全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2021日本の働き方、3つの進化(3)女性とシニアの就業は促進されたのか? 孫亜文

前々回前回 のコラムでは「働き方改革実行計画」で挙げられた課題「長時間労働」と「正規、非正規の不合理な処遇の差」を取り上げてきた。今回のコラムでは、この10年で上昇傾向にあった就業率(注1) に着目し、女性とシニアの就業促進についてみていく。

女性とシニアの就業率は大きく上昇する

女性とシニアの就業促進は、かねてより重要な政策課題として掲げられてきた。2017年に発表された「働き方改革実行計画」でも、検討テーマ(「女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」「高齢者の就業促進」)として挙げられている。
2015年には、企業内の女性活躍に関する状況や課題と取り組みの公表義務化などを明記した「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が施行され、その後も改正によって強化されてきた。シニアでも、2013年に65歳までの雇用確保の義務化を示した改正高年齢者雇用安定法が施行された。その後もさらなる継続雇用延長等に向けた議論は続き、2021年からは70歳までの就業機会確保が努力義務化されている。

では、2010年以降の女性とシニアの就業率(15歳以上人口に占める就業者の比率)の推移を、総務省統計局「労働力調査」を用いて確認してみよう(図1)。男女別では、男性が67.7%(2010年)から69.3%(2020年)へと微増(+1.6pt)しているのに対し、女性は46.3%から51.8%へと大きく上昇(+5.5pt)していることがわかる。

全体的に就業率が増加傾向にあるなかで、年齢階級別にみると、特に60~64歳の57.1%から71.0%への大幅上昇(+13.9pt)が目立つ。65歳以上のシニアでも19.4%から25.1%へと継続的に上昇(+5.7pt)している。図は省略するが、就業者数でみても、この10年で多くの女性とシニアが働くようになった。

図1 就業率の推移(男女別、年齢区分別、2010年以降)
図3-1 就業率の推移

出所:総務省統計局「労働力調査」
注:e-statより筆者が作成。

女性とシニアの就業が促進されているかをみるには、全体の就業率だけでなく、実際にどれだけの人が就業を継続しており、どれだけの人が新たに働けるようになったかもみていく必要がある。そこで、「全国就業実態パネル調査(JPSED)」を用いて、2016年から2020年にかけての就業非就業の移動状況をみてみた。

どれだけの女性が5年後も働いているのか?

図2によると、2016年に就業者である女性のうち、2020年も就業を継続している人は、88.1%である。男性の93.1%よりは低いが、9割に迫っている。人口規模に換算すると、男性は約3407万人、女性は約2479万人となる。
2016年に非就業である女性のうち、2020年に働くようになった人をみると、20.1%(約585万人)であり、男性は26.2%(440万人)であった。

女性のほうがもともとの就業者数は少なく、非就業者数が多いとはいえ、多くの女性が就業を継続したり、新たに働くようになったりしていることがわかるだろう。

図2  就業非就業の移動状況(男女別、2016年と2020年の比較)図2 就業非就業の移動状況(労働力調査)

注:人口規模は総務省統計局「労働力調査」の各年12月時点の数値を用いている。脱落ウェイトを用いたウェイトバック集計である。

どれだけのシニアが5年後も働いているのか?

つぎに、シニアについてみてみる(図3)。2016年に働いていた60代前半のシニアのうち、2020年も働き続けている人の割合は77.3%であり、人口規模に換算すると約401万人となる。
2016年に働いていなかった60代前半のシニアのうち、2020年に働いている人の割合は8.2%(約23万人)であった。

60代後半のシニアについても同様にみてみると、就業を継続している人の割合は80.9%(約358万人)であり、新たに働くようになった人は6.9%(約40万人)である。

図3 就業非就業の移動状況(60代前半後半別、2016年と2020年の比較)図3 就業非就業の移動状況(60代)

注:人口規模は総務省統計局「労働力調査」の各年12月時点の数値を用いている。脱落ウェイトを用いたウェイトバック集計である。

図表は省略するが、他の年代についても同じようにみていくと、就業を継続している割合は、10・20代では90.4%(約954万人)、30代では94.5%(約1176万人)、40代では95.9%(約1545万人)、50代前半では95.3%(約634万人)、50代後半では88.8%(約532万人)であった(注2)。
※再掲:60代前半は77.3%(約401万人)、60代後半は80.9%(約358万人)

非就業から就業へ移動した割合は、10・20代では68.4%(約550万人)、30代では39.8%(約106万人)、40代では30.7%(約87万人)、50代前半では21.2%(約25万人)、50代後半では14.5%(約22万人)であった。
※再掲:60代前半は8.2%(約23万人)、60代後半は6.9%(約40万人)

他の年代と比べるとシニア層のほうが継続する割合も、新たに就業する割合も小さい。それでも、60代になっても8割近くが5年後も働き続けているということは、シニアの就業が確実に促進されていることの表れではないか。

前2回のコラムでもみてきたように、日本の働き方は着実に進化している。このコラムの集計結果からも、女性やシニアにとって働き続けることができる環境が徐々に整ってきている様子がうかがえるだろう。
女性やシニアに限らず、家事・育児との両立、介護との両立、健康問題との両立など、誰もが希望する働き方を選べるような政策や取り組みが今後も行われ、一人ひとりが生き生きと働ける次世代社会へと進化し続けることに期待する。

(注1)2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で0.3pt減少している。
(注2)50代前半と50代後半に分けている理由として、2016年時点で50代後半である人は、2020年時点では60代前半となっており、定年や再雇用を経験している場合があり、50代前半と状況が異なると予想されるためである。

孫亜文(研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
孫亜文(2021)「日本の働き方、3つの進化(3)」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2021Vol.3https://www.works-i.com/column/jpsed2021/detail003.html