人事戦略を実現する世界の「タレントマネジメントテクノロジー」2023-2024人材の定着、配置、育成を最適化するタレントマネジメントテクノロジー8領域

タレントマネジメントテクノロジーは、従業員のエンゲージメント、配置、評価・測定、育成を実現するシステムである。世界の「タレントマネジメントテクノロジー」コラムでは、「タレントマネジメントテクノロジーマップ1」に掲載されている19領域の中から8領域に着目し、主要なサービス事業者と製品サービスの特徴、ビジネスモデルについて紹介してきた。
最終回にあたる本稿では8領域のプラットフォーム(以下、PF)の特徴やメリットなどの概要をとりまとめた。

  1. エンゲージメント(オンボーディング、従業員リスニング、行動的ウェルビーイング)
    オンボーディングPF」は、新入社員の入社手続きのデジタル化や定型業務の自動化を行い、エンゲージメントを高める。「従業員リスニングPF」は、サーベイなどで従業員からのフィードバックを継続的に収集する。「行動的ウェルビーイングPF」は、アプリや対面でコーチングやセラピーのセッションを提供する。

  2. 評価・測定(労働需要&要員計画、労働力ベンチマーキング&アナリティクス、従業員の生産性向上)
    労働需要&要員計画PF」は、社員の要員計画、プロジェクトの要員計画、店舗の要員計画と人材の最適な配置をサポートする。「労働力ベンチマーキング&アナリティクスPF」は、他社と自社の人材データを比較分析したり、社内のシステムに分散する人材データを一元化する。「従業員の生産性向上PF」は、従業員のPC利用時間やソフトウエア、ウェブサイトの利用状況を可視化し、ゲーミフィケーションのしくみで生産性を高める。

  3. 育成(キャリア開発&サクセッションプランニング、社内タレントマーケットプレイス)
    キャリア開発PF」は、従業員にアプリやPC経由でコーチングセッションを提供する。「サクセッションプランニングPF」は、次世代リーダー候補者の選出をサポートする。「社内タレントマーケットプレイス」は、スキルや興味に基づいてAIが社内の空きポジションやプロジェクト、メンターと従業員とのマッチングを行う。

【図表】2023-2024タレントマネジメントテクノロジーマップから紹介した8領域

ステージ 領域 機能の特徴 メリット
エンゲージメント オンボーディング
  • 入社手続きに関わる業務フローを自動化する
  • 企業文化を紹介する動画や、会社・業界に関するクイズを新入社員に配信する
  • バディの選任や入社30日目のチェックインの実施など新入社員のフォローを促すアクションをマネジャーに提案する
  • 作業の効率化や人的ミスの削減を行う
  • 新入社員を会社や仕事になじませ、早期戦力化させる
  • 配属先の部署やチームによってバラツキがあるオンボーディングのプロセスを統一する
従業員リスニング
  • 従業員クラウドソーシングの機能で、自由回答形式で従業員から意見を広く収集する
  • コミュニケーションツール上でのマネジャーの行動データを自動収集・分析する
  • AIが改善アクションを提案する
  • 従業員の要望や人事課題を把握する
  • 会社の意思決定プロセスに従業員の意見やアイデアを取り入れ、エンゲージメントや会社への信頼度を高める
行動的ウェルビーイング
  • 従業員にメンタルヘルスの不調の予防や治療を目的としたデジタルプログラムを提案する
  • コーチやセラピストをレコメンドする
  • ダッシュボードで従業員のニーズや利用傾向を示す
  • 従業員一人ひとりのニーズに合ったメンタルヘルスケアを提供する
  • メンタルヘルスの不調や症状の悪化を未然に防ぐ
評価・測定 労働需要&要員計画
  • 要員シミュレーションの機能で、昇進や増員を実施した場合の人件費の変化を示す
  • プレディクティブアナリティクス(予測分析)機能で、必要な人員数や離職者数などを予測する
  • AIが曜日・祝日やプロモーションの実施状況などを基に、店舗の来店客数を予測する
  • 従業員のスキルに基づいてシフトを自動的に割り当てる
  • 適正な人件費から必要な人員数を決定する
  • 需要予測の機能により、適切な時間に適切な人数を配置する
  • シフトの自動割り当て機能により、適材を適所に配置する
労働力ベンチマーキング&アナリティクス
  • 社内の複数のシステムから、従業員の属性、スキル、人事評価など人材に関するデータを自動的に収集・分析し、視覚的に表示する
  • 従業員間のコミュニケーションや協働に関するデータを収集・分析し、バーンアウトのリスクなどを可視化する
  • 人材データを一元化し、組織の課題を可視化する
  • 自社と他社のデータを比較分析し、自社の改善点を明らかにする
  • 従業員の離職や生産性低下のリスクを把握し、事前に対策を講じる
従業員の生産性向上
  • 従業員が利用しているソフトウエアやウェブサイトの利用状況を自動的に記録し、生産性レベル別に分類する
  • KPIやタスクの達成状況を数値やグラフで表示する
  • 従業員の稼働状況や業務の進捗を把握する
  • リーダーボードに上位者を表示したり、ポイントを付与したりすることで、従業員の仕事に対するモチベーションを高める
育成 キャリア開発&サクセッションプランニング
  • 育成プランを自動作成する
  • AI が個人の目標やニーズに合ったコーチをレコメンドする
  • 特性やシミュレーションで候補者の適性やポテンシャルを測る
  • リーダー候補者の育成にどれくらい時間がかかるかを予測分析する
  • 従業員一人ひとりに適した能力開発やキャリア形成ができる
  • 客観的なデータを基に次世代リーダーとなり得る候補者を選出する
  • 予測分析により中長期的な視点で育成に取り組める
社内タレントマーケットプレイス
  • プロジェクトに適した人材をレコメンドする
  • プロジェクト完了や異動後に従業員のプロフィールを自動的に更新する
  • 社内の多様な人材の中から適材を発掘・配置できる
  • 社内の人材流動性を高める
  • 外部採用やオンボーディングにかかるコストや時間を削減する

出所:リクルートワークス研究所

右肩上がりで拡大するタレントマネジメントテクノロジーマーケット

タレントマネジメントテクノロジーの市場は右肩上がりで拡大している。DataHorizzon Researchによると、2022年時点で世界のタレントマネジメントソフトウエアの市場規模は79億ドルであり、2032年までに239億ドルに達すると予測されている。

2023年12月にGartnerが米国企業の人事リーダー113人を対象に実施した調査「HR Investment Trends for 2024」によると、企業の28%が「タレントマネジメントの予算を増やす予定」と回答していた。特にパフォーマンス管理、従業員体験の向上と成長、リーダーシップ開発の強化に焦点を当てているようである。
Gartner人事施策調査部門ディレクターのハンネ・ニーバーグ氏によると、企業が人手不足に対処するためには、「スキルギャップの解消や従業員の成長、従業員体験の向上につながる社内タレントマーケットプレイスやAI実装のスキル管理ツールなどへの投資を増やす必要がある」という。

投資家も、従業員の成長や従業員体験の向上をサポートするテクノロジー領域に注力している。WorkTech by LAROCQUEによると、2023年のベンチャーキャピタルによるHRテックへの出資額は、世界全体で48億ドルに達した。出資件数は254件であった。このうち、タレントマネジメントへの出資額は約7億8000万ドル(68件)で、ラーニングやコーチングなどが多くの出資を受けている分野であった。

各領域のサービス事業者が拡充する機能

多くのオンボーディングPFに共通する機能の1つは、入社手続きに関連する業務フローの自動化である。新入社員や従業員へのタスクの依頼や資料の配信などを自動化することで、新卒者などの大量採用時でも業務を効率的に処理できる。
従業員リスニングPFでは、従業員サーベイの結果を基に、具体的なアクションをマネジャーに提案する機能が多くみられた。
また一部の労働ベンチマーキング&アナリティクスPFでは、データに慣れていなくても、対話形式で求めるデータを簡単に探せる生成AI機能を実装し、他社との差別化を図っていた。

会社を取り巻く環境や働き方の変化、労働力人口の減少が進むなか、企業は人材の確保・育成・配置を強化する必要がある。上記のようなタレントマネジメントテクノロジーを活用して従業員のスキルや要望を把握し、多様な個が能力を最大限に発揮できる環境を整えることで、自社の成長を促進することができるだろう。

グローバルセンター
杉田真樹(リサーチャー)