全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2021日本の働き方、3つの進化(1)長時間労働は是正されたのか? 孫亜文

リクルートワークス研究所が2021年7月にまとめた報告書「Works Index 2020」では、日本の働き方の指標であるWorks Indexを用いて、2016年から2020年までの日本の働き方の全体像を通観し、3つの観点で進化したこと、次の5年に向けて新たに3つの課題が残されていることを示した。このコラムでは、3つの進化に着目し、2016年に長時間労働、非正規雇用者、非就業者であった人が、2020年にその働き方がどう変わったのかを、3回にわたってみていきたい。1回目の今回は、長時間労働に着目する。

【3つの進化】
1. 労働時間の短縮化が進む→長時間労働は是正されたのか?(今回)
2. 非正規の処遇改善が進む→非正規雇用者の無期転換は進んだのか?(次回)
3. 女性とシニアの就業の安定化が進む→女性とシニアの就業は促進されたのか?(次々回)

日本の労働時間は短くなっている

2017年発表の「働き方改革実行計画」で挙げられた課題の一つに「長時間労働」がある。総務省統計局「労働力調査」によると、日本の労働時間は年々短くなり、2020年の年間就業時間は1811時間となった。週60時間以上働いている長時間労働者の割合も、就業者で5.6%、雇用者では5.1%まで減少している(図1、今後の最新値は「定点観測 日本の働き方」を参照のこと)。

図1 長時間労働者割合の推移
長時間労働者割合の推移

出所:総務省「労働力調査」
注:2011年は東日本大震災のため、調査未実施。
注:政府目標は2020年に5%以下。

長時間労働であった正社員の労働時間は短くなったのか

では、長時間労働であった人の労働時間はどれだけ減ったのだろうか。2016年に25~44歳であった正社員を対象に、2020年にどれだけ労働時間が変わったのかをみてみよう。
2016年の週労働時間別に、2016年と2020年の差分の分布状況をみると、2016年に週労働時間が40時間以上であった正社員の半数以上は、2020年に労働時間が減っている(図2)。特に月80時間以上の時間外労働に相当する週60時間以上の人では、53.1%もの人が2020年に労働時間が11時間以上減少している。かつての長時間労働者を中心に、労働時間の縮減が着実に進んでいることがわかる。

図2  正社員の労働時間増減状況(25~44歳、2016年と2020年の比較)
正社員の労働時間増減状況(25~44歳、2016年と2020年の比較)
注:2016年と2020年の両年において正社員である人に限定している。ウェイトバック集計である(XA21_P17_Sを使用)。

どのような業務が削減されたのか

では、どのような業務が削減されたことで労働時間は縮減したのだろうか。働く人が従事する業務は、大きく分けると3つに分類される。本来の担当業務で成果と直結している仕事(本来業務)、周辺的な雑務(周辺雑務)、そして待機や客待ちなどの手待ち時間(手待ち時間)である。
かつての長時間労働者である2016年に週60時間以上働いていた正社員について、2016年と2020年の各業務の時間数および各業務の増減率をみてみよう(図3)。2016年から2020年にかけて労働時間が減少した場合では、本来業務だけでなく、周辺雑務と手待ち時間も大きく減少している。特定の業務の削減によって労働時間が減少したわけではないことがわかる。一方で、労働時間が変化しなかった場合と増加した場合では、いずれの場合も周辺雑務と手待ち時間が大きく増加している。長時間労働が続く背景には、周辺雑務や手待ち時間の増加があると考えられる。

図3  本来業務、周辺雑務、手待ち時間の増減率
(2016年に週60時間以上働いていた正社員、25~44歳、2016年から2020年にかけての変化)
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図3  本来業務、周辺雑務、手待ち時間の増減率 (2016年に週60時間以上働いていた正社員、25~44歳、2016年から2020年にかけての変化)

注:2016年と2020年の両年において正社員である人に限定している。ウェイトバック集計である(XA21_P17_Sを使用)。

日本の労働時間は、総じてみると短縮し、長時間労働者割合も減少している。その動きを維持するためには、長時間労働を是正する取り組みを継続していくことが重要だ。たとえば、業務の仕分けを行い、無駄な業務をなくすことで、周辺雑務や手待ち時間を削減し、本来業務の効率化を図ることができる。長時間労働が続くケースや長時間労働になるケースを防ぐためにも、今後もそういった取り組みを続けていくことが求められる。

孫亜文(研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
孫亜文(2021)「日本の働き方、3つの進化(1)長時間労働は是正されたのか?」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2021Vol.1https://www.works-i.com/column/jpsed2021/detail001.html