社内フリーランスという選択 ~プロ人材の業務委託は拡がるか~Vol.4 株式会社東京海上日動キャリアサービス

ミドルシニアの活躍を伴走型で支える 新しい人材サービス「プロドア」の挑戦

経営課題を解決できるプロ人材に業務を委託

総合人材サービス会社の東京海上日動キャリアサービス(以下、TCS)は、20207月よりミドルシニア層を対象とする新たな人材サービス「プロドア」を開始した。「あえて“ミドルシニア”と表現したのは広く50代中盤以降を対象としているからです。ビジネス経験が豊富で専門スキルを持ったプロフェッショナル人材(以下、プロ人材)の新しい働き方を実現する事業です」と語るのは、同サービスを統括する執行役員の布谷孝之氏。「新しい働き方」とは雇用でも人材派遣でもなく、「プロドア」を介した業務委託のことである。同事業の背景を布谷氏はこう語る。

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50代中盤以降というと役職定年を迎えて働き方は変わらないのに収入が減少し、モチベーションが著しく低下する人が多い時期です。私たちは年齢に関係なく、やりがいを持って働き続けられる仕組みを構築したい。一方で、当社でも60歳以上の求人案件に応募者が殺到するなど働く側のニーズはかなり高いものの、雇用形態がネックとなりマッチングが難しい。『雇用』にとらわれず、自由な発想で働き方をデザインしないと事業発展性がないと考えました」

プロドアでは経営課題を抱えた企業から業務を受託し、プロドアに登録したプロ人材に業務を再委託する形で企業と人をつなぐ。ポイントは、プロドア自体も業務の受託者として、「経営課題を解決できる人材」のマッチングに顧客企業から従来以上の精度を求められることである。そのため、専任メンター制度を導入して企業とプロ人材の相互理解を深め、最適なマッチングを図るとともに、プロ人材には課題抽出作業やマインドリセットといった実践型のリカレント研修を行う。さらに専任メンターは、定期的なミーティングを通して業務の進捗状況を確認し、適宜フォローする。「伴走型といいますか、プロ人材と一緒に経営課題の解決に取り組むのが事業の特性です」と布谷氏。他には登録希望者の面談や登録者への教育、企業へのオファーなど、多くのプロセスをデジタル化して効率化を進めていること、またサービスにかかる費用や手数料を受入企業と登録者の双方に開示し、透明性を確保していることがプロドアの特徴といえる。

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自慢話は厳禁。プロジェクトのサポーターとして意識を変える

これまでプロドアが請け負った「経営課題」は、新規事業の立ち上げ、スタートアップ企業の業務フローの構築、中小企業の事業継承における後継者のサポートなど多岐にわたる。多くはプロジェクトを支援する形で関わり、立場としてはコンサルタントだが、プロジェクトが進行する過程でハンズオン的に関与することも多い。「例えば『社員の離職率を下げる』という経営課題では、採用面接に立ち会う、研修の講師を務めるなど、施策の提案に留まらず具体的に動くことも珍しくありません。新製品のブランディングでは、マーケッターとして市場調査を行うこともあります」と布谷氏。人事や企画といった経験のある登録者が重宝されているのだが、特にIT戦略に強い人は引く手あまただという。

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クライアントは外部企業や東京海上ホールディングスのグループ会社の他、TCS自身が登録者に業務委託するケースも多く、社内の各部門で盛んに活用されている。特に就職活動中の大学生をサポートするキャリアカウンセリング業務では、シニア世代が長年培って身につけた「人を見る目」への信頼感から、キャリアカウンセラーとして多くの登録者が活躍している。

初期の登録者でありシニアコンサルタントとして幅広く活躍する、現在66歳の鶴田俊作氏は仕事の進め方をこう語る。「プロジェクト型のコンサルティングの場合、タスクの基本パターンはおおむね半年間。最初の1か月はヒアリングを通して業績や経営状況などを把握し、2か月目に課題を定めてプランニング、残り4か月でPDCAサイクルを回しながら実践します。私自身が顧客企業に行くのは月2回程度ですが、プロジェクトメンバーに的確な指示を行うには入念な『予習と復習』が必要なので、その準備も含めると妥当な回数です」。もちろんプロジェクトが佳境に入れば出社回数も増えるが、多くは経営課題が整理されていない状況の中で「選択と集中」の方向性を示し、望ましい成果達成を後押しするのがプロ人材のミッションだという。

鶴田氏は大手自動車メーカーに長年勤め、営業本部で企画・マーケティングを担当。ディーラーの経営指導にもあたってきた。経験豊富な鶴田氏だが、「社員時代に得たものを活かすだけでなく、知見が錆びつかないよう常に最新のビジネス事情をキャッチアップしています」と自己研鑽も怠りない。「知的好奇心を失わない若々しさや、上から目線ではないコミュニケーション力、双方が納得する交渉力など、専門スキルは当然として最後には“人間力”の高い人が、プロ人材として最もマッチングしやすいようです」と布谷氏も言い添える。鶴田氏は他のシニアコンサルタントの教育も行っており、「現役時代の自慢話は厳禁。部下に対するような物言いもタブーで、プロジェクトメンバーのことは大いに褒めてモチベーションを上げるよう伝えています」とポイントを語る。こうした「気づき」を得られるかどうかがプロ人材として通用するかどうかの分かれ目だという。

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委託業務の内容は広がる一方。地方創生事業にも関与

プロドアのスタートからまだ数か月。登録者数は現在200名前後だが、「まずは一件一件、きめ細かくその人ができることを評価してマッチングの精度を高めることが優先。小さく産んで大きく育てるのが事業のコンセプトです」と布谷氏。なお登録者の最高齢は72歳で、現在TCSの社内業務を委託。「大局的には少子高齢化が進む中、シニアのパワーで若い世代を補完していただくことも狙いの1つです」と布谷氏は語る。

一方、委託業務の領域は東京海上グループの広範なネットワークを活かして広がり続けており、先日スタートした、(公財)日本陸上競技連盟と協働で日本や世界の頂点に挑む学生アスリートの競技力向上とキャリア自立の両立を図るための「ライフスキルトレーニング」においても、国家資格である「キャリアカウンセラー」を有するベテランキャリアコンサルタントのプロ人材を活用している。

コロナ禍で今はストップしているが、顧客企業の海外進出のサポート案件もいずれ再開する。「登録者には商社やメーカー勤務時代に海外駐在を経験した方がかなり多く、それも当社の強みです。語学も含めて即戦力になります」と鶴田氏。

また東京海上グループとして地方創生にも取り組んでおり、このプロドアの事業自体が中小企業庁の大企業人材等の地方での活躍推進事業補助金の補助事業者となっている。今後は地域経済を支える地方銀行の人材サービスなどにも積極的に関与する方向で動いているという。テレワークが進む現在、地域での採用が難しい金融のエキスパートとして、オンライン・現地訪問を取り交ぜた働き方も可能だ。「人材不足、あるいは人材育成力の不足。“不”はすべてビジネスにつながるので、今後、地方展開には非常に可能性を感じています」と鶴田氏は語る。

「雇用」を望む登録者。求められる意識改革

そんなTCSにとって2021年の改正高年齢者雇用安定法の施行は、業務委託の機運を推進するものとして追い風になるかもしれない。「ただし現場感覚はまだまだ追いついておらず、特に『雇用ではない』ということがネックになりがちです。私は登録希望者を100名ほど面談しましたが、皆さん社員経験者ですから、どうしても(業務委託を)アルバイト的な仕事と見なして敬遠しがちです」と鶴田氏は指摘する。個人事業主の良い点も不利な点も率直に伝えたうえで、TSCの教育・フォロー体制、仕事のやりがいを理解してもらうよう努めている。

ちなみに鶴田氏にとってのやりがいは、「人」に起因する経営課題の解決に貢献すること。「新卒から38年間同じ会社にいて、定年前から社内でしか通用しない人間になりたくないと思っていました。独立して初めて今まで恵まれた環境にいたとわかり、自分の力不足を痛感することも多いのですが、それでも今、前の会社ではできない経験や、任務の大きさにワクワクする毎日です。自分自身を認められる高揚感は会社に勤めていた頃と比較になりません」(鶴田氏)。この言葉が、プロ人材に求められる資質を端的に表している。

03.jpg布谷孝之氏 執行役員 キャリアクリエーション事業本部長(左)

鶴田俊作氏 キャリアクリエーション事業本部 イノベーション×デザイングループ シニアコンサルタント(右)