研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.4「自分が」生き生き働く方法、知っていますか?──辰巳哲子

働く人の「気持ち」や「意識」をないがしろにした働き方改革に対する不満

近年の働き方改革の影響で、少しずつではあるが、長時間労働者の割合は減ってきている。しかし、働く人の約半数が「働き方改革」に不満を感じているというデータがある。

不満の内容は例えばこのようなものだ。
「早く帰れと言われるため、仕事が終わらない」(=「私は」終わらせてから帰りたい)
「仕事をする時間が減り、仕事で能力、スキルを磨く機会が減ってしまう」(=「私は」スキルを磨く機会がたくさん欲しい)

たとえ労働時間が減ったとしても、それが「会社が決めたルールに、働く側が一律で従う」結果であった場合、どうしてもこのような不満を生み出してしまう。

人にはそれぞれの「得たいもの」「自分にとってフィットする環境」そして「自分ならではの働きがい」がある

2017年にリクルートキャリアが正社員で働く1267名に実施した調査では、「何らかの得たいものがあり、勤務先や転職先に対して勤務条件を交渉した人」に対して、どのようなものを「得たい」と考えたのかを尋ねている。

「入社以来一貫して現在の職種であるため、将来の自分の市場価値縮小を防止するために、社内の別部署も経験したい」
「社内勤務と遜色のない範囲で、在宅ワークしたい」
「パラレルキャリアを実現するためのスキル習得時間を得たい」
「趣味の時間を増やしたい」
「海外勤務の機会を得たい」
「専門性にあった職務を担当したい」
「親の介護に時間を割きたい」

人にはそれぞれの「得たいもの」「自分にとってフィットする環境」があり、このような個人の交渉と、それを受け入れる企業の変容によって、真の「働き方改革」が進んでいくだろう。

放置されてきた「働く意識」の問題

このように「働き方改革」を見ても、働く人の「気持ち」や「意識」がないがしろにされがちな現状がうかがえる。
「仕事のやりがい」について尋ねた内閣府「国民生活選好度調査」(2008)をみると、「仕事のやりがい」について、「十分満たされている」「かなり満たされている」を合計した割合は、1981年をピークに1999年まで下がり続けており、2008年はやや持ち直したが18.5%とピークの状態(31.9%)からは程遠い。さらに、仕事から達成感や充実感を得られているのは3割に過ぎないことが明らかになっている。
https://www.works-i.com/project/ikiiki/fact/detail001.html
下がり続ける仕事のやりがい…達成感や充実感の低さ…。個々人のモチベーションに関する問題は、40年近く放置され続けたままである。

「私は」どうすれば生き生き働けるのか

それぞれの「得たいもの」「自分にとってフィットする環境」そして「自分ならではの働きがい」は、極論だが自分で掴むしかない。
では、「私は」どうすれば生き生き働けるのか?
そこで、「生き生き働く」ためのヒントについて、多様な分野の研究者にインタビューを試みた。この原稿を書いている時点で既に公開されている、社会脳、ワーク・エンゲイジメント、ギリシア哲学、脳科学、文化心理学の専門家の方たちのインタビューから、いくつかヒントを得てみたい。

専門家が語る、生き生き働くためのヒント

●「社会脳」の藤井氏((株)ハコスコ代表取締役社長)は、職場の関係性が固定化されて抑圧的な状態が続くと、生活でも抑圧されてしまうため、「職場の関係性をリセットする場や習慣をもつ」ことが大事だという。
●「ワーク・エンゲイジメント」の島津氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)は、いい仕事をすると、それが家庭円満につながり、家庭が円満なことはいい仕事につながるとし、仕事と家庭、双方向の「流出効果」を活かすことが「生き生き働く」ことにつながるという。
●「ギリシア哲学」の荻野氏(上智大学文学部哲学科教授)は、幸福は、追求するものでなく、自分の中に発見するものだと言います。そのために、暇つぶしの情報で埋め尽くすのではなく、何もしない時間を大切にすることも必要だという。
●「脳科学」の阿部氏(京都大学 こころの未来研究センター 准教授)は、人はそもそも他者や会社のために働くほうが生き生き働けるという。小さな目標をコツコツ達成させることが、脳の報酬系を満足させるとしている。
●文化心理学の唐澤氏(東京女子大学教授)は、日本人とアメリカ人とでは、幸福の捉え方が違っていて、日本人は、自分だけうまくいっても生き生き働けないという。1つでもいいから周囲の人からの誉め言葉があることが、とても大事だという。

専門家たちの多様な意見からは、自分の「生き生き働く」ヒントが得られそうだ。
「生き生き働ける」人とは?組織とは?~人と組織の探求者の視点に学ぶ~では、今後も専門家へのインタビューを企画中だ。

2019年4月、私たちは「働く×生き生きを科学する」プロジェクトを開始した。プロジェクトでは、多様な個人の「生き生き働く」要素を解明し、どうすれば「私が」生き生き働けるのか、を研究する。研究プロセスは、定期的に公開していく予定だ。