業界の取り組みRMフォース:「座哨警備」の導入で警備員の負担を軽減

株式会社RMフォース 取締役 支社長 中野貴幸氏
株式会社RMフォース
取締役 支社長 中野 貴幸氏

従来の警備業界では、警備員が施設の出入り口などに立って警戒・監視を行う「立哨(りっしょう)」が当たり前だった。一方、東京都新宿区に本社を置く警備会社のRMフォースは、座った状態で業務を行う「座哨(ざしょう)」を導入して注目を浴びている。同社が座哨警備を取り入れた背景や狙い、現状の課題などについて、支社長の中野貴幸氏に聞いた。
(聞き手:坂本貴志)

体力的な負担を減らし高齢者を活用

── RMフォースはどんな企業なのでしょうか。

当社は大型建築や戸建て住宅といった建築現場の警備、駐車場警備、イベント警備などを手掛ける警備会社です。モットーは「すべての人に、安全・安心をそっと届けたい」で、安全・品質・コンプライアンス・コミュニケーションを向上させたいと常に取り組んでいます。また、有給休暇の100%消化や男性警備員の育児休暇取得を推奨するなど、社員が働きやすい環境作りにも積極的です。

─ 警備業界では立哨が一般的とされていますが、御社はいち早く座哨警備を取り入れたと聞きました。

座哨警備を本格的に採用したのは、2024年のことそうです。2020年頃、新宿にある高層ビルの改修工事で管理業務を請け負ったとき、工事作業員の入退出を管理する業務が発生したのです。このとき、警備員は座っていても問題ないのではないかと考え、イスに座って警備を行わせたのが最初でした。

座哨警備を本格的に採用したのは、2024年のことです。埼玉県の医療機関で物品の搬入が行われる際に警備業務を行ったのですが、座って警備しても問題ないかと当社から打診しました。先方は初めてお付き合いするお客さまだったのですが、拒否反応などは全くなく、座哨警備を受け入れていただけたのです。

─ 座哨警備を導入した背景はなんだったのでしょうか。

警備業界には、女性や外国人の採用・定着が難しいという性質があります。女性の場合、やっかいなのは夏の強い日差しで、日焼けを嫌がって夏に退職する女性警備員がとても多いのです。また、警備業務は単純労働に分類されていて特定技能実習生として外国人を採用できないなどの事情があり、外国人警備員を増やすことも簡単ではありません。

そこで注目されているのが、高齢者の採用です。厚生労働省が実施している「全国安全週間」の2020年度スローガンは「エイジフレンドリー職場へ! みんなで改善 リスクの低減」でしたが、当社でも「エイジフリー」という方針を掲げ、高齢者でも活躍できる仕組みを整えようとしています。その一環が、座哨警備の導入なのです。高齢の警備員にとっては、立哨より座哨のほうが体力的な負担がずっと少ないですから。

─ やはり、座哨警備のほうが立哨より楽なのですね。

その通りです。埼玉県の医療機関の案件では63歳の警備員が4日連続で勤務したのですが、立哨よりはるかに疲れが少なかったと言っていました。

仮に、体力的に立哨の場合は週3日しか働けない人が座哨なら週4日働けるとしたら、それは週1日勤務の人を新たに雇ったのと同じことです。その分、採用コストや教育コストは削減できるでしょう。また、座哨警備という目新しい働き方をアピールすることで求職者の注目を集め、採用力が高まるという効果も得られています。

「思い込み」が改革への障壁に

── 座哨警備を実際に導入する際、どんなハードルがありましたか。

警備員の周辺に「座哨警備実施中」という張り紙導入前の段階では、お客さまの反応が一番の懸念材料でした。警備会社や警備員には、警備は立って行うものだという常識がありましたから、座哨警備を取り入れることでお客さまから反発されるのではないかと心配していたのです。特にベテラン警備員の中には、「座って警備をしたら怒られないだろうか」「座哨時の周囲からの目が気になる」と不安に感じていた人が多かったですね。ところが実際にやってみると、お客さまや周囲の人からは実にすんなりと受け入れられ、安心しました。

今後は、警備員の周辺に「座哨警備実施中」という張り紙を出したり腕章を着用させたりして、周囲の理解がさらに進むよう工夫したいと考えています。

── 警備は立って行うものだという思い込みが、座哨警備の妨げになっていたのですね。

そう思います。お客さまである医療機関の方は、「座哨警備でも全く問題ないですよ。だって、わざわざ立って警備する理由なんてないですもんね」とおっしゃってくださりました。警備に対して先入観を持たないお客さまほど、座哨警備への抵抗感が薄いのではないでしょうか。また、外食産業など人手不足に苦労されている業界も、座哨警備のような働き方改革につながる施策を受け入れてくれやすいと感じます。

ところで、当社は警備業界の中でかなり早い時期から、ファンで風を取り入れて身体を冷やす警備服の着用を始めました。これも最初のうちは、ベテラン警備員を中心に「重いし着用が面倒だから、今までの警備服がいい」という拒否反応が出ていたものです。ところが着用に慣れた今では、誰もが涼しいファン付き警備服を手放しません。今は変化の激しい時代ですから、非常識だと思っていた座哨警備も、近い将来、多くの警備会社や社会に受け入れられるのではないでしょうか。もちろん、すべての警備会社が座哨警備を取り入れるとは限りません。立哨にこだわり、それを売りにする警備会社があってもいいと思います。

── 座哨警備を導入する際、法律面の課題はなかったのでしょうか。

その点は当社としても万全を期しておきたかったので、まずは当社を管轄する四谷警察署の生活安全課に確認を取りました。すると、座哨については前例がなく、禁止する法律もないというご回答だったのです。そのため、当社が座哨警備を取り入れても大丈夫ということになりました。

ただしこれは、建物や駐車場といった場所で警備を行うケースに限った話です。埼玉県の医療機関で座哨警備を本格導入したときも、警備員が医療機関の敷地内で警備業務を行ったので問題はありませんでした。しかし、道路工事の現場などで交通警備を行うときには、道路交通法に従わなければなりません。同法には「何人(なんぴと)も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない」という一項がありますから、警備員が使用するイスがこの「交通の妨害」に該当するのかどうかを、現在、四谷警察署の交通規制課に問い合わせているところです。

座哨の拡大が働き方改革の一助に

── 今後、どのような場で座哨警備を展開する予定ですか。

現時点では、道路上で交通警備を行う際にイスを使うのは難しいと考えています。そこでまずは、敷地内だけで行える駐車場警備などの分野で座哨警備を導入する方針です。

── 座哨警備は広がっていくと考えていますか。

私たちは広げていきたいですし、広がっていくとも思います。現状の交通誘導警備員は、国土交通省が実施する検定に合格した「交通誘導警備員A」と、それ以外の「交通誘導警備員B」とに分かれています。これらに加え、「座って警備に従事する『交通誘導警備員C』」が設置されるなどの形で、いずれ座哨が公的に認められるといいですね。

また、警備業界で座哨が当たり前になると、他の業界にも良い影響が広がると私は考えています。たとえば、ガソリンスタンドの店員は今、来店客がいない時間帯にも立って待つのが当たり前になっています。でも、警備員が座っている風景が普通のものになると、ガソリンスタンドでも座って待機するのが当たり前になるかもしれません。

── なるほど、警備業がきっかけとなり、人々の働き方が良い方向に変わればと願っていらっしゃるわけですね。

はい。その結果、高齢者や女性がもっと働きやすい世の中になれば、いろいろな業界の人手不足が解消されるかもしれませんね。

(参考)座哨警備を経験された警備員の方の声

── 座ってみてどうでしたか

座ってみて思うことは、仕事の依頼主から見た印象も心配ですし、道路を通行する近隣住民の方からの印象も心配な気持ちはあります。立っていれば、高齢の女性から「大変ね、立ってる時間が長くて」なんて声をかけてもらえることもありますけど、座っているとそういうこともないので。座って何やってるんだ?という目で見られるのが少し不安です。

ただ、体は間違いなく楽です。ずっと座りっぱなしだと疲れますが、自由に立ったり座ったりできるなら、体の負担は少なくて済みます。いま感じている不安も、たとえば、「入り口から人が入るときだけは立ってくださいね」とか「トラックが出入りするときは立ってね」など、立たなければならないタイミングを具体的に指示してもらえれば、逆に、指定がなかったタイミングは座っていいんだと安心できますね。

(執筆:白谷輝英)