人事戦略を実現する世界の「タレントマネジメントテクノロジー」2023-2024AIで社内公募やプロジェクトと従業員をマッチングし、人材の流動性を向上──社内タレントマーケットプレイス

Internal Talent Marketplacesの代表的なサービス社内タレントマーケットプレイスは、従業員のスキルや興味に基づいて、AIが社内の空きポジションやプロジェクト、メンターとのマッチングを行うシステムである。
従業員のコアスキル(共感力、創造力、問題解決力など)や職務スキル(プログラミングスキルなど)、独自のスキル(チームにもたらす多様な視点やプロジェクトに対する情熱など)といったさまざまなスキルを基に分析するシステムもある。
このシステムを活用することで、企業は人手不足で社外から必要な人材を確保できない、業務内容のミスマッチで離職が起きるという課題を解決できる。また、キャリア形成や能力開発を求めている従業員に対して、社内にどのような機会があるのか、どのプロジェクトやポジションが適しているかといったキャリアパスを提案できる。
AIマッチングの流れは下記のとおりである(図1)。

【図1】AIマッチングの流れ
AIマッチングの流れ社内タレントマーケットプレイスの主な機能は下記の4つに大別される。

  1. AIによるマッチング:従業員と空きポジション、プロジェクト、メンターを適切にマッチングする
  2. AIによるキャリアパスの提案:従業員の目標、興味関心、経歴に基づいてキャリアパスの選択肢を提案する(図2)
  3. 学習や研修の提案:従業員がスキルを向上させるための学習や研修の機会を提案し、スキルギャップを解消する
  4. 人材の検索:プロジェクトリーダー(PL)やマネジャーがスキルや勤務地などを基に社内から適材を検索できる

【図2】AIによるキャリアパスの提案(Fuel50の例)
AIによるキャリアパスの提案(Fuel50の例)

人事にとってのメリット

人材の最適な配置
AIによるレコメンド機能により、社内の多様な人材の中から適材を発掘・配置できる。

市場の変化に迅速に対応
社内から人材を確保し、新規事業などに配置することで、変化する市場に即時対応できる。

採用コストや時間の削減
社内から人材を発掘できるため、外部採用やオンボーディングにかかるコストや時間の削減につながる。

従業員エンゲージメントや定着率の向上
従業員が新たなスキルや経験を身につけたり、メンターと出会う機会を提供することで、従業員のエンゲージメントや定着率が向上する。

各事業者のサービス概要

各事業者のサービス概要は下記のとおりである。

  • Fuel50:AIタレントマーケットプレイス。LinkedInのプロフィールや履歴書の情報とFuel50独自のアセスメントを活用して、従業員のキャリアDNA(スキル、価値観、願望、目標、アジリティなど)を明らかにする。AIが空きポジションやプロジェクトを従業員にレコメンドし、将来就きたい職種名を入力すると、おすすめのキャリアパスを複数提案する。LMS(学習管理システム)と連携して、学習の機会も提案する。従業員は勤務地、事業分野、スキル、職種名などのキーワードで求人を検索することもできる。
  • Paddle、365Talents、Reejig:人材モビリティプラットフォーム(以下、PF)およびタレントマネジメントPF。スキル、職種、興味関心、経歴などを基に、AIが従業員と空きポジションやプロジェクト、メンターをマッチングし、従業員にレコメンドする。PLやマネジャーはスキルや勤務地、職種名などを基にプロジェクトに適した人材を検索できる。
  • Workday:HCM(人材管理システム)。Workday HCMに保存されている従業員のスキルや興味関心などのデータを基に、AIが従業員と空きポジションやプロジェクトをマッチングし、適合度や職務に必要なスキル、従業員に不足しているスキルを示す。プロフィールのスキル情報が不足している場合でも、従業員が持ちうるスキルを推測する機能もある。
  • Phenom:タレントエクスペリエンス管理PF。経歴、スキル、興味関心を基に、AIが従業員と空きポジション、プロジェクト、メンターをマッチングする。「good match(よいマッチング)」や「potential match(マッチングの可能性あり)」といったマッチング度合いを表示し、目標とする職種に就くために必要なステップやスキルを提案する。
  • Pymetrics:アセスメントPF。AIや脳神経科学を活用した12種類のオンラインゲームで従業員のポテンシャルを測定する。経歴やスキルなどの情報も加えて、従業員に合った空きポジションやプロジェクト、スキルギャップを埋めるための講座を提案する。
  • Eightfold.ai:タレントインテリジェンスPF。スキルやラーニングアジリティなどを基に、従業員と空きポジション、プロジェクト、メンターをマッチングする。
  • Spacewalk:タレントマーケットプレイス。ノーコードで自社独自のタレントマーケットプレイスを構築し、数分以内に運用を開始できる。

サービス例

1. Gloat

AIタレントマーケットプレイス。ATS(応募者追跡システム)と連携して、空きポジションの求人情報を自動的にマーケットプレイスに掲載する。スキルベースのアプリケーションでは、従業員が目標とする職務に必要なスキルを身につけるための学習の機会も提案する。また、コーチングPFやeラーニングPF(Udemy、BetterUp、Udacity、CoachHub、Torch、EdCast、Thriveなど)とのシステム連携も行う。
従業員のマイページでは、おすすめのプロジェクトや空きポジション、メンター、オンライン講座、コーチを一目で確認できる。AIがキャリアパスの選択肢を複数提案する機能もある。
PLやマネジャーは、プロジェクトの求人を掲載し、人材のレコメンドや応募者の通知を受ける。人材を検索したり、管理画面でレコメンドされた人材や応募者を確認し、適材を選ぶこともできる。
また、従業員がプロジェクトや講座を完了したり、異動したりするとプロフィールが自動的に更新されるため、PLは従業員の最新スキルを把握できる。マネジャーもチームメンバーのスキルやチーム全体の強みがわかる。
Microsoft Teamsの拡張機能では、従業員がTeams上で上記の情報を確認し、PLやマネジャーはチャットで応募通知を受けることができる。
顧客は、Unilever、PepsiCo、Schneider Electric、Mastercard、Tata Steel、Nestlé、Novartis、Standard Chartered、HSBCなど。

2. Hitch Works

人材モビリティPF。従業員のプロフィールデータを活用して、空きポジションやプロジェクトと従業員をマッチングし、レコメンドする。HRIS(人事情報システム)とのデータ連携により、従業員のキャリアパスを正確にマッピングし、適切なタイミングで異動の機会を提案する。
PLやマネジャーは、プロジェクトに適した人材のレコメンドを受けたり、スキルや勤務地、職種、部署名などを基に適材を検索したりできる。また、応募者の管理や承認を行い、新規事業チームの編成や増員ができる。
顧客はBosch、GE Digital、HERE Technologies、Dolby Laboratoriesなど。

ビジネスモデル(課金形態)

企業がサービス事業者にシステム利用料を支払う
企業がサービス事業者に社内タレントマーケットプレイスを構築・運用するシステムの利用料を支払う。料金体系はサービス事業者によって異なる。

社内タレントマーケットプレイスのビジネスモデル図

今後の展望

パンデミック以降、米国では人手不足や人材の大量離職、急速な事業環境の変化に直面している。これらの問題に対処するため、企業は社内の人材の流動性を高める取り組みを進めている。
Gartnerが2023年に40カ国の人事リーダーやCHRO約500人を対象に実施した調査によると、人事の優先課題のトップ5に「社内の流動性向上」が挙げられており、社内タレントマーケットプレイスに対する企業ニーズが高まっている。Gartnerは、2025年までに米国大手企業の約3割がタレントマーケットプレイスを導入すると予測している。
これまで、社外人材の採用と社内からの人材の確保には、異なるシステムが利用されてきた。しかし、最近ではGloatやiCIMSなど採用管理と社内タレントマーケットプレイスの機能を統合し、社内外の人材を総合的に検索・評価できるサービスが登場している。今後、この2つの機能を併せ持つ事業者が増えると見込まれる。

グローバルセンター
杉田真樹(リサーチャー)