女性役員に聞く昇格の実態女性役員の昇格のメカニズム~むすびにかえて~

日本の女性トップリーダーたちが、いかにして役員クラスに登用されることができたのか。5人※注1の方々の物語 を見ていただきました。“どこが評価され、昇格が現実となったのか”そしてこのストーリーに隠された“女性を役員に登用するために必要不可欠なマネジメントのメソッド”は見出していただけたでしょうか。
明快な答えが存在する課題ではありませんが、最後に筆者の視点※注2で、要因を探ってみたいと思います。

女性トップリーダーの経歴は、ヒットの業績の積み重ねであった

役員への昇格の実態を見てまず気づくことは、常に高い業績を上げていること。業績そのものが評価されていること。このようなとても当たり前の要因でした。しかもその業績は、野球に例えると、 必ずしもホームランだけではなく、むしろヒットが中心であったことは、大きな驚きでした。場合によっては的確なバントや確実な走塁もありました。そこに共通する特徴は、高い能力によってヒットの業績を積み重ねていたことでした。
実は、この積み重ねがさらに重要だと考えています。その背景には、上司から良い打席、つまり最適な機会を与えられていたという事実がありました。仕事をアサインされない限り、ホームランはおろかヒットやバントすらできません。
この二つ目の要因であるアサインについて、役員に登用されるまでの軌跡を追って少し見てみましょう。

着実なヒットを一本で終わりにしない
さらなる仕事のアサインで次のヒットを促す

まずジュニア※注3の段階では、そして、適時に、確実な成果を残してきました。その背景には、彼女たちの、“アサインされる仕事は断らない”という積極性を見ることができます。同時に、上司もまた、“彼女たちは、いかなる業務にも積極的に取り組み、成果を上げてくれる”という前提で機会の提供を行うようになり、両者の相互作用によって途切れることのない仕事のサイクルが出来上がっていたのです。
そのようなジュニアの段階を経て、徐々に、大きな仕事や注目されやすい仕事などが任されるようになります。ここで「○○さんは、ジュニアにもかかわらず、なかなか仕事ができる」という評判が形成されていました。この時期は、決して計画的な仕事のアサインではなく、大きな期待はされてはいないのですが、彼女らの業績を見て、きちんと引き立ててくれる、また機会を与えてくれる上司が存在するのです。
この時期の良い「評判」 は、当然ながら次のステップへのプロモートに効果を及ぼします。良い「評判」の蓄積は、ミドル時期※注3はマネージャークラスへの任用を後押しします。また、この段階では、意図的にサイズや責任の大きな仕事 がアサインされるようになります。チャレンジの機会を最大限生かして、そこで大きな成果を上げることができれば、良い「評判」は拡大し、経営陣の目に留まるようになります。一時的に成果が出せない場合でも、仕事の裁量や難易度の高い業務への取り組みや、 評判の貯蓄効果によって次のチャンスの可能性が高まります。このように、ミドル段階では、アサインに対して、成果を上げることでシニアマネジメント※注3に任用され、幹部候補のリストに名前を連ねていきます。
このように、“仕事のアサイン→業績→評価”が連続で回ることは、ことのほか重要です。
ここに詰まりが生じると、仕事をアサインする前提としての期待の形成に支障が起きると考えることができます。この“詰まり”が何故生じるのか。ここに、一つ目の解決の糸口があると考えています。

マネジメントとは、最適な人材に的確に仕事をアサインすること

さらに、もう一つ仕事のアサインに重要な役割を果たすのは 上司の存在です。直属の上司の場合もあれば間接的な上司の場合もあります。
ストーリーを振り返ると、不採算事業を引き受け、6年の歳月をかけて事業を立て直し中核事業にまで育てた鬼塚氏(ヤフー)。組織の活性化と売り上げの向上という両輪の目標を掲げた鬼塚氏に期待をして任せ、見事に達成したことを適正に評価したのは、上司である社長でした。
ローソンの課題であったオーナーの問題に着手し、外部からの人材と言う立場を用いて、1人のオーナーによる複数店舗のマネジメントという施策を実現することができた大隅氏(ローソン)の場合も同様です。当時の上司である担当役員が、大隅氏に期待して任せたからこそ様々な逆風のなか成果を上げることができました。
偶然にも、二人の例は、役員から仕事をアサインされ、その期待に応えたという典型的な例なのかもしれません。井上氏(東京個別指導学院)や、望月氏(ルネサンス)は組織の規模が比較的小さかったこともあり、ジュニアの時期からすでに、トップによるアサインに業績を上げることで応えてきました。
志斎氏(日本IBM)のケースは、より明確に上司の存在を見ることができます。相当な時間を費やした初の大型案件受注時の上司、まったく畑違いの部署で戸惑った時期の上司、米国本社での勤務が実現した時期の上司など、その時々の上司により、的確な仕事のアサインがなされたのです。現在は執行役員というポジションに就かれています。しかしこれはゴールでしょうか。上司による成果への期待、そして仕事のアサインだと考えると、より納得がいきます。
“仕事のアサイン→業績→評価”が連続で回るためには、それをマネージする上司の存在が必須です。そこで昇格の実態から、上司のとるべき行動を検討してみました。

“仕事のアサイン→業績→評価”のサイクルを回す上司がとるべき行動とは

今回の一連のインタビューを通じて、最も顕著に見られた共通項はジュニアの時期の業績あるいは業績の積み上げであることは先にも触れました。この可能性を多くのジュニアに大量に提供することが重要です。最初のアサインでダメでも、2番目、3番目のアサインを次々と提供できる仕事の設計が重要になります。

ポイント1.ジュニアの時期は、成果を出しうる機会を可能な限り多く提供する
評判の形成にも共通項がありました。社長が名前を知る機会がジュニアの時期に存在していた、つまり評判が社長にまで伝わっていたということです。上司たるマネージャーは、評判形成に役立つチャレンジを提供するとともに、部下である“彼女らの”業績をマネージャー同士の会話の話題にきちんと挙げることも重要になってきます。直接的な指導だけが部下育成の方法ではありません。社内の様々な人たちからの期待の視線を集めることも、重要な部下育成の一環であるのです。

ポイント2.上司は、メンバーの広告宣伝担当者の役割を担う
そして、すべての組織において評価がフェアであるということも、共通項に上げることができました。
評価において、私情を挟まない、個人の属性や性差によるバイアスは排除するといったことは、当然のルールです。しかし、それを厳格に守ることは実は難しいことなのかもしれません。
これは評価だけにとどまりません。現場の上司も昇格を決めるボードも常にフェアであることは、重要な規範となります。

ポイント3.評価時のバイアスは厳重に禁止し、フェアであることを徹底する
以上、インタビューの考察から、上司がとるべき行動を3点抽出しました。言うまでもなく、最低限の必要条件にすぎませんが、実は簡単なことでもありません。やはり、ここには努力が必要なのです。

マネジメントが健全な会社でこそ、女性トップリーダーも創造される

さて、「適切な業績の評価と仕事のアサイン、そしてそれを実行できる上司の存在」が解決の糸口です。と結論付けると、次のような疑問が浮かぶことでしょう。
“それは、女性に限ったことではないのでは”と。その通りです。つまり、女性リーダーを増やすためのまっとうなマネジメントとは、性差にかかわらずリーダーを増やすための施策 でもあるのです。ということは、女性リーダーが生まれない大きな理由は、マネジメントがまっとうではないことを示唆しているのかもしれません。
これまでは、女性リーダーが増えないことに、様々な理由を探し見て見ぬふりをしてきました。しかしもう目をそらすことはできません。なぜなら女性リーダー不足という現象は、マネジメント不全という問題も、日本企業に突きつけているからです。
女性リーダーを増やす。マネジメント不全を解消する。選択肢は決まっています。まずは、3つのポイントの実践から、ぜひ始めてください。

※注1 諸般の事情で6名の予定が5名になった。
※注2 元になる論文では11名のインタビューを分析。
※注3 年齢カテゴリーとしてのジュニア、ミドル、シニアではなく、職位や役割カテゴリーとして区分した。

白石久喜氏 プロフィール

1990年株式会社リクルート入社、2001年よりリクルートワークス研究所にて、定量分析を中心として、リーダーシップ、イノベーション、グローバル等をキーワードに人材マネジメント研究に取り組む。現在は、一般社団法人社会人材学舎で理事・研究員を務めている。