会員のゼネコン全社が共通して使える仕様や規格の統一が今後の検討課題となっている。

vol01_04.jpgタワークレーン遠隔操作システム TawaRemo®

資材の水平搬送ロボット Robo-Carrier(ロボ・キャリアー)資材の水平搬送ロボット Robo-Carrier(ロボ・キャリアー)

一方、新しく会員の提案により結成された分科会が「市販ツール活用分科会」である。ドローンやパワーアシストスーツといった市販製品や技術の情報を共有し、建設現場のニーズに沿った改良を開発メーカーに促すことが目的で、「今までは各社個別に接してきましたが、例えば『1000個単位なら開発しましょう』と言われても1社ではとても賄いきれません。コンソーシアムで共同購入することにより、大量注文ができ、我々が欲しい機能を開発するメーカーをプレゼンによって選べるようになりました。これも共同事業体のメリットです」と伊藤氏は語る。分科会はテーマごとに参加を希望する会員が集まって立ち上げ、相互に共同研究開発契約を結んで共同開発や技術利用を進める仕組み。開発されたロボットやアプリは会員企業が有料で使え、開発費を負担した企業については利用料を低く抑えることで公平性を担保している。

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「現在は協調路線のもと、作業負荷を減らすのに有効で、かつ開発がそれほど難しくないものを優先的に進めています。これはコンソーシアムの目的のうち、働きやすさという点で建設業の魅力向上に資する部分です。もう1つの目的である生産性向上は、就業者の労働時間を減らし収入を上げることですが、残念ながらまだそこまでは至っていません。コンソーシアムの取り組みが生産性向上のフェーズに入った時に、さらなるロボット化・自動化が進んでいくと思います」(伊藤氏)

全プロセスをデジタル化。「鹿島スマート生産ビジョン」によるBIMLOGI®の描く未来

就業者不足への対応や働き方改革実現への道筋を具体的にイメージする手掛かりになるのが、2018年に鹿島建設が発表した「鹿島スマート生産ビジョン」である。労働基準法改正により建設業の残業上限規制がかかる2024年までの達成を目標に策定された。そのコア・コンセプトは、「作業の半分はロボットと」「管理の半分は遠隔で」「全てのプロセスをデジタルに」の3つ。
このうち「作業の半分はロボットと」に関して伊藤氏は、「建設業のロボットは移動が必要で、現場の状況が様々に異なるといった点から無人下での操作は難しい。また建築には建具の取り付け、墨出し、搬入など50種に上る作業があり、そのうちロボットの実装が可能なものを洗い出すとちょうど50%でした」と説明する。「建設現場の完全自動化は早くても2030年から2040年以降になると見ているので、それまでは従来作業員3人で行っていた作業を『2人+1台』といった形で省力化を図ります。とはいえ、ミリ単位の緻密な作業が必要なのでこの部分が最も難しい。一方、『管理の半分は遠隔で』は、ITの活用によりほぼ達成されています」(伊藤氏)

床コンクリート仕上げロボット NEWコテキング®床コンクリート仕上げロボット NEWコテキング®

vol01_08.jpg自動溶接ロボット Robo-Welder(ロボ・ウェルダー)
「全てのプロセスをデジタルに」については、BIM(Building Information Modeling)を活用している。BIMは建造物の3Dモデルをコンピュータ上に再現し、部材や性能情報などの属性データを付加した建築プロセスのデータベースであるが、「我々はそこに工程とコストを加えて、『5D』と呼んでいます」と伊藤氏。鹿島が開発したBIMLOGI® では、建物を構成する一つひとつの部材に個別IDとQRコードを振り、図面を承認した日時、工場での生産や検査を行った日時などを読み込ませることにより、効率的な現場搬入を可能にした。現場では作業状況がリアルタイムに確認できるので、工程管理も容易になる。

BIMLOGIRによる工程管理BIMLOGI®による工程管理

「現在はモデル現場にしか導入していませんが、10年経たないうちには標準化されるでしょう。鹿島建設では既に設計図をBIMで書き始めています。そうなるとすべての生産・施工プロセスが一気通貫でデジタルにつながります。既にシステムはほぼ完成していますが、データ形式の統一や積算の制度化などの課題があり、この部分を鹿島・竹中・清水による『BIMコンソーシアム』で検討するとともに、建設RXコンソーシアムの『生産BIM分科会』では会員が共有できる仕組みを議論しています。これが実現すれば革新的な省力化が期待できます」(伊藤氏)

差別化手段として作業現場のIT化を各社が競い合う

ここまで伊藤氏の言う「協調領域」の取り組みについて見てきたが、では「競争領域」の機械化・自動化はどのように進んでいるのか。「競争力を生み出すのは品質とコスト。このうち施工品質の担い手である建設作業員については、その地位向上に向けて国土交通省の『建設キャリアアップシステム(CCUS)』を活用しています」(伊藤氏)。CCUSとは技能者が技能・経験に応じて適切に処遇される建設業を目指して、技能者の資格や現場での就業履歴等を登録・蓄積し、能力評価につなげる仕組み。2019年から運用を開始し、登録技能者数は2022年5月末現在で約90万人に上っている。

就業履歴を記録するためにはゼネコン側も事業所登録およびCCUSカードリーダー等のシステムを整備しなければならない。そこで鹿島建設ではスマートフォン搭載用のカードリーダーを全現場に導入するとともに、顔認証システムを通した入退場の記録をCCUSにリンクするシステムを構築した。また、現場ごとに作業員に渡す鹿島建設用のスマートフォン「K-Mobile®」を開発。オンラインで朝礼を行う、許可のないSNS投稿などを防止する、BIMLOGI®のQRコードが読める、といった機能のほか、Kモバイルをビーコンとして、危険箇所に近づくと警告音が鳴る接近アプリ、作業員や資材の位置がわかる3DKフィールドアプリを連動させて安全管理を行っている。
「あらゆる作業において安全性や効率性の追求に努めることで、人力による作業の質が上がり、作業員の評価や地位の向上につながります。鹿島の現場が群を抜いて働きやすいとなれば、作業員の声に応えて協力会社も当社の案件を優先させる。ここは明らかに競争領域だと考えています」(伊藤氏)

伊藤氏こうしたIT化は、遠隔システムやBIMLOGI®を通して現場に行かなくても進捗管理ができるという点において、施工管理者の負担の軽減にもつながる。また施工管理者の仕事は大きく「管理」と「検査」に分けられる、鹿島では検査と同時に進捗状況を表示するソフト開発も進めている。
なお施工管理者や作業員のほかに、「重機オペレーターについてはクレーンだけでなく、建設重機はすべて遠隔操作が可能と見ているので人員確保に不安はありません。むしろ若いオペレーターはゲーム感覚で競い合うようになるでしょう」と伊藤氏。「デバイスを使いこなすデジタルネイティブ世代の就業者が増えれば、ロボット化・IT化は加速度的に進行します。その日に向け、建設RXコンソーシアムと鹿島単体の両輪で取り組んでいきます」(伊藤氏)

聞き手:坂本貴志村田弘美、高山淳/執筆:稲田真木子/撮影:飯島裕)