全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2021日本の働き方、3つの進化(2)非正規雇用者の無期転換は進んだのか? 孫亜文

前回のコラムでは、2017年に発表された「働き方改革実行計画」で挙げられた課題の一つ「長時間労働」を取り上げ、長時間労働は是正されたのかについてみてきた。
今回のコラムでは、「働き方改革実行計画」に挙げられた別の課題である「正規、非正規の不合理な処遇の差」を取り上げたい。

非正規の処遇改善にかかわる取り組みが進む

「働き方改革実行計画」の「正規、非正規の不合理な処遇の差」の改善に対する取り組みとして、同一企業内における正規雇用者と非正規雇用者の間の不合理な待遇差を禁止する「同一労働同一賃金の原則」の適用を記した「パートタイム・有期雇用労働法」が2020年4月に大企業を対象に施行された(中小企業は2021年4月に施行)。

非正規の処遇改善は、「働き方改革実行計画」が発表される以前から進められてきた。 2013年4月、有期労働契約が通算5年を超えた場合に無期労働契約に転換できるルールなどを示した改正労働契約法が施行された。この改正法の施行によって、非正規であっても無期労働契約に転換することが可能となり、契約期間の定めがない(無期である)ことで、就業の安定性は向上すると考えられた。

では、法令施行の5年後にあたる2018年以降、非正規雇用者のうち無期労働契約である割合はどれぐらいだろうか。雇用形態の呼称別に無期労働契約である割合をみると、おおよそ1割強であることがわかる(図1)。また推移をみると、いずれの呼称においても2018年以降では増加傾向にある。

図1 雇用形態の呼称別の無期労働契約の割合
図1.雇用形態の呼称別の無期労働契約の割合

注:ウェイトバック集計である(各年のクロスセクションウェイトを使用)。

2016年に非正規で働いていた人のうち、どれだけの人が無期転換したのか?

では、実際に有期労働契約から無期労働契約に転換した人はどれだけいるのか。2016年に非正規かつ有期労働契約で働いていた男女について、2020年も非正規雇用を継続している場合の労働契約の内訳をみてみた(図2)。

男性では2020年に無期労働契約に転換している割合は12.9%、女性では15.4%である。数値そのものは決して大きくないものの、7~8人に1人は無期転換していることになる。男性と女性では、非正規雇用者として働く割合が高い女性のほうが、無期転換が進んでいることがわかる。

図2 非正規の無期転換の状況(男女別、2016年と2020年の比較)

非正規の無期転換の状況

注:2016年と2020年の両年において非正規である人に限定している。ウェイトバック集計である(XA21_P17を使用)。

無期転換が進んでいる業種とは?

では、どの業種で無期転換は進んだのか。厚生労働省では、有期契約労働者の無期転換をサポートするために、事業主・人事労務担当者向けに、モデル就業規則を公開している。現在は全業種共通のモデル就業規則も公開されているが、本格的に無期転換ルールが適用される2018年以前にポータルサイトで公開されたのは、「飲食業(2015年)」「小売業(2015年)」「製造業(2017年)」「金融業(2017年)」の4業種のモデル就業規則であり、企業事例も掲載されている。

2016年に非正規かつ有期労働契約であり、2020年に非正規を継続し、無期労働契約に転換している割合を業種別にみてみると、最も転換割合が高い業種は「金融・保険業」(34.5%)であり、次いで「製造業」(21.3%)が多い(図3)。これらは、本格的な法令施行前にモデル就業規則が公開されていた4業種のうちの2業種である。

本格的な法令施行の前に、事業主が制度の検討や規程を整備するための資料が提供されていることは、事業主の環境整備を促進し、ひいてはこれら業界における無期転換を希望する人の後押しになった可能性もあるだろう。

図3 業種別の非正規の無期転換割合(2016年と2020年の比較)

業種別の非正規の無期転換割合(2016年と2020年の比較)

注:農林漁業・鉱業、建設業、電気・ガス・熱供給・水道業、不動産業は、サンプルサイズが100未満のため、省略している。2016年と2020年の両年において非正規である人に限定している。ウェイトバック集計である(XA21_P17を使用)。

2020年は、新型コロナウイルス感染症の広がりによって、就業を断念する非正規雇用者が増えた。一方で、非正規雇用者の処遇改善に向けた法令(「同一労働同一賃金の原則」の適用を記した「パートタイム・有期雇用労働法」)が施行されるなど一定の進歩もみられている。非正規雇用者の処遇改善のために、今後も政府と企業が一体となって取り組みを進めることに期待する。

孫亜文(研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
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※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
孫亜文(2021)「日本の働き方、3つの進化(2)非正規雇用者の無期転換は進んだのか?」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2021Vol.2https://www.works-i.com/column/jpsed2021/detail002.html