シンポジウム動画・報告 「つながりの時代ーキャリアの共助が未来をひらくー」【議論】キャリアの孤立を克服する「共助」の可能性

リクルートワークス研究所では、20217月に3日間のオンライン・シンポジウムを開催しました。以下に、7月1日に行った「DAY1 企業社会のゆらぎとキャリアの孤立は「共助」で越える」のパネルディスカッションの動画とサマリーを公開します。

キャリアの孤立を克服する「共助」の可能性(パネルディスカッション)

リクルートワークス研究所 中村天江(以下、中村):雇用の流動化や終身雇用の衰退で、企業と働き手との関係が揺らぐ中、個人のキャリアを支える新たな仕組みとして「共助」への期待が高まっています。今日は日本でいち早く、共助を切り開いてきたお三方にご登壇いただきました。
プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事の平田麻莉さんは、独立して働くフリーランス同士が情報共有し、助け合うコミュニティをつくってきました。
塩澤美緒さんは、三井物産労働組合(Mitsui People Union、以下MPU)で、女性初の委員長を務めています。MPUは組合解散の危機に陥った後、大復活を遂げ、今では組合員から高い支持を集めています。
RCF代表理事で、新公益連盟の理事・事務局長も務める藤沢烈さんは、政府が共助の枠組みとして注目するNPOの世界で長い間、リーダー的な役割を担ってきました。まずお一人ずつ、どんな取り組みをなさっているのかご紹介をお願いします。

キャリア形成に政策提言 コミュニティの持つ多彩な機能

フリーランス協会 平田麻莉氏(以下、平田):フリーランス協会は業務委託や自営、副業を含めたフリーランスのコミュニティです。7月1日時点で有料会員が約8,000人、無料会員は5万人を超えました。フリーランスの共助の仕組みや場をつくる、そしてフリーランスに、コミュニティの重要性を働きかけることなどが活動の柱です。
具体的には、有料会員に各種保険や福利厚生、eラーニングなどのキャリアサポートを提供しています。実態調査と政策提言にも力を入れており、コロナ禍ではフリーランスを対象とした持続化給付金や家賃給付金、職域接種などを実現しました。個人の声は社会に届きにくいですが、協会が拡声器となって声を集め、政策に反映させようとしています。

三井物産労働組合(MPU) 塩澤美緒氏(以下、塩澤):三井物産労働組合は、経済成長が鈍化してベアの機運が低下すると、求心力を維持できなくなり、2012年、執行部に人が集まらず解散寸前の状況に追い込まれました。
このため2015年以降、労働組合の存在意義の再定義に取り組み、アンケートなどの「データ」を活用して組合員のニーズを明確化しました。その結果、自律的にキャリアを築き成長実感を得ることが、仕事へのエンゲージメントを高めることが分かり、キャリア支援に活動を広げました。
社員の希望で異動できる、ブリテンボード制度の活用を経営側に提案して実現したほか、昨年からは執行部の専従メンバー6人が国家資格を取得し、組合独自のキャリアコンサルティングも始めました。利用者に好評で、社内から資格者を募って受け入れ体制を拡大しています。

RCF・新公益連盟 藤沢烈氏(以下、藤沢):RCFは東日本大震災以降、主に災害復興支援に取り組んできました。私自身はコンサルティング会社から2000年代前半にNPOに転身し、今年から福島県の移住支援事業の現場責任者も務めています。官僚や企業出身者の多い公的事業のトップに私が任命されたのは、NPOが社会課題解決の専門家として認識され始めたことの表れだと思います。
多様なセクターや業種、地域の人とつながれることがNPOの特長です。RCFの活動を通じて能力を発展させ、公立校の民間校長や上場企業の役員などに転身するメンバーもたくさんいます。このように、キャリアとしてのNPOの魅力も高まっていると感じます。


内外の枠を超えてつながりを提供 新しい共助の姿とは

中村:共助には、例えば労組なら「鉢巻姿でストライキ」といった、古めかしいイメージも残っています。皆さんの目指す共助と、旧来型の共助の違いはどこにあるのでしょう。

平田:旧来型の共助は、内と外の境界線を引き、内側だけで助け合ってきました。労使関係などに見られるように、外にいる存在は対峙すべき相手か、無関係な「よそ者」でした。
しかし今は個人の帰属が流動化し、境界線の内外を行き来するようになりました。私たちも、境界線を設けないオープンな共助の在り方を目指しています。フリーランス協会が実施しているコロナワクチンの職域接種も、会員に限らず必要な人は誰でも受けられます。
フリーランスの利益だけ主張するのではなく、協会の枠を超えて多様な人とつながり、社会全体の最適解を志向している点も、従来型の共助との違いです。

塩澤:MPUも、闘争より共創を打ち出しています。低成長の時代には会社とパイを奪い合うより、ともにパイを広げる方が組合員の支持を得られると捉えているからです。
また近年、ESG投資の視点からも労使関係に注目が集まり、エンゲージメントを業績の先行指標として重視する経営者も増えています。ともに持続可能な経営を実現するパートナーであることが、労働組合の新しい立ち位置だと思います。
当社は人事部にもキャリア支援の仕組みがありますが、これも競合するのではなく、役割分担だと考えています。転職や異動など、上司や人事部には言い出しづらい内容を、第三者である組合が引き受けるのです。他の労働組合にも、キャリアコンサルティングの取り組みはお勧めしたいです。

藤沢: NPOは新旧ではなく団体の性質によって、地域で支え合いの場を提供するコミュニティ型と、専門性を備えたプロフェッショナル型に分けられます。
キャリア形成につながるのは主にプロフェッショナル型ですが、国内に5万ほどあるNPOのうち、専門性を持つ団体は1,000程度に留まり、受け皿は圧倒的に足りません。この5倍、10倍はあっていいと思います。
ただ昨今、オイシックス・ラ・大地の髙島宏平代表取締役社長など、起業家やベンチャー創業者が私財を投じてNPOを立ち上げています。ビジネスの領域で、NPOと競合するような組織が生まれ、健全に競い合うことが業界全体の底上げにつながると期待しています。
またNPOの活動を広げるには、社会の共感が不可欠です。人々の移ろいやすい共感を捉えるには、災害支援など注目を集めるタイミングを逃さずに、SNSなどで迅速に情報発信する必要もあります。

あなたは一人じゃない 選択肢は多いがシビアな社会を、共助で生き抜く

中村:人々が、共助のコミュニティに参加する意義は何でしょう。

塩澤:人生100年時代を迎えて職業人生が延び、独立や転職など働き手の選択肢は広がりました。半面、選択肢が増えたゆえの悩みも生まれています。
キャリア相談に来る組合員の中には、転職情報に比べて社内の情報が少なく「一人ではどうすればいいか分からない」という悩みを抱える人も少なくありません。だからこそ、社内外を問わず、キャリアに寄り添い一緒に考えるという組合のニーズが高まったのでしょう。
私たち組合側も、MPUへの通称変更などで組織をリブランディングし、イメージを変えて多くの仲間を巻き込む工夫をしてきました。特に、コロナ禍ですべての会議がオンラインに変わり、子育て中の女性らも参加しやすくなったと思います。

平田:個人が自立したキャリアを築くには、生涯、自己研鑽し成長し続ける努力が求められます。しかし「自立」は「孤立」を意味するのではありません。このシビアな世の中で自立するにはなおさら、励まし合い切磋琢磨する「共助」が必要なのです。
当協会はコロナ禍で会員が急増しましたが、これも苦しい時ほど、人々がつながりを求めたためだと思います。
共助のコミュニティは、他人に言われて加わるのではなく自らの意思で参加してこそ、大きなリターンが得られます。このため協会では「勧誘」ではなく、フリーランスに役立つ情報発信を通じてコミュニティのメリットを理解してもらい、個人の自己決定を促しています。

藤沢:被災者や被災企業は社会関係資本、つまり「つながり」が多いほど、情報やチャンスを得て早く復興します。個人のキャリアも同じで、社会関係資本を持つことで変化への対応力が高まり、新たな挑戦や協業、成長の道が開けます。
これは個人的な意見ですが、多様なつながりを求めてNPOに参加するなら、自分のキャリアと無関係な活動に飛び込んでみては。プロボノで自分のキャリアを生かす方法もありますが、参加できる領域が狭まる側面があります。ゆるく気楽に、興味を持った団体にボランティア感覚で関わることが、結果的に手持ちの関係性と異なる人間関係をつくれるのです。

社員は企業の所有物ではない。積極的に社会へ送り出して

中村:最後に、人々が共助に参加する「最初の一歩」をどう踏み出せばいいか、アドバイスをお願いします。また社会や企業への要望もお聞かせいただけますか。

平田:受験や就職活動など、子どもの頃から競争にさらされている日本社会では、キャリア形成も自己責任で行うものと思われがちです。幼少期から教育を通じて、学び合って成長する体験を重ね、キャリアにおける共助の良さを体感できるような社会になってほしいです。
また、社員が副業やボランティアに取り組むためには、時間も必要です。企業は社員を所有物のように考えず、社外活動に参加しやすい風土をつくってほしいと思います。

塩澤:経営側には、合理的であれば労働組合の提案を受け入れる度量を持っていただきたいです。要求が経営に反映されることで、組合執行部に人が集まりますし、経営側に闇雲に反対するような「抵抗勢力」にならず、win-winの関係を築けます。
また組合に興味を持った人は、まず自分の課題感や意見を、周囲に発信してみてはいかがでしょうか。声を上げれば誰かの目に止まり、参加の糸口になると思います。

藤沢:企業は積極的に、社員が社会に関われる場を設けてほしいですね。本業も大事ですが、NPOや地域社会など「外」の世界とつながることが社員の視野を広げ、自らのキャリアを改めて見直すことにもつながります。
NPOは難度の高い専門的支援も担っているので、関心がある人は学生インターンなどで若いうちから関わり、仕事の内容を理解してもらうのが理想的。ミドルシニアならこれまでの仕事をアンラーンし、全く別のキャリアとして関わってほしいです。

執筆:有馬知子