研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.4男性は結婚すると家事をしなくなるのか?──孫亜文

女性の方が結婚後の家事関連時間は圧倒的に長い

総務省の平成28年社会生活基本調査によると、家事関連時間(家事、介護・看護・育児・買い物)の男女差は、この20年間で縮小している(図表1左)。男性で微増しているだけでなく、女性でわずかに減少していることがわかる。しかし、男女配偶関係別に家事関連時間をみてみると、男性では有配偶の方が未婚よりも20分長いのに対し、女性では約4時間長い(図1右)。結婚すると家事の多くを妻が担っていることがわかる。

図表1 男女別および男女配偶関係別の家事関連時間の推移(平成28年社会生活基本調査)housework-and-time.jpg出所:総務省「平成28年社会生活基本調査」結果の概要
注:図は報告書の数値を用いて筆者が作成している。(画像をクリックすると拡大します)

同じ働き方をしていても女性の方が家事時間は長い

日本では男性の方が平均的にみて長く働いているため、必然的に女性の家事時間が長くなっている可能性はある。しかし、時間面では同等に働いている共働き家庭に着目し、夫婦の週あたり家事時間の差を分析した研究によると、それでも10時間程度の差が夫婦間に生じることがわかっている(『仕事と家族』(筒井淳也2015))。同著では、夫婦間の家事時間格差を生んでいる原因は、男女の家事に対するスキル差と希望水準の不一致であると指摘している。たとえば、妻の方が夫よりも家事に対するスキルがあり、短時間で終わるならば、妻の方が家事を多く担うかもしれない。また、夫の方が妻よりも家事の品質を重視し、妻に質の高い家事を求めたならば、妻の家事時間は長くなるだろう。ここでは男女間の家事に対するスキル差に着目して、夫婦間の家事時間格差をみていく。

夫婦間の家事時間格差が一般的になっている現代では、家事をしない男性とは結婚したくないと考える女性も多いだろう。では、ある程度家事スキルがある男性と結婚すれば、結婚後の家事時間格差はなくなるのだろうか。

これを検証するために、リクルートワークス研究所が約5万人を対象に毎年行っている大規模パネル調査『全国就業実態パネル調査』を用いて、ある程度家事スキルがある男女について、結婚前後の家事時間の変化を比較した。仮説通りであれば、家事スキルが同じ男女では、結婚前後の家事時間の増減幅が同じになるだろう。同調査では家事スキルに関する調査項目が含まれていないため、同居家族を用いて識別する。誰しも一人暮らしをしていれば、多少なりとも家事スキルが磨かれると考えられる。そのため、一人暮らし(結婚前)から配偶者・パートナーと暮らす(結婚後)ようになった男女に着目することで、家事スキルを持っている男女の家事時間が結婚前後でどう変化するのかを疑似的に比較できる(※1)。

家事スキルがあっても家事時間格差がなくなるわけではない

それでは、結婚前後の男女の家事時間の変化をみてみよう(図表2)。一人暮らし男性の結婚前の家事時間は、働いていた日で85分、休日で104分と1時間を超えていることがわかる。一人暮らし女性(働いていた日は93分、休日は147分)と比べると、働いていた日では8分と大きく違わないものの、休日では43分も差がある。一人暮らしであっても女性の方が長く家事をしているようだ。
結婚後の家事時間をみてみると、男性では、働いていた日で7分減、休日では2分増と結婚前とあまり変わらない。一方、女性では、働いていた日でも休日でもある程度増加している(働いていた日は43分増、休日は36分増)。

図表2 結婚前後の家事時間とその増減(平均値)son02_2.jpg出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017、2018、2019」
注:増減(分)は、個人ごとに増減を算出し、その平均を取っている。表中の結婚前(分)と結婚後(分)との差ではない。

女性の場合、子育てを視野に入れ、結婚を機に短時間勤務に切り替えるケースもある。そこで、男性と働き方の条件を合わせるために、正社員に限定した場合の結果をみてみた(図表3)。結婚前の家事時間は男女ともに図表2と大きく変わらず、女性の方が多少長いことがわかる。結婚後の家事時間の変化をみてみると、男性では、働いていた日は11分減、休日は5分増と、これも図表2と大きく変わらない。女性では、働いていた日は22分増と図表2より増加幅は小さくなっているものの、男性と異なり正社員であっても結婚後に家事時間は増えることがわかった。

図表3 結婚前後の家事時間とその増減(本人が正社員である場合)son03_2.jpg出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017、2018、2019」
注:増減(分)は、個人ごとに増減を算出し、その平均を取っている。表中の結婚前(分)と結婚後(分)との差ではない。

家事分担は本人だけでなく配偶者・パートナーの働き方も重要になってくる。そのため、配偶者・パートナーも正社員である場合に限定した結果もみてみよう(図表4)。すると、男性では働いていた日の家事時間が13分増、休日が14分増と、配偶者・パートナーの働き方を限定しない場合(図表2と図表3)と比べて、結婚前後の増加幅が大きくなっている。家事時間そのものは、依然として女性より短いものの、男女間の差は確実に小さくなっていることがわかる(※2)。

図表4 結婚前後の家事時間とその増減(本人と配偶者がともに正社員である場合)son04_3.jpg出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017、2018、2019」
注:増減(分)は、個人ごとに増減を算出し、その平均を取っている。表中の結婚前(分)と結婚後(分)との差ではない。

妻が同じような働き方をしていれば、夫の家事時間は比較的長くなることがわかった。しかし、家事スキルをある程度持っている男性でも、結婚後夫婦で同じだけ家事を分担するようになるとは限らない。夫婦間の家事時間格差を改善する道のりは、まだまだ遠そうだ。

(※1)また、同調査では家事育児時間のみを聴取しており、家事時間と育児時間を明示的に識別できない。そこで、同居家族に子どもを含めない一人暮らしと配偶者・パートナーのみとの同居に限定することで、育児時間を除いた家事時間と定義する。
(※2)観測数が少ないため、参考値とはなるが、配偶者・パートナーが非正社員として働いている場合の正社員男性について家事時間の変化をみてみると、50分減と大幅に減少していた。